第9章 戦闘開始?

第1話『ヒーロー物』のパターンは出尽くしてるから、全く新しい切り口を見付けるのは難しい。

 その日の帰り、白樺先輩が「輪音りんね、お腹減って無い? ハンバーガーでも食べて行こうよ。 おごるからさ」……と言ってきた。


 今食べちゃうと夜ご飯を食べるのがちょっとキツいけど、断るのも悪いので、駅チカのハンバーガーショップに寄った。 


 ……白樺先輩は野菜たっぷりのフレッシュダブルバーガーと山盛りポテトフライ、僕はハンバーガーをひとつ頼み、窓際の席に座って食べ始めた。


「……輪音……やすりさんの事、どう思ってる?」


 突然の質問に『ブッ』っと吹き出しそうになったが、慌てて口を押さえたのでギリギリ間に合った!


「な! 何を突然言い始めるんですか!?」


「いや……輪音りんね、やすりさんと楽しそうに話してたから……さ……」


 ……白樺さんらしくない、はっきりしない言い方だ。


「狭間さんは、僕が当時、夢中になって読んでいた本を読んでたから、ちょっと声をかけただけです」


 ……それがきっかけで、その後、ナメくんバイクでデートしたり、ふたりきりの教室で話をしたりして距離が縮まったので、狭間さんを嫌いと言えば嘘になる。


 でも、今それを言うのは、何かタイミングが悪そうだったので、余計な事は言わないでおく事にした。


「そう言う白樺さんは、狭間さんとどこで知り合ったんですか?」……と、こちらのボロが出る前に、先に聞くと……


「『知り合った』って言うより、私は、やすりさんが覚醒したら、そのもとくだる事が決まっていたから、否応いやおうしだったのよ」 ……と、白樺先輩は、ポテトを食べながら平然と言った。


 僕が「……それって奇怪おかしく無いですか? 人間は、誰もが平等ですよね?」と言うと白樺先輩は……


「輪音くんは、相変わらず優しいね~」と、僕の髪の毛をくしゃくしゃしながら言った。


「でもね……世の中、平等なんて存在しないんだ。 ……悲しいけど……ね」


 ……確かに、この前白樺先輩が、何かあったら別の『変革者イノーヴァー守護使ガーディアン』を見付けて護って貰って……と言っていた。 ……狭間さんは『特級の策定者フォーミュレーター』だから死ぬ事は無いが、自分は簡単に死んでしまう……と。


 何て悲しい言葉だろう……。


 ……僕はつらくなって、うつむいてしまった。


「どうした輪音!」白樺先輩が心配そうに覗き込んだ。


「……ごめんなさい……白樺さんが……可哀想になっちゃって……」


「そんな事は無いよ! 『変革者イノーヴァー守護使ガーディアン』の中には、この世で1番憎んでる人を護らなきゃならない人だっているんだよ! その人と比べたら、私は大好きな輪音の側に居られるんだから、この上ない幸せなんだよ!」


 ……と言ってから、白樺先輩は顔を真っ赤にして……


「あ〜〜〜! ゴメン! 今の無し! 何でも無いよ! 気にしないで〜〜! あ、ポテト! ポテトまだまだ残ってるから食べてよ!」……と言いながら、ポテトをまとめて僕の口に詰め込んだ。


 ……白樺先輩……まだ僕の事を好きでいてくれているんだな。 ありがとう。


 誰かを護る為に、誰かが犠牲になる……なんて事が許される訳がない。 白樺先輩も、他の『変革者イノーヴァー守護使ガーディアン』の人達も、みんな僕とナメくんの力で護ってみせる。 ……簡単な事さ。 『暗躍者クリープス』を全てやっつけちゃえば良いんだ!


 僕は、決意を新たにした。


 ふと、その時、ある考えが脳裏に浮かんだ。 


 ……もしかしたら、僕が起こそうとしている『変革』って……この理不尽な『不平等』を無くす事なんじゃないか……と……。

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