第33話
ギルドに寄ってから、依頼のスタートだ。
今日から三カ月間だけ、俺は地上に出ることを許される。
少しでも時間を節約するために、まずは──
「人気のない場所まで移動しよう」
なんて言うと、まるで如何わしいことでもするようだな。
そんなことは断じてない。
迷宮都市フォレスタンは高い壁に囲まれた、バースロイガン王国北部の最大の町だ。
その壁を潜り抜け、人目に付かない場所で転移の指輪を使った。
「──は? ぁ……すげ。本当に一瞬か」
「わぁ、しゅごい。私、二日もかかったのぃ」
たぶん歩いて来たら二日なんて距離じゃないんだろうな。
ライガルさんに貰った地図をセシリアに見せると、彼女が指で示したのは迷宮都市の北にある巨大山脈の中だ。
この山脈はバースロイガン王国の土地ではないし、他の国の領土でもない。
そして迷宮都市から山脈の麓にある国境の町まで馬車で五日だと聞いている。
狩りの目的地はそこから更に北西にあったのを考えると、セシリアの飛行速度だって異様な早さだ。
「狩場はここから近いのか?」
「うん、はい。丘の向こう、キックバードいぅの」
「よし、それじゃあ狩場を確認しておくか」
「あ、リヴァ。あのね、あっちは行っちゃダメよ」
「向こうの森か?」
正面に丘が。東西は森になっているが、セシリアは西には行くなと言っているようだな。
西に何かあるのだろうか。
「セシリア、あっちの森の中に何かあるのか?」
「うん。しゅごく大きいのいぅの」
凄く、大きい?
まさかドラゴンか!? それはマズいんじゃなかろうか。
「でもそえね、近づかなきゃ大丈夫なの」
「近づかなきゃ? 動かないってことか」
「うん、はい。封印されてうの」
封印? ますます分からなくなってきたぞ。
「近づかなきゃいいってことだし、一応見ておきたいんだけど」
「んー、じゃあ来て。私前、リヴァうしぉ。私より前、ダメよ」
「分かったよ」
森に入るとさっそくモンスターのお出ましだが、凄く大きいとは程遠い普通サイズのモンスターだ。
一時停止を使う必要も無くサクっと倒す。
あとで解体するために、死体は空間収納袋に入れて先へと進む。
森に入って三十分以上経っただろうか、セシリアが立ち止まって静止を促した。
「あっこ」
「ん、あっこ──た、確かに凄くデカいな」
木々が開けたそこには、蹲る巨大な獣の姿があった。
ドラゴンではない。どちらかと言うと猫科の肉食獣のような感じだ。だからといって猫かっていうと、そうじゃない。
眠っているのか、と思ったがしっかりこちらを見ていやがる。
「動かないのか?」
「あぇ見て。石の下、模様あうでしょ? あれが封印石なの」
ここから五メートルほど先に、一メートルほどの四角い石碑のようなものがある。
セシリア曰く、あのモンスターを囲むように六つの封印石があるそうだ。
それを線で囲った範囲が、奴が動ける範囲になっているそうな。
「前に見たの。しゅごい装備した人、いっぱい挑んで行って……でも一瞬で終わったの」
「終わったって……そいつら全員、あれにやられたのか?」
「うん、はい……」
ひぃ。間違ってもあの中には入らないようにしなきゃ。
そういや森に入ってすぐにモンスターと遭遇したが、入口付近だけで奥に入るとまったく姿を見なかったな。
あいつが原因なのか?
「セシリア、ここで野宿したほうが安全じゃないか?」
「ひえっ。リ、リヴァ?」
「この辺りはあいつのおかげでモンスターもいねえみたいだし、良い場所だと思うんだけどな。封印石からは出て来れないんだろ?」
「うぅ、そうだけぉ……」
まぁあんなデカいモンスターの近くで野宿ってのも、大概イカれてるよな。
「だけどさ、もしこいつが封印の外に出れるなら、今この瞬間だって俺たちは奴の餌食になっているはずだ。あの野営地で休んでいたって、襲われる可能性はあるだろう?」
「う、うん……この子、絶対出れない。とても強いまおうで、封印されていうから」
魔王ならそりゃ最強だろうな。
しかし、誰が何のためにアレを封印したんだ?
随分強力な封印みたいだし。
「もしもの時は転移の指輪や帰還の指輪がある。逃げるだけなら簡単さ」
「あ、そうか。うん、そうね」
ということでテントを移動することに。
ライガルさんから借りたってことにしてあるこのテント、五段階の広さ調節が可能ってことだけど……。
「テント、一段階ずつ大きさ見てみたいな」
「あ、私もみたいっ」
「よし、この紐を引っ張って……あぁ、確かになんか引っかかりみたいなのあるな」
引っかかりを感じてそのままポイっと地面に置くと、ぐぐーんと広がって──ドーム状のコジンマリシタテントになった。
「一人用、かな」
「小さい、かわいい」
「可愛いか?」
「うん、かわいい」
可愛いの基準が分からない……。
一度テントを閉じて、次は二段階。
するとさっきの三倍ぐらいの大きさになった。
地下街で見たのはこれの倍のサイズだが、手前と奥で区画が分かれたような構造だったな。
「二、三人用ってところか」
「かわいくなくなった」
「お前の可愛いの基準はなんなんだよ。形一緒じゃねえか」
「大きいとかわいくないの」
大きさの問題か?
俺とセシリアだけなら正直このサイズでもいいんだろうけど、流石に男女で密着して寝るのはよろしくない。
三段階目のサイズを使うか。
しかしこうして俺たちが野営準備してるってのに、あいつは我関せずだな。
奴まで結構距離はあるものの、図体がデカいのでハッキリ見える。
ここからステータス強奪できるだろうか?
[強奪するステータスを選択してください]
お、出来た。
さて何を頂こうか。
平均的に上げるのもいいが、器用貧乏よりどこかを突出させて戦闘スタイルを確定させるほうがいいのかな。
攻撃面はセシリアもいるし、体力特化にして耐えれる肉体に大改造するか!
[五年間欠かすことなく能力を使用したことにより、祝福が与えられます]
[強奪できるステータスが1から2に引き上げられました]
[体力を2強奪することに成功しました]
ヨシ!
え?
まてまてまて。
今なんて言った?
五年がどうとか奪えるステータスが1から2に上がった?
五年──五年──そうか。スタンピードが発生してからちょうど五年ぐらいだな。
五年使い続けたからスキルレベルが上がったと?
レベルUPの条件、厳しすぎだろ。
だけど2に増えるのはラッキーだぜ。十日続ければ+20。百日続ければ+200だからな。なかなかにデカい。
あとは──奴がどう反応するか。
もしもの場合はすぐさま一時停止を使って逃げる準備をしなきゃな。
が、一時停止が切れても、奴は気にするどころか目を閉じて眠ってしまった。
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