3ー4
御子柴は死んでいた。
しかし、Yonaの配信にコメントは届き続ける。
何度も何度も、謝っている。
一方的に流れ続ける死者からのコメント。
204号室から見つかった御子柴の遺体からは、スマホは見つかっていない。
誰かが御子柴のスマホから送信しているようだと、東に連絡した刑事が言っていた。
しかし、送っているのは間違い無く、御子柴本人だと友野は確信している。
東と南川がリビングで麻里子から話を聞いている間、友野はトイレを借りると言って席を立った。
奇妙な音が聞こえているのは、トイレの隣にある脱衣所。
その天井にある点検口。
閉じられているが、友野にはそこから垂れ下がっている両足が見えている。
上半身は、閉じられた点検口の上にあって、顔が見えない。
そっと点検口を押し上げて、顔を確認してみると、そこにはあの写真に写っていたヤクザのような男————御子柴の顔があった。
御子柴の霊が、天井裏にあるスマホを操作している。
配信にコメントを何度も何度も送り続けていた。
「おい、お前、何をした? どうして、204号室で死んでいた」
「…………」
御子柴の霊は、何も答えなかったが、天井裏の奥を指差す。
友野は近くにあった折りたたみの丸椅子を見つけ、その上に登って点検口の中を覗き込んだ。
天井裏は思ったより広く、御子柴の霊が指差した先には、大きな壺が一つ。
スマホのライトで照らしながら中を確認すると、大量の骨が出てきた。
忽然と消えた千羽の鶏の骨だ。
「これのことか?」
御子柴は首を横に振って、もう一度指差した。
その方向へ奥に進むと、もう一つ同じような大きな壺がある。
下から、事情聴取をしている東たちの話し声が聞こえる。
天井裏で全て繋がっているようで、ちょうどキッチンの上あたりの位置だった。
その壺からは、妙な気配がしている。
ガタガタと時折揺れるのだ。
中に、何か生き物が入っているような……そんな動きだった。
誰か人でも閉じ込められているのかと、友野は思った。
子供であれば、入れそうな大きさの壺であったから。
それなら、すぐに助けなければと、蓋をあける。
すると————
「うわああっ!!」
あまりの気持ち悪さに、思わず声が出てしまった。
中にいたものと目があった。
腐った肉の塊の間から、こちらを見つめる……目。
まるで、福笑いのように、バラバラの位置にある鼻と口。
人間を作ろうとして、失敗したような————そんな化け物だった。
* * *
科捜研が押収された壺の中を調べると、千羽の鶏の骨、人間の骨、そして、血液が少々含まれていた。
それはおそらく、御子柴が作ろうとしていた不老不死の薬だ。
しかし、何か手順を間違えたのか、失敗したようで完成図とはまるで違う出来上がりになっている。
なんの効力もない、ただの骨と血の混ざったものであった。
二つ目の化け物が入っていた壺。
厄介なのはこちらの方だった。
腐った肉の塊。
異臭を放ち、動き出す気持ちの悪い化け物。
友野にはそう見えていたが、見えない人間からしたらただの腐った肉の塊。
友野はすぐに、それを焼却した方がいいと言ったが、一応、中身を調べた結果、壺のそこから遺骨が出て来た。
DNA鑑定をした結果、それは本来墓に入っているはずの江中の息子の遺骨だと判明。
あとで御子柴の家にあった本を確認すると、そこには蘇りの儀式というものがあり、肉親の血と、遺骨と動物の肉を壺に漬け込み、
麻里子は、点検口なんてのぞいたこともないし、壺の存在を知らなかったと主張。
たしかに、二つの壺からは江中と御子柴、それから江中の旦那の三人のものしか見つかっていない。
「こんなものが、私の部屋の上にあったなんて……気持ち悪い————」
後日、報酬の支払いに占いの館を訪れた麻里子は、魔女であるという誤解は解けたものの、相変わらず全身真っ黒の魔女のような姿をしていた。
「なんでも、警察の方の話じゃ、江中さんとその死んだ男の人で誰も住んでいなかった私の部屋で儀式を行っていたそうです。それがバレて、旦那さんが売ったそうですよ」
麻里子の話によれば、ついに江中が自供したらしく、江中は息子を蘇らせるため、御子柴は不老不死の薬をYonaに渡すために協力していたらしい。
「でも、あの二人に接点なんてあったんですか? 一体どこで知り合ったんでしょうか?」
「さぁ、そこまでは……」
渚と麻里子が首を傾げていると、それまで黙っていた友野が口を開いた。
「————あの犬だよ」
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