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 ◇ ◇ ◇


 彼女と出会ったのは、大学祭の時でした。

 ステージの上で、とても楽しそうに踊る彼女の姿があまりに綺麗で、可愛らしくて……

 思わず俺は声をかけたんです。


「君のダンス、最高だったよ」って。


 そしたら、彼女は笑いながら言ったんです。


「あなたは私に釘付けだったでしょう? ステージの上からはっきり見えたわ。ずっと私だけを見てた。他にも、ステージの上には人がいたのに、私だけを見てたでしょう?」


 俺は本当に、その時、この人だと思ったんです。

 この人と結婚したい。

 この人とずっと一緒にいたいって。


 でも、その願いは叶いませんでした。

 反対されたんです。

 お前にはふさわしくないと。

 そんな女、ふさわしくないから、別れなさいと。

 今時、結婚が親の言いなりだなんて、そんなのはおかしいとわかっていました。

 大事なのは、俺たちの気持ちの問題だと。


 けれど、あの人たちは聞き入れてくれませんでした。

 俺が彼女をどんなに愛しているか、彼女が、どんなに素敵な女性か。

 自分にはもったいないと思えるくらい、彼女はとても素敵な女性でした。


 愛していました。

 心から、本当に、彼女をずっと。

 けれど、あの人たちの偏見、差別、心無い言葉を受けて、彼女の心は壊れてしまいました。

 どんなに俺が、俺一人が彼女に愛を囁いたところで、彼女の受けた傷は癒すことなんてできなかったんです。


 彼女の心を壊しておきながら、あの人たちは笑っていました。

 自分勝手な理想、慣例、通例、こうあるべきという凝り固まった価値観。

 決して認めず、家柄、親の収入、地位、権力。

 そんなことばかりして、笑っていました。


 それがあまりに気持ち悪くて、俺は耐えられなかったんです。

 もう無理だって、これ以上、あの人たちと一緒にいたらおかしくなる。

 そう思っていた、矢先のことでした。


 彼女が死んだんです。

 俺の目の前で……


 あんな照明も、音楽も、何もない場所で、彼女は最後を迎えたんです。

 壊れてしまった。

 壊してしまった。

 その罪悪感と喪失感は、俺の心を壊しました。


 ただでさえ、壊れていたのに、日常がやってくる。

 彼女の死なんて、まるで何もなかったことのように、くだらない話を繰り返し、笑い合う、くだらない日常がまたやってくる。

 どうして、平気で入られますか?

 元どおりになんて、なれるはずがありません。

 無理ですよ。

 もう、ここに、彼女はいないのに、どうやって笑えばいいのかわかりません。


 俺が心から恋い焦がれて、愛して、愛してくれた彼女は、もうどこにもいないのに、どうやって笑えばいいのかわかりません。

 誰が俺から彼女を奪ったんですか?

 一体、何を、どこで、間違えたのですか?


 俺なんかと出会わなければ、彼女は死なずにすんだのですか?

 もう、わからないのです。


 どうして、こんなにも悲しい出来事を、まるでなかったことのように、そんなにも無邪気に笑っていられるのですか?

 わかりません。

 わかりません。


 どうすれば、彼女を助けることができたのでしょうか?

 あの変わり果てた姿を思い出す度、こんなにも胸が痛むのに、どうしてだれも、わかってくれないのでしょうか?


 俺が好きだった彼女は、こんな人じゃない。

 こんな女じゃない。

 違う。

 違う。


 違う。

 違う。

 違う。


 もうどこにもいない。

 わかっている。

 それでも、つい、探してしまうんです。


 あの角を曲がったら、あの公園の先に、あの店の中に、あのステージの上で、踊っている彼女に会えるかもしれないと……

 探して、探して、探して。


 見つからないと……

 もう、どこにもいないとわかっているのに。


 それでも、それでも、会いたい。

 会いたい。

 会いたい。


 何度もそう思って、もうここにはいないならと、彼女のいる場所に行こうとしました。

 でも、知ってしまった。

 彼女に何がおきたのか。


 彼女は、どうして死んだのか。

 本当の彼女はどこにいるのか。


 なぜ、俺の前から姿を消したのか。


 そのすべてが偽りだったと知った時、俺の心は完全に壊れてしまいました。

 最初から、全部、何もかも、嘘だったんです。


 俺がいるこの世界は、この村は、この家は、全部、なにもかも、偽物だった。

 始まりはなんだったのか。

 わからない。


 でも、これだけは言える。


 この女に、殺されたのだと。

 この女が、俺のすべてを壊したのだと————


 許せない。

 許さない。

 許したくない。

 許さない。


 この女を殺せ。

 殺せ。

 この女を殺せ。


 みんな、この女に殺された。

 殺された。

 殺された。

 殺された。


 殺せ。

 殺せ。

 殺せ。


 殺してくれ——————






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