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 確かに、友野はエセではあるが占い師だ。

 しかし、こんな道端で占えとは意味がわからないし、相手は自分を怪しいと占い師なんて怪しすぎると言った刑事。

 めんどくさいことこの上ない。


「首無し男を目撃した人は、必ず死ぬと村長が——……」

「は、はい? なんですか、それ……」


 蛍の方を友野は見たが、その話は初耳だったようで首をかしげる。

 この西村が言う通り、目撃した人が死ぬのであれば、蛍にも死相や呪いか祟り等、何か憑いているものが友野にも見えるはずだが、そんなものはない。

 西村に憑いているものは確かにあるが……

 それも首無し男は関係なく、この思い込みが激しい刑事に逮捕されかけた無実の人たちの怒りの念くらいだ。


「死ぬかもしれないんですよ! 今朝、確かに首無し男を見た!! にも関わらず、さっき警部からきた連絡じゃ、死体の身元が判明しそうだとか……わけのわからないことを————!! あれは祟りだ!! でなきゃ、この西村の目がおかしいということに…………いや、もうすでに呪いによっておかしくなっている? そんな……まさか」


 西村はなんだか一人で勝手に推測して、勝手に結論づけようとしているようだった。

 友野は呆れながら、西村が村長に何を言われたのか落ち着いて話して欲しいというと、狐のようにつり上がっている目とは逆に、眉が情けなく下がる。



「だから、村長の話だと首無し男を見た……と言った人間は、必ず死ぬか行方不明になっていると——……」





 ◇ ◇ ◇




 首無し男の伝説は、この村じゃぁ常識です。

 年寄りから若いもの……子供達だって知ってる話です。


 でも、ほら、やっぱり時代の流れと共にね、色々と科学的に証明されたりなんだりすることって多いじゃぁないですか。

 昔は鬼だと信じられていたものが、実は病気だったとか、目に見えないウィルスだったとか……そういうの、あるでしょう?

 聖徳太子も実在しなかった……とか、鎌倉幕府ができた年号が違うとか……そういうやつです。


 それで、最近の若い子たちはそこまで信じていないんですよ。

 でもわしらのような歳のいったもんたちはね、子供ん頃からそういう話を聞かされてるし、実際に首無し男を見たって言い出した人が死んだところも見てるんですわ。

 数年とか、何十年に一度とかで、たまにあるんです。

 見たって言っていた人が死んだとか、行方不明とかになったって話が……


 わしが覚えてる限りではうーん、三回ですわ。

 わしが子供ん頃——だから今から五十年くらい前に、「首無し男を見た」って言ってた近所の婆さんが、豪雨の時に流されて死んで……

 あん時、首が流れてきた木に引っかかっててなぁ……

 切り離されてるかのように見えなくもなかったですわ。


 あとは、二十……いや、三十年くらい前に、そん時、正さん——……ほら、あの例の温泉旅館がまだ繁盛してて、正さんが村長やっとった頃ですわ。

 正さんが知事選に出馬するとかしないとか噂になってたころなんで……


 そん時、旅館で働いとった仲居がね、行方不明になったーって大騒ぎ。

 その仲居も、いなくなる何日か前に番頭に「首無し男を見た」って言ってたらしいんで、そのせいじゃぁないかって話ですわ。


 で、最近だと……まぁ、最近って言っても、七年くらい前だけど……

 正さんとこの孫が失踪したのも、そのせいだと言われてるんですわ。

 首無し男を見たから、怖くて村から逃げたんじゃぁないかって……


 あの子は結構その、じいちゃんっ子てやつでね、小さい頃から正さんみたいになりたいーって、よく言ってたから……

 正さんってね、今はちょと、ほら年齢的にもう歳だからボケてきちゃってるけどね、あの人剣術の使い手だし、村長として村のみんなから慕われてたんでね……

 男の子からしたら、そりゃもう、自慢のじいさんだったんでしょうよ。


 だから村の伝説のこともね、きっと、誰よりも信じてたと思うんです。

 他の若い子たちより、ずっとね————



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