舞衣様は王様?~タイムトラベルした未来は戦国時代。戦に巻き込まれて死んだ私は国王の娘に~

みやつば

リライト

リライト 第1話

これは、「第1話 ジャンプ」を書き直したものです。直す前の第1話もありますので、ぜひそちらも読んでみてください。

元の第1話になかった新しい要素も入っていますが、大幅な話の変更はありません。

元の第1話から、文章力が少しでも成長してるなと思っていただけたら、嬉しいです。

それでは。

_____


 静寂の中に時折混じる、火花を散らす線香花火のような音が部屋に響く。でも、その音は何かを開発する、この研究室にはとても似合っている。私はそう思う。


 私が一人熱心に取り組んでいるそれは、男のロマンの塊だ。ロマンの塊というだけあって、至難。だから、今まで幾度となく失敗してきた。だが、失敗から生まれたボツ作品も、私からしてみれば我が子も同然で、捨てられないでいる。


 ただ、今回はいつもと違う。きっと成功するという妙な確信がある。その確信は、アスリートのゾーンにも似た、集中力という形で現れている。



 そして、それが完成したら、こう誰かに問いかけたい。

「君は過去に行って、人生をやり直したいと思わないか?」と。


 そう、私が発明しているものはタイムマシンだ。それを使ってしたいことはただ一つ。


 モテたい。


 私はモテたいのだ。50代にもなって、人生で3度来ると言われているモテ期が未だに到来していない。強いて言うなら、子供の頃に近所のおじいちゃん、おばあちゃんにモテた? くらい。だから、私は小学生の頃に戻ってモテまくるのだー。


 でも、なんで小学生かって? それはだな、あの頃は足が速いだけで、クラスの人気者。

 当時、運動はある類いを除いてできなかった私だが、この目的のために心血を注いだために、今では速く走れる。つまり、タイムマシンさえ開発すれば、いとも容易くモテモテなのだよ。




 と頭の中で高笑いしている私の手は至って冷静に、一塵の震えもなく、最後の1ピースを掴む。心臓が破裂しそうなほどの胸の高鳴りを感じてもおかしくないこの場面で。そのまま寸分の狂いもなく、そっと欠片をはめ込む。

 カチッという音を立てて、念願のその機械は完成した。腕時計型のタイムマシンだ。


 完成と同時に、今まで感じたことのないレベルの高揚感、達成感、開放感。考え出したら止まらないくらい、ありとあらゆる感覚をこの上ない形で味わった。今の自分なら荒んだ世界であっても救うことができる。さすがにそれは、驕り過ぎか? まあ、いいか。



 では、さっそく使おうか。


 私は自分の子供時代の1975年をタイムマシンに入力するが、なんだか指が重い。持久走をし終えた時の体のダルさのようだ。その原因は、全ての雑音をかき消すほどの、脈打つ鼓動のせいだろう。この期に及んで、私は緊張しているのだ。今更訪れたこの緊張が、何かいけないことをしているような感覚を味合わせる。


 ようやく設定が完了した私は、「小さな幸せを私にください」と強く願いながら、ボタンを押した。




 すると、映像の場面が切り替わるように、眼前には見たことのない景色が広がっていた。

 自分が今いる場所は、丘のように高いおかげで見晴らしが良く、遠くまで見渡せる。ただ、どこまでいっても限りなく緑が広がっている。それしか、わからん。


「やったー! 無事に時空を飛べたぞー!」


 実際成功するまでは、今回もいつものように失敗すると、過去の苦い経験が頭をよぎっていた。だからこそ、今までの辛い想いを噛みしめながら、伸びをするように、空に向かって大きくバンザイをした。


 そのまま空を見上げれば、私を迎え入れるように、分厚い雲が浮かんで、太陽の邪魔をしているし、耳をすませば、カラスの鳴き声だって聞こえる。

 え? もしかして、お呼びでない? まあ、別にいいんですよ。あとは人生を謳歌するだけだから……。


 あっ! しまった! なんでもっと早くに気が付かなかったんだろう。


 私はこの計画を中断するには十分すぎる、深刻な欠陥を見つけてしまった。それは、過去に行っても自分自身の体は小さくならないことだ。



 自分のバカさに、むしゃくしゃする。何せ、モテモテへの心の準備はしていたから、楽しみにしていた遠足が中止になって悲しむ子供くらい、期待を裏切られた感が大きい。それに、今までの苦労が全て無になったように思えて、辛い。ただ、そのはけ口がないのが最もしんどい。



