第34話
「おはよう! 今日も体力をありがとう!」
朝、目を覚ましてステータス強奪で体力を2貰う。それから飯を食って、丘向こうにあるサバンナのような平原で狩りをし、夜はテントでぐっすり安眠。
夜にしか気づかなかったが、奴の体は静電気が弾けたようにあちこちチカチカと光っている。日中だと分からない程度の、小さな光だ。
そこで奴の事を『電気くん』と呼ぶことにした。
肝心のレア個体は百体に一体ぐらいの割合だと聞いたが、ここでは十体に一体ぐらいがレアだった。
一日に二体ぐらいは狩れたが、獲り過ぎると絶滅しかねない。
少し余分に狩っても、八体分で辞めることにした。
「ルガーウルフは夜にしか現れないんだっけ?」
「うん、はい。昼は寝てて、夜になったら巣穴から出てくぅの」
「巣穴を襲撃すれば一網打尽に出来ないか?」
「んー……巣穴どこかわかあないし、いっぱいよ?」
巣穴にいっぱいルガーウルフがいるってことか。
一網打尽にするつもりが、失敗すればこっちが喰われてしまうってことにもなりかねない。
やっぱり個別に狩る方がいいのか。
生活リズムを変えるために徹夜して、体を慣らすのに三日かけた。
万全の態勢でいざルガーウルフ探しだ!
それからは明け方に狩りを終えて戻って来ると、飯を食って一休みしたら寝る。
昼過ぎに起きたらステータス強奪して遅めの昼飯に。それから適当に素材になりそうな奴を狩って、暗くなったらルガーウルフ狩りだ。
ルガーウルフはキックバードと違って、単独か、多くても二、三頭でしか行動していない。
しかも平原だけじゃなく、東側の森にもいるってんで捜索範囲が広すぎる。
「はぁ……今日もただのルガーウルフをようやく二頭見つけられただけか。なぁ、これってレアじゃないんだよな?」
「んー、レアの子がどんなのかしあないけど、たぶん違うの」
三日で倒したルガーウルフは五頭。発見した奴も入れるともう少し多いけど、全部毛色は同じだ。
限りなく白に近いグレーの毛並みに、背中から尻尾に掛けて黒い毛が生えている。頭には小さな角があって、これがなければただの狼だ。もちろん狼より一回りデカいけど。
レア個体の毛色を聞いておくんだったなぁ。
「そろそろ解体しなきゃならない獲物も増えてきたし、今日は早めに引き上げるか」
「そうね。キックバーオも袋に入ぇっぱなしだもんね」
問題は……俺が解体未経験ってことだ。
セシリアがやるのを見て、覚えなきゃなぁ。
丘を下りて森に行こうとした時だ──
「ぐあぁぁっ」
平原から人の声が聞こえた。
「セシリア、奥の奴を頼むっ」
「分かったっ」
「うらあぁぁーっ、止まれぇー!!」
月明かりの下、こん棒を振り回す複数のホブゴブリンがいた。
奴らは猿──いや、猿のような姿の獣人族を追いかけていた。
追われている獣人の中には、怪我をしている人もいる。
ホブゴブリンも獣人も俺の前方にいたため、まとめて一時停止させることになってしまう。
十秒では彼らの下までは届かない。だがセシリアの翼は届いた。
後ろの方を走っていたホブゴブリンが彼女の魔法で宙に舞う。
一時停止が切れ動き出したら、直ぐにスキルを掛け直す。
獣人族とすれ違い、直ぐ背後に迫ったホブゴブリンを屠る。
セシリアも風の刃で残りのホブゴブリンを仕留めていく。
再び一時停止が切れたが、残りは既に一匹だ。
振り下ろされたこん棒をハンマーで受けたが──体力を上げている恩恵か? それともホブゴブリンのパワーが思ったほどでもないのか、とにかくたいした衝撃を感じることなくいなせた。
返す刀ならぬハンマーを奴のこめかみに叩きつけ、脳震盪を起こしている所にもう一発をお見舞いする。
そこで最後の一匹も倒れた。
「ホブゴブリンを倒したけど、こいつら素材にならないよなぁ」
「無理」
「だよなぁ──っと、怪我人がいるんだったな。大丈夫かあんたら」
振り返ると、彼らは口を開いたままこちらを見つめていた。
一時停止の連続使用で、彼らにしてみると何が起きたのか分からない状況なのだろう。
「驚いただろうけど、ここでのんびり解説している余裕もないんで、とりあえず俺たちのテントまで来てくれ」
「わ、分かった。助けてくれたことに感謝する」
「さぁこっちだ」
森の方へと向かうと、彼らが途中で足を止めて怯え始めた。
もしかして電気くんを知っているのか?
