第37話
ルガーウルフ狩りを初めて半月近くが経った。依頼の期日まで約二カ月ほどだ。
なのにまだレア個体を一頭も見つけられていない。
夜の間に必死に探し回って、陽が登ると同時にテントに戻って寝る。
そんな暮らしが続いたある日だ。
──新月ノ夜ニ探セ。
眠っているとそんな声が聞こえた──気がした。
寝ぼけて辺りを見渡しても、いるのはセシリアだけ。
声は渋みのある男の声だったし、彼女ではない。
夢か。うん、寝よう。
新月──新月ね。
月の出ない夜じゃん。
んー、今って月はどんなだっけ? まぁいいや。
目覚めていつものように森を散策して秋の味覚拾い。それから適当に狩りをして、暗くなったら本番へ。
ふと夢の中の言葉が気になって空を見上げると、今夜は半月だった。
ただなんとなく……。
「うぅん。セシリア、半月ってあの向きだっけ?」
「ん? 下半月だよ。もうすぐ月が見えない、真っくぁなようになうね」
下半月……下弦の月ってやつか。
じゃあ新月に向かって月が欠けてんだな。
新月の夜に探せ──あれはどういう意味なんだ?
その日の晩も、レア個体は発見できず。
翌日眠っている間にまた夢を見た──いや聞いた。
──ルガーウルフノ変異種ハ、月ノ出ナイ新月ノ夜ニ現レル。
──ソレ以外ハ巣穴カラ出テコヌゾ。
「んー……声だけ聞こえる夢か……お告げかな?」
最近は早めに切り上げてくることが多かったせいで、暗いうちから寝て、昼前には起きるようになっていた。
今夜はルガーウルフ狩りを止めて、別のモンスターを狙おう。
先日の獣人たちを襲ったホブゴブリンだ。
奴ら、未だに獣人を探しているのか、時々丘の向こうの平原をうろついているのを見かけた。
集落まで三日の距離だ。そこまで出向いて行かれると大変なことになる。
「ということで、ホブゴブリン討伐をしようと思う。あいつらって確か光物が好きで集めてるんじゃなかったっけ?」
言ってから、それはゴブリンだったかなと思いだす。
「んー、分からない。でも退治すうの、賛成」
「よし。とにかく行ってみるか」
巣穴の場所は聞いてある。平原の北西部で、ちょうどこの森を突っ切った先あたりだ。
昼過ぎには移動し、森を抜けるのに三時間ほどかかった。
更に一時間ほど歩くと、山の斜面にホブゴブリンの姿を発見。
徘徊しているのではない。木々の隙間から、奴の背後に洞窟があるのが確認できた。
棍棒を構えたホブゴブリンは──眠っていた。
立ったまま寝るとは、器用な奴だな。
それでも声を出されては面倒なので、ギリギリまで近づいて一時停止。そして一気に駆け寄ってそのぶよぶよな喉笛を切り裂いた。
一時停止が切れた時には、既に死んだあと。
「中は薄暗いが、奥の方に明りが見えるな」
「行く?」
「あぁ、慎重に行こう」
ホブゴブリンの身長は二メートルを超える。それに合わせて巣穴も結構大きかった。
ぐねぐねとした一本道を進むと、左右に小部屋になった横穴を発見。
そのいくつかでホブゴブリンが眠っていたが、一時停止して永眠させていく。
三つ目の小部屋で遂に気づかれてしまうが、もう後の祭りだ。
ドスドスと駆けてくるホブゴブリンどもは奥の通路からしかやってこない。他に枝分かれした道もなかったので当たり前だ。
こうなると俺の一時停止の独壇場だ。
ただ前を見て瞬きをすればいいだけだからな。
一時停止をして、セシリアが魔法でまとめて切り裂く。
手前の奴らが倒れればまた一時停止。セシリアが魔法で切り裂く。
これだけでホブゴブリンの死体が積み上がって行った。
「失敗したな……これじゃあ奥に進めない」
「うぅ……外の方がよかったね」
山積みになった死体をどかしてまで、奥に行きたいとは思わないな。
だが積み上げられた死体は、ホブゴブリンどもから動かしてくれた。
怒り狂った一体の、他より一回りデカい奴が死体を担いではこちらに向かって投げてきやがった!
「あぶねっ」
避けながら来た道を引き返す。
そうして巣穴を出ると、俺とセシリアは左右に分かれた。
『ウルガアアァァァァッ』
棍棒を振り回し飛び出してきたホブゴブリンに──一時停止。
ピタリと動きは止まったが、勢いがついていたのでそのまま前のめりに倒れる。
丁度いい。このままハンマーの刃を振り下ろして首を切り落とそう。
そう思ったが、意外とこれが硬い。
それならそれでこうだ!
うなじに刃を突き刺し、そのハンマーをもう一本のハンマーで
カー……ンと音が響く。
やっていることは採掘場での作業と一緒だ。
岩を砕くために、掘削用ハンマーで叩いていた動作と全く同じ。
何度も何度もハンマーで叩き、遂には──
『ゴブァッ』
一時停止が解けた瞬間、奴は短い断末魔を上げ、首と胴とが分離した。
「骨……」
あの大きな奴が仲間の死体をぶん投げてくれたおかげで、奥の通路に進むことが出来た。
奥に残ってたホブゴブリンは三体だけ。それほど大きな群れではなかったようだ。
一番奥にあったのは、奴らにとっては宝物倉なのかな。
動物とかモンスターの骨が積み上げられていて、他にも毛皮、それに石がごろごろ。
「んー、リヴァ。この毛皮、たぶんダメぇ」
「え、ダメって何がどう?」
「見てこえ。汚い」
あぁ、ズタボロだ。なんていうか、とにかく剥ぎましたーって感じ。
これなら俺がやったほうがまだマシだ。
剥ぎ方も問題だが、何より血や土がついていて物理的に汚い。これじゃ売り物にもならないだろうし、獣人族の所へ持って行くのも申し訳なくなるな。
骨……何かに使えるのかなぁ。
一応モンスターの骨も、素材として取引はされているし、持って帰るか。
あとは石だ。
「光物……には見えないが……」
「こえ、鉄鉱石よ。人間の町でもドワーフの集落でも、取引してくりぇうの」
「へぇ、鉄鉱石か。光物じゃないけど、戦利品にはなりそうだな」
全部を収納袋に入れてテントへと引き返す。
帰った時には深夜になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます