第6話 大人びたお姉さんと

~大人びたお姉さんと~


友達にクリスマスパーティに誘われて、それを断れる……それだけでなんだかゆーえつ感。

だけど親しい子たちは「ああ、そっか忙しいもんね」といつものことみたいに言うだけ。

確かによくよく考えてみたら今までほとんどそういうのに参加したことはなかった気がする。


ぐぬぬ。


でも今年のわたしは一味違う!

なにせ今回はショーシンショーメー予定があるのだ!

大好きなユミ姉とふたりっきりでデートをするっていう重大な予定が!!!


大学生になったユミ姉はすっかり大人っぽくなっちゃって、このままだとひょっこり恋人を作っちゃってもおかしくない。

高校生になったとはいえまだまだ子供なわたしがユミ姉の一番でいるためには、もう恋人になるしかない。

だから今回のデートで、そこのところをシロクロはっきりつけようというわけだ。


ほんとはユミ姉から告白してほしかったけど……しかたない。

そんなことを言ってる間に他の子にとられちゃったら大事件だ。

ジッサイわたしの友達にも、ユミ姉がカッコいいって言う子いるし……ぐぬぬ。負けてはいられない!




というわけできたる決戦の日クリスマス

目いっぱいにおめかしをして、この日のための勝負下着を身に着けた。

おしゃれは内側かららしい。さすがに見せる予定はないけど、こう、にじみでるえろすでのうさつ……みたいな? そんな感じだ。ふふふ。


そうして自信満々で待ち合わせの場所に行って。


「あ、メイちゃん。こっちこっちー」


―――誰、だろう。


こっちに向けて手を振る人を見て、最初そう思った。

だけどすぐにわかる。

当たり前だ。

わたしの大好きな人―――ユミ姉。


だけど、シックなコートに身を包んで耳にささやかなピアスをきらめかせるその人が、いつもよりもずっと、遠くて。


「わぁ。ふふ。今日は一段と可愛いね」

「ありがと……ユミ姉、も。めちゃくちゃキレイだね」

「ありがと。メイちゃんとクリスマスデートだからね。気合い入れてみたんだ」

「そっか……うれしい」


うれしい。

それはほんとのことで。


ユミ姉が私の手を取ってくれる。

いつもみたいに自然に。

それもうれしい。


うれしい、のに。

どうしてだろう。

すなおに、喜べない。


「メイちゃん?」

「あ、ううん。なんでもない。えへへ、わたしもユミ姉のために頑張っちゃった」

「うん。ありがとう。なんだかいつもより大人っぽくて、一瞬誰だか分らなかったや」

「そーでしょ」


……それは、わたしのセリフだよ。

ユミ姉って、わたしなんかよりずっとお姉さんなんだ……。


「―――メイちゃん。デートの前に、ひとつだけ、お願いしても、いい?」

「おねがい……?」

「うん」


ユミ姉は私の目を見て、くっと表情を引き締める。

何か大切なことを言おうとしているんだと伝わってきて、わたしも自然と背筋がピンとした。


「メイちゃん。私と―――恋人になってくれませんか」

「……………………ひょあっ!?」


なっ、にゃっ、にゅ、ほぇあっ!?


「なんっなえっなななななんで!?」

「そりゃあまあ、好きだから?」

「じゃなくて! なんでユミ姉が!? あれ!? 好きだからってえ!? あれ?!」


わけが分からない!

わたしが告白するつもりで、なのにユミ姉が告白して?

しかもこんなデートの初めで、っていうかあれ? じゃあわたしはユミ姉に告白しなくていいっていうこと? いやでも、あれ、え、うん????


「メイちゃん驚きすぎだよ」

「おどろくよ! だって、」

「だって自分も言おうとしてたから?」

「ぐむっ、……そ、そーだけど」

「ふふっ、よかった。勘違いだったらどうしようって思ってた」


にこにこ笑うユミ姉。

わたしが告白しようとしてたの、バレてる……?

だから今日、今になって告白を……?


「ああ、言っとくけど、今日告白しようっていうのはずっと前から決めてたんだよ」

「な、なんで……?」


訳が分からず聞いてみると、ユミ姉はわたしをぎゅっと抱きしめてくれる。


「好きだから、だよ。好きな人と特別な関係になりたいっていうのは、当たり前のことでしょう? ……他の誰にも渡したくないって思うのは、当たり前のことでしょう」

「だ、だれを?」

「メイちゃんを」


正直、理解ができなかった。

だってそんなのって、おかしい。

それはわたしが思ってることで、ユミ姉の思ってることじゃないはずなのに……


「ほんとはね。もっとメイちゃんが大人になってからじゃないとって思ってた。せめて大学生とか。そうじゃないと、よくないんじゃないかなって。でも、ごめん、待てない」

「どうしてそんな、」

「メイちゃん、気がついてない? 高校生になってからメイちゃんってますます魅力的になってるの。学校でもきっと告白とかされるでしょ?」

「されないよ!」

「じゃあきっと明日にでもされるよ。それくらい、毎日毎日、メイちゃんはかわいくなってる」

「ぅ」


面と向かってそんなことを言われたらハズすぎる……

しかもユミ姉はめっちゃホンキっぽいし……


ってゆーことは、もしかしてわたしたちって、お互いにおんなじことを思ってたの……?


なんかそれって、なんだろ。

……へんなの。


「も、もぉ。なんか、緊張してたのがバカみたい」

「えぇっ。ごめん……」

「そーじゃなくて!」


しゅん、となるユミ姉はいつものユミ姉だ。

どんなに大人になっても、たぶんきっと変わらないところ。

こういうところが、やっぱりわたしは大好きなんだ。


わたしは嬉しくなって、ユミ姉にはじめてのキスをした。


返事の代わり。

ほんとはもっとロマンティックでオトナなムードの中がよかったけど―――まあ、これもこれでっていう感じ。


「わたしだってユミ姉のこと好きなんだから。……もっと早く告白してくれればよかったのに」

「うぐぅ……や、だって、ねえ?」

「しーらないっ。お詫びに今日はめいっぱい楽しませてくれないとフっちゃうもん」

「もんって……あはは。がんばりまーす」


わたしたちは笑いあって、そうしてようやくデートを始める。

オトナな落ち着きとかそうゆーのはないけど、そんな気兼ねない空間が、どこまでも楽しくて、心地よかった。


でもいつかはきっと―――なんて。

ちょっと気が早すぎるかな?

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