「奴は封印されていて、一定範囲からは絶対に出てこない。もう十日以上奴の近くで野宿しているけど、一度も襲われてないから安心してくれ」
「本当だよ。今は怪我してう人、手当しなきゃ」
俺とセシリアでなんとか説得して、彼らをテントへと案内した。
目視できる範囲に電気くんがいるのでかなり怯えてはいるが、恐る恐るテントの中に入ってしまうと憔悴しきったようにその場に座り込んでしまった。
傷の深そうな人にはゴミポーションを十本ほど傷口にぶっかけておいた。
「それで、なんたってホブゴブリンに追いかけられていたんだよ」
「……間違って奴らの巣穴に入ってしまったからだ」
「ホブゴブリンの巣に?」
獣人族は男ばかりの五人組だった。
冬に備えて肉と、そして毛皮を狩るためにやって来たらしい。
「我らは東に三日ほど山を下った所の里から来た。今年は子宝に恵まれたから、いつもより余計に毛皮が必要だったから、ここまで上ってきたのだ」
「去年はここまで来なかったが、三年前に来た時にはローベアの巣穴だった場所にホブゴブリンは住み着いていてなぁ」
「それで奴らに追いかけられたのか。そのローベアってのはどうしたんだろう?」
「ローベアは比較的小型で、気性も荒くはない。群れを成さないモンスターだからな、恐らくホブゴブリンにやられたのだろう」
ベアと名前がついていても、たいして強くもないモンスターなんだな。
「ただローベアの巣穴はそう大きくはない。せいぜい十メートルほどしか奥行きがないのだが……」
「俺が思うに、ホブゴブリンの巣穴とローベアの巣穴が、繋がってしもうたんじゃないのか?」
「うーむ、それは有り得るな」
開通しちゃったかぁ。
そうとは知らず、彼らはローベアの巣穴に入ってホブゴブリンとばったり……で、慌てて逃げたって訳だ。
「振り切ることも出来ず、あのまま死ぬんじゃないかと思ったよ」
「しかし何がどうなっていたのか……突然体が動かんくなったと思ったら、お前さんらが走って来て……何故あの場でお前さんらは動けたんだ?」
「あー……動けなくしたのは俺なんだ。特殊なスキルで、俺が目視した相手の動きを十秒間だけ止めることが出来るって言う」
ただ止める相手を選別は出来ない。そのせいで彼らの動きも止めることになった。
そのことを話すと驚かれはしたが、同時に感謝もされた。
「凄いスキルを持っておるもんだ。いやぁ助かった助かった。しかし有翼人のお嬢ちゃんと人間が一緒というのは、珍しいもんだ」
「あぁ……」
セシリアは彼らの前で翼を出して飛んでいる。しかし特に彼らは驚いたり、奇異な目でみることはないろうだ。
おかしいのは人間なんだよな。自分たちと姿が違うからと蔑んだり、捕まえて奴隷にしようとしたりさ。
「リヴァ、お肉焼けた。みんなで食べぉう」
「お、サンキュー、セシリア。じゃあ飯にしようぜ」
肉はたんまりある。あり過ぎる。
そうだ。冬に備えて肉と毛皮狩りに来たってうなら、キックバードとルガーウルフの肉を譲ってもいいな。
レアじゃないルガーウルフの毛皮も特に何も言われていないし、譲っても大丈夫だろう。
代わりに獲物の解体を頼んでみるか。
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