2—4
◇ ◇ ◇
彼女と出会ったのは、大学祭の時でした。
ステージの上で、とても楽しそうに踊る彼女の姿があまりに綺麗で、可愛らしくて……
思わず俺は声をかけたんです。
「君のダンス、最高だったよ」って。
そしたら、彼女は笑いながら言ったんです。
「あなたは私に釘付けだったでしょう? ステージの上からはっきり見えたわ。ずっと私だけを見てた。他にも、ステージの上には人がいたのに、私だけを見てたでしょう?」
俺は本当に、その時、この人だと思ったんです。
この人と結婚したい。
この人とずっと一緒にいたいって。
でも、その願いは叶いませんでした。
反対されたんです。
お前にはふさわしくないと。
そんな女、ふさわしくないから、別れなさいと。
今時、結婚が親の言いなりだなんて、そんなのはおかしいとわかっていました。
大事なのは、俺たちの気持ちの問題だと。
けれど、あの人たちは聞き入れてくれませんでした。
俺が彼女をどんなに愛しているか、彼女が、どんなに素敵な女性か。
自分にはもったいないと思えるくらい、彼女はとても素敵な女性でした。
愛していました。
心から、本当に、彼女をずっと。
けれど、あの人たちの偏見、差別、心無い言葉を受けて、彼女の心は壊れてしまいました。
どんなに俺が、俺一人が彼女に愛を囁いたところで、彼女の受けた傷は癒すことなんてできなかったんです。
彼女の心を壊しておきながら、あの人たちは笑っていました。
自分勝手な理想、慣例、通例、こうあるべきという凝り固まった価値観。
決して認めず、家柄、親の収入、地位、権力。
そんなことばかりして、笑っていました。
それがあまりに気持ち悪くて、俺は耐えられなかったんです。
もう無理だって、これ以上、あの人たちと一緒にいたらおかしくなる。
そう思っていた、矢先のことでした。
彼女が死んだんです。
俺の目の前で……
あんな照明も、音楽も、何もない場所で、彼女は最後を迎えたんです。
壊れてしまった。
壊してしまった。
その罪悪感と喪失感は、俺の心を壊しました。
ただでさえ、壊れていたのに、日常がやってくる。
彼女の死なんて、まるで何もなかったことのように、くだらない話を繰り返し、笑い合う、くだらない日常がまたやってくる。
どうして、平気で入られますか?
元どおりになんて、なれるはずがありません。
無理ですよ。
もう、ここに、彼女はいないのに、どうやって笑えばいいのかわかりません。
俺が心から恋い焦がれて、愛して、愛してくれた彼女は、もうどこにもいないのに、どうやって笑えばいいのかわかりません。
誰が俺から彼女を奪ったんですか?
一体、何を、どこで、間違えたのですか?
俺なんかと出会わなければ、彼女は死なずにすんだのですか?
もう、わからないのです。
どうして、こんなにも悲しい出来事を、まるでなかったことのように、そんなにも無邪気に笑っていられるのですか?
わかりません。
わかりません。
どうすれば、彼女を助けることができたのでしょうか?
あの変わり果てた姿を思い出す度、こんなにも胸が痛むのに、どうしてだれも、わかってくれないのでしょうか?
俺が好きだった彼女は、こんな人じゃない。
こんな女じゃない。
違う。
違う。
違う。
違う。
違う。
もうどこにもいない。
わかっている。
それでも、つい、探してしまうんです。
あの角を曲がったら、あの公園の先に、あの店の中に、あのステージの上で、踊っている彼女に会えるかもしれないと……
探して、探して、探して。
見つからないと……
もう、どこにもいないとわかっているのに。
それでも、それでも、会いたい。
会いたい。
会いたい。
何度もそう思って、もうここにはいないならと、彼女のいる場所に行こうとしました。
でも、知ってしまった。
彼女に何がおきたのか。
彼女は、どうして死んだのか。
本当の彼女はどこにいるのか。
なぜ、俺の前から姿を消したのか。
そのすべてが偽りだったと知った時、俺の心は完全に壊れてしまいました。
最初から、全部、何もかも、嘘だったんです。
俺がいるこの世界は、この村は、この家は、全部、なにもかも、偽物だった。
始まりはなんだったのか。
わからない。
でも、これだけは言える。
この女に、殺されたのだと。
この女が、俺のすべてを壊したのだと————
許せない。
許さない。
許したくない。
許さない。
この女を殺せ。
殺せ。
この女を殺せ。
みんな、この女に殺された。
殺された。
殺された。
殺された。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
殺してくれ——————
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