結婚したい (改訂版)
雅也
第1話
1
「あ~あ。 結婚したいな~...」
土曜日の夕方、会社帰りの車の中で、藤堂 朝樹(とうどう あさき)は,
ため息交じりに呟いた。
まだ22歳と言うのに、最近は結婚という言葉に憧れていた。
年齢的にも普通なら、まだまだ遊びたい年頃なのに、早く家庭を作りたいと去年の頃から思い始めた。
朝樹は高校卒業後、市内にある建設会社、M・Rコーポレーション に就職し、今年で丸四年になる。 最初は作業員として入社したのだが、一度各種の機械を運転させたら、カンの良いことが分かり、今では作業の半分以上は、各種建設機械の運転手として現場に出ている。
藤堂 朝樹の容姿は、黒髪ツーブロックのショート、目が優しい造りで、身長が178cmあり、体を使った仕事もあるので、細そうに見えるが、がっしりしている。
去年から取り掛かって来た大きな現場の作業が、全て終わった3月末、社内で同僚と世間話などを喋っていると、どうやら4月から新入社員が二人入ってくると言う事らしい。
しかも事務職であると言う。
同僚が言うには、二人とも女子らしく、一人は大学卒業 もう一人は短大卒業という事らしい。
朝樹は。
「大卒なら,同い年 短大卒なら二つ下だな...」
くらいにしか、気にならなかった。
会社から自宅までの道のりは約10分。 その途中にあるドラッグストアに寄るのが、毎週末の家路の途中の楽しみだ。
最近のドラッグストアには、日常の物は揃っていて、特に食料品ともなると、普通のスーパー並みにお客が多い。 価格がリーズナブルだからだ。
駐車場に車を止め、店内に入り、朝樹もご多分に漏れず、夕方の主婦たちに交じって、食料品コーナーに足を向ける。
会社の作業服のまま、主婦たちが品定めしている食料品コーナーに入り、その中の惣菜コーナーで、ちょっとした自分好みの総菜数袋を籠に入れて、本命の酒類コーナーへ向かう。
「さて、今週はどれで攻めようか?」
などと、発泡酒の酒類を比べながら、横に移動して行くと、右手が何かにぶつかった。 と同時に、 まず ガシャッ と音がして、若い女性が買い物籠と共に、横に倒れそうになった。
朝樹は素速く倒れそうになる女性を、抱えようとしたのだが、少しのタイミングの遅れで、女性は横へ膝を着きそうな形になってしまった。
「ごめんなさい」
と、朝樹は言いつつ、手を差し伸べたものの、女性は
「いえ、大丈夫です」
と言い、そのまますんなりと、体制を戻した。
女性は、買い物籠から零れ落ちた数個の商品を拾い上げ、籠に入れ戻していく、朝樹もそれを手伝うと、最後に女性の方から謝られた。
「ごめんなさい、私が ボ~っとしていて、そちらは大丈夫ですか?」
と、聞いてきたので。
「こちらこそすみません、オレは全然平気です」
見ると、女性の買い物籠は、山盛りの様に商品が入っている。 そこで、気になったので、女性に聞いてみる。
「あの。 まだこれからも買い物続けるんですか?」
と聞くと、女性は不思議そうに。
「あ、はい。そうですが....」
と、答える。
「良かったら、カート 持って来ましょうか?」
と聞くと。
「あ、 やっぱり無理ですよね、あはは」
と言って、カート置き場の方へ行こうとしたので
「俺が取って来るんで、ココで待っててください」
「いえそんな....」
「いいんです。ぶつかったのはオレの方からなんで....、ちょっと待っててくださいね」
「は、はい?」
疑問染みた返事を聞いた後、朝樹は自分の籠を隅に置いて、カート置き場に向かった。
少しして、カートを曳いてきた朝樹に、済まなそうな表情をしている彼女。
「ありがとうございます。 あら、まあ! もう一つ籠まで、重ね重ね、ありがとうございます」
「いえ、いいんですよ、多分その籠だけでは無理だと思って」
頭を下げる彼女、頭を上げて、朝樹の作業着の胸の、業者名を見て驚く。
