裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

ちゃんきぃ

裸夫が描きたい自称清楚系ヒロインはあらゆる手段で俺を脱がせようとしてくる

第1話 刺激と親友と俺のマドンナ

 高校生活ってやつは慣れてくると意外に退屈なものだ。曜日ごとに割り当てられた授業をそつなくこなして、部活があるやつはそれに励み、ないやつはそのまま町へ繰り出して小腹を満たしたり、家に帰って勉強やゲームをして、そのまま1日を終える。基本はそれの繰り返し。

 

 そんな繰り返される日常に必要なのは……ちょっと刺激だ。そう、重要なのは物凄い刺激ではなく”ちょっと”したというところだ。

 たとえば朝の星座占いで1位を取ってラッキーアイテムを身に付けて学校へ行く。変わったのはその日のテレビ放送におけるランキングと普段は持っていない物だけかもしれないが、それだけでも気分的にはいいものになる。

 それで本当に1日超ラッキーで宝くじで1億円当たっちゃったりするのは夢のある話だが、現実はそこまでは行かない。でも、それでいいのだ。そういう夢のある話を想像するきっかけになれば退屈な日常も少しだけ楽しくなる。

 だから、星座占いをどうしてもチェックしてしまう人はいるし、それと似たような毎日のちょっと刺激を求めてそれぞれが好きなものを見たり、推したり、はたまた拝んだりしているのだ。


 そして、そんなことを思っている俺にとっての毎日のちょっと刺激は……我がクラスのマドンナ・捻木ねじき涼花りょうかだ。誰がマドンナと言っているかと言えば、まぁ俺だけなんだけど、涼花ちゃんはそれが過言ではないような可愛らしい女の子なのだ。

 いつも絶やさない慈しみのある笑顔。艶やかなミディアムヘアをかき分ける仕草。はきはきとした声は語尾の「っ」まで元気と可愛らしさに溢れている。ついでに言うとスタイルもいい。本当についでだけど、ラインがくっきりとしておっぱいも――


「いや、ついでじゃなくてそこがメインで言ってるだろ」

「……おい、秀吾しゅうご。他人の独白パートに話しかけるなっておじいちゃんに教えられなかったのか?」

「うちのじいちゃんから教えられた覚えはないし、捻木さんのことは今聞かされてるぞ」


 無粋なツッコミを入れる尾通おどり秀吾に俺は「やれやれ」と言うような顔を見せる。せっかく中学校からの心の友にも涼花ちゃんの魅力を熱弁してやっているというのに。


「それはそれとしてだ。俺がスタイルのことしか見ていないように言うのはやめろ。ちゃんと先に挙げた3つ以外にも挙げられる部分は山ほどあるんだからな」


 俺は誇らしげにそう言う。それを見た秀吾はお返しのように呆れた顔を見せた。


「高2で初めて一緒のクラスになっただけでよくそんなに挙げられるもんだ」

「運命的な出会いとはそういうものなの。それにもう半年近く一緒の教室であれこれしてるんだからみんなも魅力に気付くべきだろう」

「いや、別に魅力がないって言いたいわけじゃなく、輝邦てるくにが大げさに言ってる気がするから何とも……」

「秀吾、俺は悲しいよ……いつからそんな冷めた人間になってしまったんだ……」

「オレは特に変わってないし、お前のたまに出る変なテンションも変わってない」


 秀吾は見た目だけならちょっと目付きが悪い不良っぽい雰囲気があって、実際の性格もクール&ドライなとこがある奴だが、なんだかんだ話が聞けるタイプの男だ。

 そんなところが一定の女子にウケてしまうがせいか、何故かこういう話の時は余裕ありげな空気感で話してくる。


「別に余裕とかじゃなくて、オレのテンションが元々こういう感じなだけ」

「はいはい。いいよね、モテるやつは。さぞ俺とは違って刺激的な毎日を送っているのだろうよ」

「全然そんなことはない。普通だ」

「本当にー? そんなこと言ってこの前みたいに下駄箱にラブレターっていう古典的な……」

「楽しそうな話してるねっ!」


 その瞬間、俺の思考は一瞬にして固まる。クラスの席で話し合っていた俺と秀吾の間に入ってきたのは……あろうことか件の涼花ちゃんだった。


「うぇ!? ど、どうしたのかな、りょ……捻木さん!」

「あっ、ごめんね。二人の話遮っちゃって。でも、三雲みくもクンにちょっと言いたいことがあって」

「い、言いたいことでございますか!?」

「なんだその口調は」


 秀吾のツッコミは全く俺の耳に入って来ない。涼花ちゃんが俺に話しかけて、しかも名指しで何か言おうとしている。

 その事実を脳内処理して一旦保存したいところだが、涼花ちゃんはそのまま話を続ける。


「今日の放課後、暇だったりする?」

「暇です! 何せ帰宅部なので万年暇です!」

「良かったぁ~ それじゃあ、放課後に美術室に来て貰っても大丈夫?」

「もちろんです! 美術室……美術室?」

「よろしくねっ!」


 どびきりのスマイルを見せて去って行く涼花ちゃんを目で追いながら俺はなぜ涼花ちゃんに呼び出されたのか考えてみる。告白するならもっと人気のないところで……というのは冗談としても俺を美術部に呼ぶ理由はさっぱりわからない。

 涼花ちゃんが美術部なのは知っているが、それで俺を勧誘するのは大いに間違っている。

 なぜなら俺は絵が下手ではないが、特別上手なわけでもなく、生まれてこのかたそういう美術関連褒められたことはない。


「秀吾……こういう時どうしたらいいと思う?」

「どうするって、もちろんって言ったなら行くしかないだろう」

「そうじゃなくて……何かプレゼントとか用意して行った方がいい……? それかちゃんと髪型とかキメてくるとか……?」

「何しに行くつもりなんだ。それに放課後呼ばれてるのにそんな暇ないだろう」

「そ、そうか。そうだよな。じゃあ、いったい何の用なんだ……?」


 冷静に切り返す秀吾のおかげで俺も少し冷静さを取り戻す。ただ、そうなると疑問の方があふれ出してしまう。


「全くわからんが、ちょうどいいじゃないか。輝邦が求めているちょっとした刺激にはなるだろうし」


 恐らく秀吾は真面目に言っているんだろうけど、全然ちょっとじゃない。ちょっとじゃないけど……ワクワクしているのは確かなので、今日は俺にとって特別な日になるかもしれない。

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