信号のある交差点。人は交わらない

@yayuS

信号のある交差点。人は交わらない

 交差点。


 信号を待つ僕は、横断歩道を渡る彼女に、いつも目を奪われる。


 中学時代に好きだった相手。


 勇気のない僕は、話しかけるなく卒業を迎えてしまったのだけど。




 長い髪を三つ編みで纏めた彼女は、姿勢正しく歩く。


 その姿が好きだった。


 朝、憂鬱な気持ちで学校に通う僕にとって、彼女とすれ違うことは、幸運だった。




 中学時代と違う制服。


 中学時代、彼女は吹奏楽部だったけど、高校ではテニス部に入ったのかな、ラケットを担ぐことが多くなっていた。




(今日、すれ違ったら声を掛けよう)




 高校に入ってから何度思ったのだろうか。


 今日こそはと決意して僕は交差点を目指す。




 その日、彼女は交差点にいなかった。


 残念だと自分に言い聞かせるが、心のどこかで安堵している自分もいた。




(明日、明日こそは……)




 翌日。


 僕は決意を胸に交差点を目指した。


 すると、赤信号で待つ彼女が立っていた。




 バクンっ。




 アクセルを踏み込んだかのように心臓が高鳴る。


 いや、高校生だから、アクセルなんて踏んだこともないんだけど。


 余計なことで頭の中が一杯になる。




(やめろ、余計なことを考えるな。思考にブレーキをかけるんだ)




 だから、ブレーキも踏んだことは無いんだって。


 あ、でも、ブレーキは自転車についてるから、感覚は分かるのか。




 感覚を知っているはずなのに、ブレーキは掛からない。それどころか、言い訳は加速していくばかり。




 朝は忙しい。


 いきなり、話しかけるのは迷惑だ。


 今日は風が強いから髪型が崩れてるぞ?




 決意を押し流された僕は、足を止めることなく横断歩道を渡った。




(また、やっちゃった。来週、来週こそは――)




 月曜日。


 本日は晴天。


 風もない。


 髪型もしっかりセットした。


 朝、忙しいのは分かるけど、数分だけ時間を貰おう。




 僕は何度目かの決意で交差点へ向かった。


 こういう時に限っていないんだと思ったけど、彼女はそこに――いた。


 横断歩道の前で待っていた。




 僕は目の前にある赤い信号を見て足を止める。


 心を落ち着かせるために深呼吸をする――。


 うん?


 僕の前にある信号が赤なのであれば、彼女の方は青でないのか。


 よく見れば、彼女は横断歩道から少し離れた場所で待っていた。遠目で見ても雰囲気が違う。お化粧しているのか?


 まさか、彼女も――。


 都合のいい考えが脳内を走る。


 だが、現実は――。




 青信号の点滅と共に1人の男子高校生が横断歩道を走ってきた。


 彼女は手を振り、横に並んで手を取った。




 僕は2人から逃げるように交差点を渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信号のある交差点。人は交わらない @yayuS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