「あ!!」
彼女の驚きにも感じた声に、驚く反応をする 朝樹。
「な、なんですか? どうしました?」
「M・Rコーポレーションの人ですか?」
いきなり彼女が聞いてきたので、一体何だと思い、反対に聞いてみる。
「はい。 M・Rコーポレーションの藤堂 朝樹 と言います」
「そうなんですか」
「え~~っと...何か?」
すると、少し嬉しそうに彼女が返してきた。
「私この春から、M・Rコーポレーションに入社いたします、希 宇来(まれ うらい) と言います。 今年短大卒の、20歳です、よろしくお願いします」
「あ、はい。 これはご丁寧に、オレは22歳になります。 年が近いですね、こちらこそよろしくお願いします」
(この子が二人の内の新入社員なんだ。小柄だな)
と言うのが宇来への第一印象だった。
稀 宇来は、黒髪ミディアムボブカットに、細目のフレームの、ボストンタイプの黒メガネをかけ、身長が150cmくらいの小柄で、少し痩せている容姿だ。
朝樹の言葉に、何故かホッとした様子の宇来。
「よかった~。 最近こちらに部屋を借りて、引っ越して来たばっかりなので、不安だったんです。 でも、同じ会社に居る人に、いきなり出会うなんて、なんてラッキーなんでしょうね」
人懐っこい風な感じの宇来に、第一印象も合わせて、朝樹には好印象に映った。
「変な事聞きますけど、引っ越し先、この近くなんですか?」
この言葉に少し疑い混じりの様に、ジ~ッと見られながら。
「はい、ここのドラッグストアから右に、200mくらい行った所のアパートですが......」
と、大まかな所在地を答えた。
それに気づき、素早く気を聞かした朝樹は。
「ごめんなさい。 気悪くした? 別に、変な意図がある訳じゃあ無いんだけども、ただ、この買い物の荷物、大変だと思い、手伝おうかと........って、キモイですよね、すみません」
気を使った言葉に、宇来が気を取り直して。
「いえいえ、ゴメンなさい。そう言う親切だったんですね、ありがとうございます。実は、どうしようかと、困っていたんです。あは....」
「俺んち実家ですけど、このドラッグストアを左に出て、30mが家なんです。だから、荷物持ちますよ」
すこし黙って、考えている宇来。
でも、すぐに答えが出た。
「協力、おねがいします、藤堂先輩!」
宇来が深々と頭を下げてきたので
「よし! カワイイ後輩の頼みだ、引き受けよう宇来ちゃん」
....で、お互い少し見合って、小笑いした。
◇
「ふう、ありがとうございます。結局 3つの袋いっぱいになっちゃいましたね。 ありがとうございます」
「はは、いいから」
朝樹が気になる事を言う。
「宇来ちゃん。 夕ご飯どうするの?」
ハッとした宇来が
「あ! さっきの事で、今日の夕飯の支度考えてなかったよ~....、え~~ん....」
「な~んだ、宇来ちゃんって、うっかりさんだったんだな。 ヨシ!待ってろよ、今何とかするから」
「???」
宇来が不思議な顔をすると、朝樹がスマホを取り出した、 そして....。
「もしもし? あ、母さん? オレもうすぐ帰るんだけど、メシまだだろ? 今からすぐに帰るから、あと一人分増やしておいてくれ頼む」
その後もついでだからと言って、この店内のお使いを頼まれて、電話を切った。
すまない表情をしている宇来を見て、朝樹が。
「ま、そう言う事だから、今日の夕飯はウチに食いにおいでって言うか、決まりな」
「い、いいんですか? 急に....」
宇来が見上げると、朝樹が笑顔になり。
「いいから。 もうオレの後輩だからな、遠慮しないでくれ、じゃあ、冷蔵庫に仕舞うモノは早くしまって、行こうぜ」
「重ね重ね、ありがとうございます」
御礼と共に、この時の宇来の顔は、少し赤くなっていた。
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