2—3
友野は集中して、残っている足跡をたどる。
かなり薄くなっているため、普段より霊力を使うことになるが仕方がない。
階段を降りたところで、管理会社に電話していた渚とすれ違った。
「はい、実は叔父が自ら命を絶つと言って————!」
泣きそうな演技をしながら、とんでもない嘘をついている渚を尻目に、友野は目を細めて、その跡をたどる。
アパートの敷地を出て、左に曲がってしばらく進むと、二車線の道路がある歩道の縁石の前で途切れていた。
「ここで終わりか……」
友野は他に何かないか見渡すと、そのすぐそばに花が添えられていることに気がつく。
まるで、ここで事故でもあったような……
「先生、どうしてここに?」
電話が終わって、友野の後を追って来た渚が小首を傾げていた。
「ここに繋がってる……小宮さんはここで亡くなってるよ」
「え……!?」
ちょうど渚が立っているその場所に、小宮の霊が残っている。
恐怖に怯えたような表情で……
泣いていた。
* * *
「どうして、その遺体が身元不明だと?」
「本人がそうだと訴えているので……とにかく、調べてもらえませんか? どういう状況で亡くなっていたか」
翌日、友野は東警部補に会いに警察署に行った。
小宮の霊は「アレが怖い。アレが来る。アレが怖い」と繰り返して泣いていて、あまりにも情報が少なすぎたのだ。
管理会社の人間に聞いたが、小宮が死んでいるなんて話は聞いていないし、遺族からの連絡等もなかったらしい。
そうなると、身元不明で亡くなっている可能性が高い。
警察の力を借りるのが一番だ。
「封印されていた、小宮さんが恐れているアレが……一体何なのか、はっきりさせないと今後も警察の手には追えないような奇妙な事件が続くと思いますよ?」
小宮が交通事故で亡くなったのであれば、それは一体いつのことなのか……
友野はそれが知りたかった。
「南川、ちょっと調べてやれ」
「は、はい!」
ただでさえ、最近の虎一匁事件が難航しているというのに、これ以上妙な事件はごめんだと、東は南川に警察のデータベースを調べさせた。
その間、東はホワイトボードに貼られた虎一匁事件の被害者の写真を改めて見つめて考える。
「あ、これって虎一匁事件ですよね!!」
「おいおい、ナギちゃん、勝手に見るんじゃない……」
東は見るなと言ったが、今話題の————それも幽霊の噂を聞いたばかりの事件に、渚が興味を示さないわけがない。
おとなしく座って待っていればいいものの、渚は嬉しそうに目をキラキラと輝かせた。
「あの話、本当なんですか? 幽霊に殺されたって話!」
「幽霊……? いや、幻覚だよ。当日の被害者はかなり泥酔していたから……」
「でも、私の友達が見たって言ってたんですよ。四人目の被害者……————この人がホテルの部屋に入って行ったとき、綺麗な女の人が隣にいたって」
「綺麗な女の人……? なんだ、それは……どういうことだ?」
被害者がホテルの部屋へ入っていく様子は、監視カメラに残っている。
だが、そこに女なんて映っていなかった。
「映っていないから幽霊なんですよ!」
渚の熱量に負けて、ついつい東は事件のことを話してしまう。
友野はまた渚が幽霊の話で暴走してるなーと、呆れながら話半分に虎一匁事件の話を聞いていた。
「幽霊って……じゃぁ、その綺麗な幽霊ってやつに殺されたってことか? それなら、遺体の腐敗具合が早いのは幽霊が犯人だから——……って、さすがにここまでの事件じゃ、それで片付けられないな……」
東と南川は何度かそういう事件に遭遇しているため、友野や渚のいう霊的なものを信じてはいるが、他の刑事たちはそうはいかない。
ましてや、この連続殺人事件の犯人が幽霊でした……なんて、そんな簡単に警察が認められるわけがない。
「あ、ありました! 友野先生が言っていた事故、きっとこれですよ」
あの道路で起きた事故の情報が見つかり、南川は詳細を読み上げた。
「遺体が発見されたのは二ヶ月前。大雨が降った翌朝で、頭をタイヤに轢かれて倒れていたようです。雨で流されてしまって、証拠はあまり残っていませんが、ひき逃げ事故として処理されていますね。身元を示すものは特に所持してなくて……あ——……」
そこまで読んで、南川は言葉を詰まらせた。
「…………発見時の遺体の腐敗状況から、死後三日以上経過のはずだが……発見当日以前の周辺住人からの目撃情報なし」
友野と東は同時に南川の方を向いた。
「それじゃぁ、三日以上も放置されていたってことですか? あの道路、日中は交通量そこそこありますよね? おかしいですよ、それ」
渚のいう通り、人が倒れているのに、三日以上も放置されているはずがない。
友野が遺体の写真を確認すると、小宮に似ていた。
だが、痩せている。
小太りだった中年男性の体型ではなく、病的なまでに————
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