第28話 宣戦布告
田中が破界の国に向かってから数日後。
田中から手紙が届いた。
どうだろう。上手くいってるのかな?けど、本人じゃなくて手紙がやってくるんだ?少し怖くなって、とりあえず近くにいたシゲを呼んで、手紙を開いた。
「俺は今元気にしています。ただ、風邪をひいたらしく、今は隼翔に戻れなさそうです。それと、三ヶ国が一つになった後の名称は破界の国というらしいのですが、その破界の国のNo.2 だと言う、神谷譲さんに言われたこともここに記しておきます。
『一週間後に重要な話をしたい。だから、隼翔の国王様にはぜひ破界の国に来ていただきたい。詳細は後日また送るとして。もし、私達があなた方を暗殺でもするのかとお思いならば、何人でも兵隊を派遣すればいい。そうすれば、安心して話し合いができることでしょう。』
神谷さんは、ただの兵隊であるこんな俺に対して、親切にしてくださる。とてもいい人です。きっと、信用していいと思います。」
筆跡は確かに田中のだな。それを確認した上で、私はシゲに質問した。
「シゲ、どう思う?」
シゲはなぜか、部屋の隅の方をじっと見つめていて、その顔はすごいはりつめている。
「シゲ、どうした?大丈夫か?」
「え?いや、大丈夫です。少し、考え事をしていました。」
「あぁ、そうなのか。それで、この手紙どう思う?行くのか?」
シゲは怒鳴るように言い始めた。
「俺には、神谷譲という男がどうしても信用できません。あいつは、かつて同じ師の元で学んでいた男です。」
「えー!そうなのー!?あ、でもそれってシゲの友だちってことだよね?それなら、説得すれば、いけるじゃん。」
「説得なんかで応じるようなやつじゃないです。やつは、いつしか悪に取り憑かれた極悪非道な軍師です。」
「でも、田中はいい人って言ってるから、もしかしたら、別人かもしれないよ。」
「いや、おそらく本人です。これで、辻褄が合いました。」
「何のだ?」
「今までいがみ合っていた三ヵ国がなんで急に争い一つもなく、一つの国にまとまったのかがです。」
「というと?」
「神谷ほどの切れ者がいれば、三ヶ国を一つにすることくらい簡単です。それに、田中の手紙には神谷はNo.2 だと書かれていました。つまり、トップがまだいるということです。だから、神谷は誰か強い人を仲間に入れて、三ヶ国相手に脅迫でもしたのでしょう。」
「でも、三ヶ国っていっても全部大国なのに、そんな上手くいく?だって、それぞれの国に10万人くらいの兵力はあるだろうし、強い人もいるのに、神谷とその誰か分からないトップの2人だけで上手くいくとは思えないけど。」
「例えばですけど、鋭美の国の兵士数人に賄賂を渡して、自分の駒として神谷が使ったとしましょう。その後、その駒に、聖龍と雷轟の国が手を組んだというデタラメの噂を流させます。
そして、今度は神谷が鋭美に実際に行って、その噂と同じ内容を言って、鋭美を脅します。そうしたら、鋭美側は実際に使節が来たんだから、噂を信じることでしょう。なにより、大国を2つも一気に相手にすることを考えて焦るということもありますが。
それで、戦わずして鋭美を降伏させます。そして、自分の都合のいいように条件を飲ませます。
それを他の2ヵ国でも同様にします。そうすれば、できますけど、きっと神谷はもっとてっとり早い方法をしているかもしれません。」
「ほうほう。壮大すぎて全然よく分からなかったけど、とりあえず神谷譲がシゲの知ってる人だということは分かったわ。」
***
一週間後。
私達は破界の国へと向かった。
シゲによると、大勢を破界の国に引き連れると、その分自分達の国の警備が手薄になる。それに、破界の国で万が一、何かが起こった時に、号令が全員に伝わるのが遅くなって、混乱してしまう。だから、少数精鋭の方がいいというので、1000人ほど連れて、破界の国へと向かった。
