第10話追跡、盗賊の拠点へ
ぼんやりと、目を開ける。
「ゲフッガフッ……!」
ぼんやりとした意識のまま体を起こすと、思い出したかのように激痛により、強制的に覚醒させられる。
「……死んでないな」
ボソリと呟き、全身の損傷具合を確かめる。
気絶する前と比べると、青いアザや骨が折れているところがあることがわかる。
「気絶したやつの体に向かって暴力振るうのかよ……」
その割には、トドメを刺さないのが少々気になるが、今は純粋に命があることを喜ぼう。
さて、と、八代とレイが倒れていたであろう場所へと顔を向ける。
「ぬ、ぬぅ……」
俺と同じくボロボロになった八代の姿だけがあった。
「おい、八代。起きろ」
八代へと近づいていき、ゆさゆさと揺さぶる。しかし、起きる気配が全くない。
仕方ない……奥の手を使うか……。
「起きろっ!」
「痛ァ!! えっ、なに!?」
八代の頭をぶっ叩くと、飛び跳ねるように起き上がってきた。
「よう、寝覚めはどうだ?」
「最悪の気分に決まっておるだろう……」
げんなりとした態度の八代に視線を向けながら、俺は「残念ながら」と前置きをして話し始めた。
「レイが連れさらわれたっぽいです」
「レイ……? ああ、あの女子か。……え、やばくない? なんでそんなに冷静なの?」
おい、素出てるぞ。
スっと八代を押しとどめるように手を前に出す。
「まあ待て落ち着け。俺たちにはこれがあるじゃないか」
「そ、それは……!」
懐から、とあるものを取り出す。
「方位磁針!?」
「おう、俺お手製のな」
俺の14の秘密道具のうちの一つ。ちょうどグスタフと呼ばれる大男が来る前に、レイに渡しておいたのが功を奏したらしい。
いつか役立つだろうとは予想してたが、ここまで早くに役立つことになるとは、思ってもみなかった。
「ま、まさか、このことを見越して……!?」
「なわけねぇだろ。ってか、このことを見越してんなら、さっきの時点で勝てるように準備してたさ」
何が悲しくて一度倒される過程を入れなきゃならんのだ。
「むぅ、確かに……。盟友がタイムリーパーなら最善の策のために一度負けたという可能性はあるが……」
「何言ってんの、お前」
訳の分からないことをぶつぶつと呟き出した八代。
ほんとこいつ、たまにおかしな奴になるんだよな。いや、おかしいのはいつもの事だけれども。
「むほんむほん……。それで、あのレイ殿の居場所は分かるのか?」
「ああ。壊されてたりはしてないっぽい」
「方位磁針をわざわざ壊そうとするやつはおらんだろうしなぁ……」
しみじみとうんうんと頷く八代を無視して、これからの計画を脳内で立てていく。
「とりあえず、追いかけるか。大丈夫そうか?」
自身の身体を確かめながら、そう問いかける。
「ふむ。我は多少痛むが大したことはない。それよりも、貴様はどうなのだ? 見た目的にも痛々しいが……」
軽く触ると、ズキズキと痛む箇所が所々にある。
「ん、まあ、何本か骨折れてそうだけど、少しの間なら問題なさそうだ」
「……相変わらずおかしな体だのう」
しみじみと軽く引きながらそう口走る八代を横目に、俺は折れていそうな骨を魔力を練って補強する。
よし、これで応急処置は完了っと。
「んじゃ、急ぐか」
「了解した」
グルグルと腕を回したり、ぴょんぴょんとその場を跳ねたりと、動きに支障はないか確かめる。
そして八代は、俺の問いかけに重々しく頷きを返すとよっこらせっと立ち上がった。
「して、レイ殿はどちらに連れていかれたのだ?」
「こっちだ」
森の奥に繋がる道を指さしながら答えた。
☆ ☆ ☆
「……なあ、盟友」
罠や見張りを警戒しつつ、音を立てずに走っていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんだよ。もうちょい警戒しろ」
