第66話 告白

 そして、夕刻を迎えた頃、園遊会での余興も何もかもが台無しになっての状況の中、王が全ての招待客に詫び、そしてルークに詫びた。


「この度は我が国の、諸侯には迷惑をおかけした。深くお詫びする」と国王自ら頭を下げた。

 その言葉は、もはや弟とも息子とも言わないキリクアの非情とも言える言葉でもあった。


「時にルーク殿、この度は貴殿に特にご迷惑をおかけした。本当に申し訳ない。そして我が国の公爵令嬢イリューリア嬢をお守りいただきありがとうございます」と王妃共々、諸侯居並ぶ中、頭を下げたのだ。


 この王と王妃の潔い姿は園遊会に招かれた諸侯には快く受け入れられ、その場でそれ以上王家に対して不満を告げるものは居なかった。


「いいえ、今回の被害者であるイリューリア嬢の立場になって、処遇していただけた事に感謝いたします。そして、この場を借りてデルアータ国王ならびに宰相殿にお願いしたい事が…」


「なんと!願いとは?何なりと仰せ下さい。出来うる限り望みを叶える努力をいたしましましょう」と王が請け負う。


 そしてルークは望みを言った。


「私、ラフィリルが聖魔導士ルークに、この国デルアータの公爵令嬢イリューリア・エルキュラート嬢に婚姻ののご許可を…」と片手をイリューリアとつないだままにもう片方の手を胸に当て跪いた。


「「「「「まぁ」」」」」


「「「おお」」」


 各国の親善大使達を前に、醜態をさらしてしまったデルアータの王に敢えて、ルークは礼を取った。


 このであるルークが、礼をとったのだ。


 他の国も、習うより仕方なくなる。

 ルークのこの行為によって、デルアータを侮る国は無くなるだろう。


 それは、今回の不祥事で、、ルークの気遣いから出た所作だった。


 単に望みがあるのならルークの立場からなら命じれば良いだけである。

 そこはイリューリアの母国であるのだからと気をきかせたルークなのだった。


 その流れるような所作は洗練されていて上品で思わず諸侯の熱いため息を誘った。


「この申し込みは、国を挙げてのものではなく、王家に姓を返上した私は、単なる一個人。イリューリア嬢が望まないのであれば潔く身を引くことをお約束いたします。そしてこの言葉は、今、ここにいる大使の皆さまが証人となり証言して下さる事と思います」と伝えた。


 ”!”とルーク自身が思う。自分とて大国の王子、ふつうに婚姻を申し込めばイリューリアの立場からは受け入れるしかなくなるだろう…しかし、ルークは、こっそりとイリューリアに確かめていた。


 あの阿保なローディ王子が、イリューリアに同意の言葉をを求めていた時に、こっそりと耳打ちした言葉…。


 それは…。


『ボクガ、キミニ、コノバデ、コクハクシテモ、キミハ、コマラナイダロウカ?』


 その時、イリューリアは頬をそめてコクリと頷いたのである。

 それは、だった。


 その時、ルークの覚悟は決まった。


 この衆人環視、世界各国の要人たちの見守る中、堂々とプロポーズしようと!

(正確には、イリューリアは、知らしめておこう!と、言った方が正解かもしれない)



「「「まぁ、なんて奥ゆかしい」」」


 人々の呟きにラフィリアード公爵夫妻は思う。

((いや、奥ゆかしくはないだろう!けっこう、大胆だし!))


「「「「「誠実な方だ」」」」」

((確かに!浮気とかはしないだろうね))


「悔しいが、あの方ならば、相応しい」

((まぁ、性格もいいしね!))


「夢のようなお二人ですわ」

((だよね(な)!美男美少女!))


「「「「ほうっ」」」」

((うんうん!))


 と次々に言葉がもれる。


 ちなみに性格のよろしくないご令嬢達はすでに、騒ぎの起きる前に、退場されているので、周りの声は好意的なものばかりである。



 王も王妃も、そしてイリューリアの父も笑顔で頷く。


 王は父であるカルムに目をやるとカルムが答える。


「謹んでその名誉あるお申し出を受けまする。どうぞ、娘にお申し込みください。お言葉通り、娘の心のままに選ばせましょう」と答えた。


 その申し込み様は、親のカルムからしてみれば百点満点である。


 "断っても構わない。"

 それを周りにも周知し、証人とさせたのである。


 まぁ、これまでの様子を見る限り、娘が断る筈も無いとは思うものの、この前振りの心遣いが父としては、嬉しい。


 カルムの心の中では既に"自慢の娘婿"である。

 やることなす事恰好良すぎてもう、堪らない父カルムである!


 そしてルークはイリューリアに向き直り、愛の言葉を伝える。


 この大勢の賓客たちの中で…。


「イリューリア・エルキュラート嬢、貴女を愛しています。貴女をお守りすることが私の喜び、貴女の笑顔が貴女の幸福がわたしの幸せ。どうかわたしの妻となり、貴女をわたしに守らせて頂く事をお許しください」と、まるで騎士の忠誠の誓いのようにひざまずき懇願した。


 真っ赤に頬を染めたイリューリアが、花のような笑顔をほころばせ「はい…」と頷いた。

 イリューリアの心臓はドキドキバクバクと早鐘を打つように高鳴り、感極まって涙目になり、もうそれ以上の言葉も出ない。


 周りからはわっと歓声と拍手が鳴り響いた。

 年若い令嬢方からはうっとりとした、溜め息がもれる。


「「「ほぅっ…!なんて素敵なの」」」


「「「「「素晴らしい!」」」」」


「「「「「「おめでとうございます」」」」」


「「「感激しましたわ!」」」」


 園遊会は一転、祝賀ムードに変わり王も祝福する。


「なんとめでたい!散々な園遊会と思いましたが、ルーク殿とイリューリア嬢のお陰で、素晴らしい終わりを迎えられそうです!さぁ、せめて最後のダンスを!」

 と園遊会最後に催される予定だった舞踏会へと王が言葉を繋げると楽師たちが音楽を再開した。


 花の咲き誇る庭園にはあちことに火が灯り、美しい夜花をうかびあがらせ、昼間とは違ったより一層、幻想的な空間が埋まれ、最後のダンスが始まった。


 ラストダンスである。

 そして、晴れて婚約したルークとイリューリアが、中央に躍り出る。


 美しい二人は物語の主人公のようだった。


 ラフィリアード公爵夫妻もそのダンスに加わり、一斉に諸侯もダンスの輪に入っていった。


 そして園遊会はで幕を閉じたのであった。

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