 まあ、もう一度現代に戻ればいいか。その安易な考えは実現できなかった。



 それは、タイムマシンの充電が足りないこと。それに、太陽光発電を備えているが、今日はあいにく曇りだということ。

 必然的に、野宿を強いられる。そのために、もう一度周りを見渡してみたが、やっぱりおかしい。この風景は私の記憶にはないのだ。いくら、半世紀近く前とは言え、何かしら覚えている景色はあってもいいのだが。


 その時、冷たい風が自分の首筋あたりを、撫でるようにそっと通り過ぎていった。


 私は焦りを感じながら、タイムマシンを確認する。現在地は、自分の故郷になってるし、年号も大丈夫だ。あってる、ん? あれれ? 1、10、100と位を数えていく。


「1975万年!?」


 目をこすって、タイムマシンをもう一度覗いたところ、やはり0が4つ多い。

 

 驚くよりも先に、不思議に思うことがあった。


 ここは未来なんだよな。ってことは……。


 自分が目の当たりにしているこの光景には、人の生活している面影がない。

 これってもしかして。

 膨大に張り巡らされた自分の思考回路が出した答えは、人類は滅亡した。それが結論だ。


 破壊の限りを尽くした人類の行き着く先が絶滅というのなら、それが神からの報いであれ、なんであれ、仕方のないことだ。




 それより、そろそろこの丘から移動するか。たった数分しかいなかったものの、この丘の上で、様々な想いが交錯したことで、ちょっとした愛着が湧いているのも事実。ただ、今の自分にとって、最も大事なのは、今日をどう乗り切るか、だ。きっと自分の知らない危険な動物も存在するだろう。だから、夜を切り抜けるための洞穴なんかを見つけなければならない。


 足をあげようとした時だった。遠くから、かすかな音が聞こえた。時間が経つにつれ、その音は大きくなり、どんな音か判明する。それはまるで、野性的な大型の動物が群れを成して引っ越しにでも出るような、地面を蹴る音だ。

 その音のする方を見つめれば、土煙が立っている。


 しかも、音や土煙から、どんどんこちらに近づいているのが分かる。面倒なことに巻き込まれるのは、嫌だなと思って、逃げようとしたら、今度は人の声が聞こえた。なんと言っているのかは分からないが、確かに人の声だ。でも、困ったことにその声が聞こえるのは、さっきの土煙が上がっている方からなのである。


 人がいるなら、そこに行った方が安全だと考えた私は、丘から降りて、木陰からその様子をカンニングするように、覗いてみることにした。


 そして、ようやく全貌が見えた時、私はもう一度タイムマシンを確認した。がやはり、1975万年。未来である。なのになぜだろう。


 目の前で行われているのは、戦だ。近代的な化学兵器を用いたものじゃない。戦国時代の様相だ。

 千。いや1万人はいるだろうか。赤と青の旗を持った両勢力が殺し合いをしている。


 ドラマの撮影とも考えはしたが、どこにもカメラはないし、時々刀が体を貫いている所をみると、これが現実に起こっているのだと感じる。


 怖い。逃げたい。


 だが、足が小鹿のように震えて、木偶の坊となっている。身動きが取れない。


 やっと踏み出せた一歩も、流れ弾となって飛んできた矢が私の肩に突き刺さることで、思いを挫く。


 親父にも矢で刺されたことないのに! これが彼の最後の言葉でした。とか洒落にならないぞ。

 そのバカな発想が頭を占拠したおかげか、恐怖が和らぎ、走り出せた。


 今日は散々だ。計画の欠陥を見つけただけでは飽き足らず、このまま死ぬ可能性すら孕んでいる。



 戻りたいよ。元の世界に。



 涙腺から、泉のように溢れ出る涙。

 あー、情けない。本当に情けない。死に顔くらい自分に選ばせてほしいものだ。

 そのために、天を仰ぎ見ながら、走った。


 前はしっかりと見ているつもりだったが、突然視界に入った女性にぶつかって、私は尻もちをついた。

 女性は大丈夫ですかと言わんばかりに、私のことを心配している。それに、私に刺さった矢を見て、必死になって何か訴えているが、私にはここの言葉が分からない。ただ、彼女の私を心配する気持ちが嬉しくて、案内されるがままに彼女に着いて行った。