チラと睨みつける。
が、八代は珍しく言いづらそうに口を開けたり閉めたりを繰り返していた。
「……どうした?」
周囲に気を配り、走る速度は緩めない。
八代は気まずそうにふいっと顔を逸らす。……おい、危ないぞ。前見ろ、前。
「俺が、その、……しっかりしていれば、レイ殿が連れさらわれることもなかったんじゃ……って思いまして……」
いつになく申し訳なさそうな表情で、声で、そう言ってきた。
……ああ、そういえばこいつはこんなやつだったなと、今更ながらに思い出した。
鬱陶しくて、仲間想いで、臆病で、責任感が人一倍あって……そんな風に、弱くて脆くて優しい。それが、それこそが、山田 八代なのだ。
空気が読めないくせに、人一倍感情には敏感なのだ、こいつは。
「……大丈夫だ、怒ってねぇよ。まだレイの身になにかが起こったってことわかってねぇしな」
気にするなと、片手を上げてふるふると振る。
そう、まだ何も起こってないのだ。だからこそ、憎むべき理由も、後悔すべき事態も、何もない。
そして、何かが怒ってしまったとて、それは彼一人の責任ではない。俺の責任でもあるのだから。
「これから挽回してくれりゃあ、文句はねぇよ」
そっと、それだけ声をかけておく。
それは、彼に向けた言葉であると同時に、自分に向けた言葉でもあった。
……本当に、これから挽回しないと。
「う、うむっ、任されよ! フハハハハ! 必ずや、この我がレイ殿の救出を果たして見せよう!!」
普段の、鬱陶しい態度に戻った。
うーん、これはこれで面倒くさいんだよなぁ……。さっきの状態も、違和感がすごくて面倒だったけど……。
そう考えていると、不意に、八代の勘違いに気がついた。
俺は盛り上がっているところに水を差すようで少し気が引けたが、走る八代に少しだけ体を寄せると、ちょいちょいと肩を叩いた。
「む? なんだ、神妙な顔をして……」
不思議そうな顔をして、首を傾げる八代に、ぐっとサムズアップする。
「あの大男……グスタフの相手、頼むな!」
その後、八代の絶叫が辺りに響いたことは、言うまでもない。
☆ □ ☆ □ ☆
「ん……」
レイは目を覚ますと、すぐに体を起こそうとした。けれも、ジャラと音がして、若干体が重いような違和感を感じた。
「あれ……?」
手を見ると、鎖でぐるぐる巻きにされていた。
「あー、そういえば……」
私、連れさらわれたんだった……。
ふぅ、と息を吐いて気分を落ち着かせる。
驚くことに、今この状況であるにも関わらず、心の中はスっと冷めて、頭が冷静に動いているように感じる。
……やはり、かなり彼に毒されているらしい。
「あっ、起きた」
不意に声が聞こえて、ばっと顔を上げると、そこには自分と同じように壁に鎖を繋げられた少女が一人。
「ちなみに言っておくけどさ、これ、ボクの仕業じゃないからね? ここは洞窟か洞穴で、とある盗賊の拠点。キミは、盗賊によってここに連れてこられたんだ」
諭すように言ってくる少女に、こくりと頷くレイ。
「……ところで質問なんだけど、ここまで助けに来てくれそうな仲間や友人はいるかな?」
そう問われ、レイの頭にはサトウさんの顔だけが浮び上がる。
彼ならば、きっと……。と、淡い期待を込めてこくりと頷く。
「そうかそうか、キミも、か」
少女は満足そうにうんうんと頷くと、パンっと思い出したように手を叩いた。
そして、ニィッとどこかで見たような、悪どい顔に悪戯心を加えたような表情を浮かべると、少女は口を開いた。
「じゃあさ、一緒にこっから脱出しない?」
と、直接的に、間接的に。包み隠さず、はっきりと、レイにそう問いかけてきた。
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