破界の国には、4つ城があって、北から順番に、北尊、東唯、西我、南独という名前がついている。今回私達が行くのは、一番近い東唯の城だ。だいたい岡山県とかのあたりにあるらしい。
馬に乗って来ているものの、ここまでかなりの距離だった。私達の目指している東唯城がようやく見えてきた。城がかなりの大きさなので、私達のことを待ち受けている人々が米粒のように小さく見えた。まあ、まだまだ距離あるけどね。
私はふと気になったことを、隣にいた景泰に聞いた。
「きっと田中もあの群衆の中にいるよね?」
「あ、確かにそうですね。」
「誰が田中か当てるゲームしよう。私は、右から27番目の青い服の人だと思うな。」
「いやいや、違いますよ。真ん中の黄色い服の人ですよ。」
そんな話をしている間に城まで結構近づいていた。
城から200mくらいまで来たときに、私達の最前列の者が止まれ!と号令した。
「何かおかしいです。誰か分かりませんが、城の前に、木の棒に磔(はりつけ)にされている人がいます。他国と外交をする際にするなんて、絶対おかしいです。」
「シゲ。これは、どう思う?城まで行くべきか?」
「これは、一旦引いた方がいいと思います。」
「舞衣様。もう敵が近づいています。」
「みんな、備えろ。」
みんなが武器に手をかけた。すると、切羽詰まったように、
「舞衣様。見てください。あの磔にされてる人を。」
「あれは田中じゃないかっ!どういうつもりなんだ。」
私達が田中の姿を見て、うろたえている間に、敵はさらに近づいて来ていた。
そして、私達との距離が50mくらいのところで、止まった。
田中は木の棒にくくりつけられ、しかも身体中の肌の色が変わっていた。おぞましい程にあざだらけだ。
「おい。お前。これは、どういうことだ。」
私がそう言うと、田中を縛り付けた木の棒を持っている破界の国のやつは、木の棒ごと、田中を私達がいる方へ投げ捨てた。ごろごろと転がり、私達と田中との距離は20m程となった。
私が田中のところへ駆けつけようとすると、シゲが私の腕を掴んで止めた。
「なんで止めるんだ。はやく行かないと。」
「だめです。これは、敵の罠に違いないです。」
「そんなこと言ってる間に田中が...」
その時、田中が何か言っているのが聞こえた。
「ま..ぃ....ぁ....ぁ.......ぃ.....げ..ぇ。」
田中がなんと言っているのかよく分からないが、ここまで田中をやったやつを私は許せない。
私は冷静さを欠いていて、シゲが言っていたことを忘れて、田中の元まで行ってしまった。私はしゃがんで、田中にくくりついているロープをほどきながら田中に優しく言った。
「田中。大丈夫か。今、運ぶからな。」
田中は私が来て安心するどころか、むしろ最後の力を振り絞るように、
「にげて!」
と言った。
え?その時にはもう遅かった。敵はみんな弓を最大限まで引っ張って、私に照準を向けていた。
もう、無理だ。私は焦りすぎて、頭が真っ白になっていた。
そして、敵はみんな矢を放った。その時、田中が私を庇うために、私に覆い被さって、私に向かってきた矢を全て受けた。
田中は血を吐き出していた。それでも私を安心させるためか、笑顔で亡くなっていた。なんで、いつも私の元を去っていく者は笑顔でいなくなるんだ。
冬の外気にさらされたように、田中がどんどん冷たくなっていく。
私は、涙が堰を切ったようにあふれ出てきた。どうやって涙を止めるのかを忘れたように。
それは、田中が死んでしまった悲しみなのか、田中をこんな目にあわせた敵に対しての怒りなのか、それとも、自分の不甲斐なさへの悔やみなのか。または、それら全部なのか。
私の涙は、敵がしゃべり出すことで止まった。
「今のをもって、俺たち破界の国は隼翔の国、蒼天の国に宣戦布告をする。」
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