 数分歩くと、現代と比べたらみすぼらしい、木造の家が何軒か建つ、村らしき場所にたどり着いた。きっとここが彼女の共同体なのだろう。


 彼女は私を、ある家に招いた。そこには、医者らしき風貌の中年のおじさんが、どっしりと椅子に座っている。

 さっそく矢の傷を診てもらったが、その顔がすぐに曇ったことで、私は察した。きっと、矢に毒でも付いていたのだろう。もう、目を閉じてしまおうとした。



 その時、地鳴りのように轟く足音と、刀がぶつかり合う音が、私が永眠するのを妨げた。


 とっさに家の玄関から、覗き見たところ、やはりさっき戦っていた赤と青の旗を持った集団が戦っていた。しかも、村の家々に火の手が上がり、さっきまで平穏な暮らしをしていた村が、戦場と化してしまった。何も悪くない村人が戦いに巻き込まれて死んでいく。



 こぼれ落ちた涙は、もう拾うことができない。



 この悲しみと怒りを直接、元凶にぶつけたい。でも、あいつらは刀を持っているし、多少なりとも鎧を身につけている。それに対し、私は毒のせいもあってか、戦うだけの余力はない。


 諦めも肝心だ。これ以上情けない終わり方をしたくない。


 そんな私を突き動かす声援が聞こえた。子供の、助けを求める泣き声だ。今にも息絶えてしまいそうな程、子供特有の甲高さを備え持った、か細い声だ。


 その声がした方へ駆けつけると、5歳くらいの天使のような女の子がいた。ポロポロと溢れる涙を見て、安心させるために、頭を撫でた。昔誰かにしてもらったように。

 泣き止んだのを見て、ガラスのように簡単に壊れてしまいそうな少女の体を丁寧に抱き抱える。意外と重い。が、アドレナリン全開の今の私なら、なんとかなりそうだ。


 周りの目を盗んで、村から飛び出した。できるだけ遠くへ。この子だけは守って、かっこよく人生を締めくくりたい。



 誰も追ってこないのが唯一の救いだが、できるだけ遠くに逃げないと安心はできない。それに、何もないところに、少女を置いていくこともできない。危険だ。村があるところに、送らなければ。


 その決意を胸に、走る。

 が、毒のせいもあるのか、手足が痺れ、徐々に減速していく。



 そんな自分を励ます情景が頭に思い浮かぶ。


「君は誰かのためになると、頑張れる。私は君のそういうところが好きだよ」


 今では顔も名前も忘れてしまった、その懐かしいと感じる声が頭にジンジンと響く。



 諦めるには、まだ、早いか。

 走馬灯のように現れた、誰かのエール。これに応えない選択肢なんてない。


 ソースやドレッシングを最後の一滴まで使うように、己の全力を振り絞る。


 そろそろ体力の限界も近づいた時、あと200mくらい先に集落らしきものが見えた。あと少しだ。あともう少し。


 そんな時に、なんでもないところで転んでしまった。少女をかばうように倒れたから、少女は無事そうだ。宝石のように美しく輝く瞳には、今にも零れそうな涙でいっぱい。自分なんかのために、そんな悲しい顔をしないで。そう言っても伝わらないので、せめて自分の生きた証を残すために、腕時計型のタイムマシンを渡し、


「天井昌(てんいしょう)」


 と、自分の名前を言うと、少女も、その意味が分かったのか、


「ひな」


 とだけ言って、集落へと走って行った。



 私は、その少女の後ろ姿を見届けた後、重いまぶたが闇へと誘った。


 今度こそは誰にも邪魔されずに、寝れそうだ。



_____

第1話のリライトは以上です。

もしよろしければ、良い点、悪い点、分かりづらい文など、コメントに書いてくださると嬉しいです。

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