第24話 T・K・B

「で、いったい何があったらあんな状況になるんだ」


 中楚が服を着た後、美術準備室へ入った俺はそう言う。


「テルクニにも気持ち良く脱いで貰うためです……」


 一方、それが怒っている風に聞こえたのか、俺の前に座る中楚は少しだけ体を小さくしながらそう返した。


「……中楚が水着になるのが?」

「いきなり全裸が無理ならまずは水着からと思って、そうさせるためには夏っぽい雰囲気を作ろうと思って、でも蒸し暑くするのは以前に失敗したからそれ以外の要素で夏らしさを出すならアタシが水着になればいいという名案が浮かんだの」

「全然納得はしていなが、だからって校内で水着になるやつがあるか」

「別に校内で水着は不思議じゃないでしょ。うちの高校はたまたま水泳の需要や部活がないけど、水泳があったら校内かつスク水は起こり得ることじゃない」

「中楚はビキニだったろうがとツッコむべきなのか」

「あ。そこは一応見えてはいたんだ」


 俺の発言に中楚は嬉しそうに笑う。しまった。罠だったのか。


「だとしたらいきなり閉めるのはやっぱりひどくない?」

「いや、普通に考えて本来なら水着を身に付けた人がいなさそうな場所に水着を身に付けた人がいたら驚くものだろ。逆の立場になって考えてみろよ」

「……悪くないし、めっちゃ見るけど?」


 中楚が当然のことのように言うので俺は後悔した。今の言い方だと俺が水着で待ち受ける姿を想像することになるから中楚にとっては好都合じゃないか。


「そ、それに俺以外の人が入って来てたらどうするつもりだったんだよ」

「それはまぁ……通報する?」

「理不尽過ぎないか!?」

「……テルクニ。さっきから水着のこと何か勘違いしてない? 水着って見られても大丈夫なものなのに、まるで水着自体がエッチなものであるかのように聞こえるんだけど」

「そ、そんなつもりはない。ただ、水着は普通なら海とかプールとかに行く際に身に付けるもので、決して簡単に見せていいものでは――」

「その海とかプールとかでは大衆の面前に晒されているわけなんだから、校内かつほとんど誰も来ない美術準備室で着ていても全然問題ないじゃない。それとも海やプールじゃないとテルクニ的にまずいことがあるの?」


 常識的には俺の意見の方が合っているはずだけど、輝邦的にまずいことが言いづらいから中楚へ上手く反論できない。


「それで言ったら女子の水着はちゃんと隠すべきところは隠れてるから男子の水着の方がよっぽどエッチでしょ。乳首丸見えなんだから」

「いや、男子なら別に……」

「そう、それがおかしいのよ! どうして女子の乳首はエッチで、男子の乳首はエッチじゃないみたいな感じになってるのか。テルクニは疑問に思ったことない?」

「全然ないけど」

「じゃあ、聞くけど、もしも女子の水着も男子と同じ下だけで乳首丸出しだったらどう思う?」

「それは……まずいと思う」

「なんで? 同じ乳首なのに?」

「だ、だって、女の子のは……なんというか、胸からそこにかけてが……」

「乳首も含めてエッチなんでしょ?」

「……エッチだと思う」


 中楚の押しがやけに強いせいか、俺はとうとう口走ってしまった。でも、中楚は俺の発言など気にすることなく喋り続ける。


「何が違うのよ!? 同じ乳首でしょ!? だったら男子の乳首もちゃんとエッチなものと認識しないとダメじゃない!」

「怒ってるのそこかよ!?」

「実際、優秀なAIを持つUチューブ君は男子の乳首もエッチなものと判定してるのよ!? だから、男子はみんな自分の乳首や雄っぱいがエッチであることを理解した方がいいわ!」

「何だその主張!? というか、何で乳首がエッチかどうかの話に切り替わってるんだよ!?」

「えっ。別にいつものことじゃない」


 中楚は特に驚きもせずそう言う。それを全く否定できないのが悔しい。


「そもそも今日、中楚が水着になったところで俺がそれに合わせて脱ぐわけないだろ。水着なんて持ってるわけないし」

「そこは下着でも大丈夫だから。水着なんて実質下着みたいなものだし……って、そう考えると海やプールに水着でいるのってヤバくない? ヌーディストビーチ一歩手前じゃない」

「別に水着でも一歩手前なのは変わらんだろうが」

「じゃあ、やっぱり水着はテルクニ的にエッチなの?」

「なんでそうなるんだよ!?」

「だって、今日はこのためにわざわざ下着の代わりに水着を付けてきたから何とか成果をあげたくて……」

「それビキニでやるもんじゃないだろ!?」


 俺はそう言うと同時に中楚の制服を見つめてしまった。今もこの下にさっきの水着が……?


「そう? 世の中にはそういう嗜みをする人もいると思うけど」

「し、知るか! まったく、本当にあんまり人が来ない準備室だったから良かったが……」

「……良かったけど?」

「な、何でもない! この話は終わり!」


 これ以上何か言われると、ボロを出してしまいそうだ。俺はそう考えて話を止めようとしたが……


「……テルクニ、前からずっと気になってたんだけど」


 中楚の方は不服そうな表情になっていた。恐らく準備室に入る前もこんな表情だったのだろう。その理由がわからないから俺はつい話を続けてしまう。


「な、なんだよ」

「テルクニって……性欲ないの?」

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