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* * *
三好が警察署へ連行された後、友野は渚と予定通り児童たちがドッペルゲンガーを目撃した教室を見に行った。
地方誌の記者が来ると聞いていたが、まさかテレビで何度か見たことのある占い師の先生がやって来るなんて……と、三好の代わりに案内を申し出たのは、同僚の女性教師だった。
「他にも教室はありますけど、どうしてこの教室でなければならないんですか?」
「それはですね、この教室が風水的に一番いい位置にあるから————ですよね、先生?」
「あ、あぁ……そうです」
渚は自分がその地方誌の記者……ということにして、適当に理由をつけてなんなく教室へ入ることができた。
こういう変に疑われずにいられる嘘をつく渚の能力は、妙に長けている。
「それじゃぁ、まずはこの辺りの写真を撮りますね」
渚が写真を撮るふりをしている間に、友野はドッペルゲンガーが立っていたという教壇の方をじっと見つめた。
だが、特に不自然なところはない。
授業中であれば、日中の出来事ということ。
小学生は霊やあやかしの類を見ることができる確率は、大人よりも高いのだが、三好の話によると、このクラスのほぼ全員の児童が目撃しているというのは妙だった。
「どうです? 先生……何か見えました?」
案内してくれた女性教師が教頭に呼ばれて、教室を離れた隙に渚は友野に訪ねた。
「いや、特に何もないな……普通、小学校なら霊の一人や二人いるものなんだけど……この教室にはそれすらいない」
「え!? そんな頻度でいるものなんですか? 私、小学生の時は見えてたのに……気づきませんでした」
「……それは、君が見え過ぎてたせいで気づかなかったんだろう。人間と混同して見えていたはずだ」
渚はかつて、友野のように霊が見える体質だった。
それもかなり強い。
しかし、大人になるにつれてその能力は退化してしまう。
オカルト好きの渚は、それが何より悔しかったが、友野といればまたそういう現象を見えないなりに体験できることが楽しくて、こうして自称助手として、勝手に友野に仕事を持って来るのだ。
「じゃぁ、私の初恋の相手が、人間じゃなかったって可能性も十分にあるのね……」
一体何を思い出しているのか、少しうっとりとした表情で渚は教室の隅を見つめる。
友野は、余計なことを話してしまったと後悔しながら、改めて教室内を見渡しながらぼそりと呟いた。
「せめて初恋ぐらい人間相手であって欲しかったんだけどね……」
「ん? 先生、何か言いました?」
「いや、なんでもないよ……気にせず思い出に浸ってくれ」
黙っていれば可愛いし、男ならイチコロになってしまう容姿の持ち主なのに、渚は生身の人間の男に興味がないのである。
友野は、実はそれが悪霊より怖かったりする。
「ん……?」
やはり、教壇の周りには特に何もない。
だが、廊下を歩く足音と共に、何か嫌な感じのする空気が流れてくる。
「どうしました、先生?」
友野がドアを開けて教室を出た頃には、その嫌な空気を纏っていた人物は廊下の角を曲がってしまい、後ろ姿しか見えなかった。
長い髪を、後ろで一つに束ねた女性だ。
案内してくれた教師とは違う、小柄の女性。
「いや、なんでもない……多分、あれは別件————だと思う」
おそらく、三好のドッペルゲンガーとは違う別の何かであると判断し、友野たちは三好が言っていた表通りのカフェや映画館に向かおうと学校を後にする。
ちょうどその時、南川から友野へ連絡が来た。
「……え? 監視カメラにドッペルゲンガーが映ってる?」
友野は眉間にしわを寄せて、訝しげな表情を浮かべる。
「ドッペルゲンガーが、カメラに映ってるんですか!? なんですかそれ!!」
すぐに反応した渚は、絶対に今すぐに見たいと言って聞かず、結局二人は一度占いの館に戻ることになった。
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