鍋のような部屋
澪凪
贖罪
他の作品にも描かれている通り、私は小学校の6年間の全てをいじめられていた。
女子全員からいじめられ、また、男子のリーダーからもいじめられ、逃げ場もなければ、担任も守ってくれなかった。
男子のリーダー、古川尚哉。
彼と私は繋がりがある。彼の祖母と私の母が同僚で、彼の母が私の母と仲が良いのだ。
家もお互いに分かり、保育園の頃は会うたびに挨拶をしていたくらいだった。
尚哉は、小学校に上がると、私をいじめのターゲットにした。暴力や暴言、脚の速さ、運動神経の良さ、見た目、全てを使い、リーダーに君臨した。
彼からされたいじめは、書き切れないが、1番深く根に残ったことは、彼が落としたハンカチを拾ってあげたら、階段から突き落とされた話だ。
幸い、大きな怪我はなく帰り際だったこともあり、逃げるように私は帰った。
彼にはお付きのような男子がいる。吉沢くん、海野くんの2人だ。吉沢くんはイケメンで性格は良いらしい(いじめられていた為私から見たらクズだが)。海野くんは地元では1番権力のある会社の社長の息子で、運動神経が良く、基本的に傍観し、おっとりとしている。
ある日私は、海野くんに呼び出された。
またいじめられる、次はリンチかな?と集合場所の玄関に向かう
いじめの経験がある人は分かると思うが、基本、命令には従うのが絶対なのだ。従っても地獄だが、従わないともっとひどい地獄が待っているのだ。
「海野くん、なんですか?」
「尚哉には秘密にして欲しいんだけど、君の靴に、尚哉がいたずらしてたから、気をつけて」
「…はあ…?」
「今、確認してくれれば分かるから」
海野くんはそう告げると、走って戻っていった。
実際に確認してみると、画鋲と罵詈雑言メモが入っていた。
「海野くん、なんで…?どうして…?」
私は海野くんに初めて優しくされたことに驚き涙した。
証拠になるメモはポケットにしまい、画鋲は出して片付けた。
そんな過去がある、私と古川尚哉は同じ中学に上がった。
中学生ともなると、話すこともなければ関わることもない。
それに、私は別のいじめが始まっていたため、彼を気にする暇もなかった。
時は流れ、3年になった。
私は2年の時に学校の中でリスカをし始め、先生にバレて、強制的に通院と隔離部屋に通うことを決められた。
3年になってもそれは変わらず、隔離部屋に1日1回、加えて休み時間はずっといるようになった。
ある日、隔離部屋に行くと、そこには古川尚哉がいた。
しかし、以前の面影はなく、顔色は悪く、ぼーっとしていた。
「私、入らない方が良いですか?」
隔離部屋の先生に相談すると、居ていいよと言われた。
とは言え、過去のことがあるため、私は距離をとって座った。
尚哉は、まるで小学校の頃の私を見ているような感じで、なんだかかわいそうに見えた。
母と同僚の親がいる、共通の友達のめーくんに話を聞いた。
めーくん曰く、尚哉はいきなりこうなった訳ではないらしい。
1. 1年の時のような圧倒的な権力を失くした
2. 権力がある際に行なっていたことを仕返しされることが怖くなった
3. 学校に行くことも怖くなり、不登校がちになった
4. 隔離部屋に行くことになった
ということらしい。
尚哉の私を見る目が、以前と違って怯えているのはそういうことなのか、と理解ができた。
自業自得だろう、と私は思ったが、仕返しをすることでいじめをするようなクズと同じフィールドに立つのは嫌だった。
先生がお手洗いに行く、と言い外に行った際に尚哉と2人きりになった。
尚哉は黙り、怯えていた。
「尚哉くん、久しぶりだね。」
「元気にしてた…?」
「私の母も尚哉くんのこと心配してた。」
ずっと黙る、尚哉に私はゆっくり話しかける。
「…ありがとう…。」
一言返ってきたのはお礼だった。
「ここに来ることができて良かったね。私は尚哉くんがしてたこと、言うつもりもないし、私はもう気にしてない。」
「………。」
「そろそろ先生来るから、別のところに座るから。」
私は彼から距離を取り、先生を待った。
気持ち、分かるよ。だってあなたが私にしていたことを私がやり返したら、今の私たちなら簡単に殺せるものね。
私は許さない、でも優しくすることはできる。
だって、昔いじめていた女に優しくされることほど屈辱的なことはないでしょう?
仕返しされる方がよっぽどマシよね?
私はできた人間じゃないの。
自分で自分の犯した罪を償ってね。
私は尚哉に優しい笑顔を向けながら、心の中でグレーのような感情を抱いた。
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