第3話 先手必勝って『必勝』じゃ無いと思うんだけど、対義語が見付からなかった……。

 僕は遠のく意識の中、人差し指と親指を立てた。


 その瞬間、意識を取り戻し、背中の痛みも綺麗さっぱり消え去った!


*****

 ……実は、この前『トゥルク』で口を塞がれてナメくんに口頭での指示が出来なくなった後、ナメくんに『体の動き』で指示が出せるように示し合わせていたんだ。


 親指を立てた時は『過去にタイムトリップ』の合図。


 指は1本で1ぷんの合図。


 ……今回は、人差し指と親指で『1分過去にタイムトリップをお願い』って意味の合図だったんだ。

*****

 


 白樺先輩が……


輪音りんね! 今なら間に合う! 今回、私たちは本気で戦う。 君に勝ち目は無い! お願いだから、こんな無駄な戦いはめて、やすりさんに謝って!」


と言った。


 ……ふむふむ、さっきも聞いたぞ。 タイムトリップ大成功! サンキュー! ナメくん!


「白樺さん、ありがとうございます! でも、僕は戦います! 皆を護れる事を証明する為に!」


 それを聞いた白樺さんは小声で


「……バカ……」と言って、一歩下がった。



 狭間さんが


「私たちは、手加減するつもりは無い。 広井さんは私に歯向かうあなたを消すって言ってる。 ……あなた……死ぬわよ」

と僕を睨みつけて言った。


 広井さんは、相変わらず穏やかそうな表情でこちらを見ていた。


 よし! 今だ!


 ……僕は指で、自分に『カメ』と書いた!

 

 その刹那、後ろから『バキンッ!』という音がした。


 振り返ると、かつさんが、自分の手を押さえて痛みに耐えていた。


 僕が身に着けた『亀』の甲羅でナイフが折れ、勢い余って腕を強打したんだ。


かつさぁん……いくら名前が『勝』だからって、そんな卑怯な方法で勝とうとしちゃダメですよ!」……と言って、勝さんの顔に、指で『マケ』と書いた。


 その途端、勝さんは、さっきまでの怖そうな表情が消え失せ『まけさん』と名を変え、子供のように「うええぇぇぇ~~ん」と泣きながら、帰ってしまった。


 はい、お疲れ様! 


 亀のままだと、動きが鈍くなる。 


消してイレース!」と言うと、甲羅が消え、身体が軽くなった。



 狭間さんが


「今のまけさんの攻撃は、私たちの作戦じゃ無い ……でも、彼を止められなかった私達にも責任があります。 ごめんなさい」

 と言って謝った。


「気にしないで! 『策定者フォーミュレーター』の狭間さんに逆らっているのは僕なんだから……」



 それを聴いてた広井さんが僕に


「質問、良いかな?」

 と言った。


「どうぞ」


「……君のような謹厳実直な青年が、なぜ『策定者フォーミュレーター』に逆らってまで、自らの命を危険に晒すような行動をするんだ?」


「僕は、狭間さんや白樺さん……また、会った事が無い、他の『変革者イノーヴァー』や『変革者イノーヴァー守護使ガーディアン』を救いたい。 それだけです」


 広井さんは僕に近づき、僕の目を見て、こう尋ねた。


「俺が、今から所在が判明している『変革者イノーヴァー守護使ガーディアン』12万人に指示を出して、君に一斉攻撃をかける……と言ったら、君はどうする?」


 ……この人……本気だ。


 僕の返答如何いかんによっては、僕は本当に消される……!


 ……どうする? 僕!?

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