王様のなやみごと
湯たぽん
王様のなやみごと
むかーしむかし、【花の森】という土地がありました。
そこは古く立派な大木が何本も何本も何本も生えていて、そのどれもが色とりどりのとてもキレイな花を咲かせていました。甘い果実もいつでもなっていて、まさに地上の楽園でした。
そんな花の森には「王様」と呼ばれる、1頭の火を吐く竜が暮らしていました。
王様は身体こそ他の火竜と比べ小さめでしたが、鋭い瞳は紅く爛々と輝き、怒っていなくてもいつも大きく膨らんだ鼻からは火がメラメラと吹き出していて、他のモンスター達からも恐れられ、広い広い花の森全てをナワバリとしていました。
さらに、王様は敵がいなくても頻繁に大きな火を吐き出し暴れまわるので、人はおろか他の火竜も、強力な古龍でさえも花の森には近づくことはありませんでした。
そんな王様なので仲間は居ませんでしたが。
『1人だけれど、こんなに素敵な森に住めるんだから良いや〜』
豊かな花の森の恵みのお陰で王様はひとりでものんびりぜいたくに暮らしていました。
でも、王様には1つだけ悩みがありました。
ハーックション!!!
王様は、鼻炎だったのです。
大きく赤く腫れ上がった鼻は燃える鼻水で溢れかえり、瞳は真っ赤に充血。たえずクシャミをしているので、そのついでにいちいち火が吹き出てしまうのです。
そう、王様はこの悩みゆえに王様であることが出来たのです。
そんな、いつでも鼻炎に悩んでいる王様が住む花の森に、ある日もう1頭火竜がやってきました。
その火竜はとても大きく、美しい雌でした。
「女王様」と呼ばれた彼女はとても気高い性格で、誰も近寄らない花の森にも怖じ気づく事なく足を踏み入れました。
『わぁ・・・・こんにちは』
王様は、珍しく自分を恐れない、しかもとびきりキレイな牙と形の良い尻尾を持つ女王様に一目惚れしてしまいました。
『あなたが・・・・王様?』
女王様のほうも、王様の思ったよりもずっと小さな体躯と、話に聞いていたのと全く違う穏やかな雰囲気に、すぐに惹かれていきました。
『僕なんかよりも、とてもキレイな君のほうが女王様としてこの森によく似合っているよ!僕と一緒に、ここに住まないか?』
王様は、必死にアピールします。女王様もまんざらではない様子でしたが。王様は、異性へのアピールよりも必死にならなければならないことがあったのでした。
『えぇ、あなたが良ければ私もここに・・・・』
女王様が頷こうとしたまさにその時。
王様の我慢は限界を超えてしまいました。
ハーックション!!!
女王様に気に入られようと、ずっと我慢してきたクシャミが、超特大の火柱となって大爆発してしまいました。女王様にかけまいと、必死に上を向いた王様の口から天高く。
『は、ハーックション!クション、ヴェーックション!ちくしょう!』
しかも悪いことに、一度堰を切ってしまったクシャミは止まらず、連続で大きな火の玉がそこら中に飛んでいきました。
『きゃあっ!』
さすがの女王様も、これにはびっくり。今の今まで穏やかだった王様が突然暴君に成り果てたのですから。
『あ、待っ・・・・ハーックション!』
クシャミと一緒に巨大な炎がたちのぼる中、まともにしゃべれもしない王様は引き留める事が出来ず、女王様は花の森から逃げ出してしまいました。
ようやくクシャミがおさまり、1人ぼっちになってしまった森の中で。
王様は、泣きました。
『なんで・・・・!なんでこんな鼻・・・・!』
憎い鼻を、地面に叩きつけます。王様はクシャミし続けながら、何日も何日も泣き続けました。
『こんな鼻・・・・!壊れてしまえ!!』
クシャミが止まらない鼻を憎みました。
でも、それ以上に
『こんな僕・・・・!!死んでしまえ!!!』
大好きな女王様の前でクシャミさえ我慢できない自分が許せませんでした。
爆発するクシャミを連発し、炎が吹き出し続ける鼻をどこにでも叩きつけ、燃える涙を流し続け。
王様の悲痛な叫びは、花の森中に響き渡り、その炎は森中に火をつけ。泣き叫ぶ王様を中心とする大きな火事は、その後燃えるものがなくなるまで続きました。
1ヶ月ほど経ったのち。
女王様は、王様を心配して花の森へもう一度足を踏み入れました。
そこは、1ヶ月前と同じ場所なのが信じられないほど、死の世界が広がっていました。何もかもが焼け落ちて、真っ黒に。
でも、そんな中に。
『・・・・あ。』
『えへへ、ごめんね』
王様が立っていました。
しょんぼりはしていましたが、元気そうに。
『花の森が焼けちゃったのが、僕には良かったみたい。申し訳ないことしちゃったけれど・・・・』
王様の火を吐くクシャミ、鼻炎は花の森の豊かすぎる花達が原因の花粉症だったのです。王様が怒りに任せて花の森を焼き払ったおかげで、すっかり鼻炎は治ってしまいました。
そして、焼け野原となった花の森はもはや花の森ではなく。火を吐く竜なのに火が弱くなった王様は
もはや王様ではありませんでしたが。
事情を知った女王様は、前よりももっと王様を好きになりました。
もちろん王様も、こんな自分を受け入れてくれた女王様をもっともっと好きになりました。
『じゃあ約束どおり、ここは私が女王様として君臨させてもらうわね?』
身体の大きい女王様が王様ごと荒れ地を守り。
2頭の火竜はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
おしまい
王様のなやみごと 湯たぽん @nadare3
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