第6話 奇しくも今日はバレンタインデー……恋人たちに幸あれ! って題名にしたら、既にてっぺん回ってて恥ずかしい!

 ……この前のデートから数日後、狭間さんと相談して、また時間を止めて何処かに遊びに行く事にした。


 ……ただ、その前に、僕には狭間さんにだ告げていない願いがある事を伝えようと決心していた。……だって、さんざん遊んで楽しんだあとに、彼女をがっかりさせたく無かったからだ。


「狭間……さん」


 ニコニコしながらナメくんにキュウリを食べさせている彼女に話しかけた。


「……ん?」……と狭間さんがこちらを向いて小首をかしげた。


 あ、かわいい! ドキッとしちゃった。


「……こ、この前……狭間さん『完璧な人生』を読んでて、完璧な人生なんてつまらない……って言ってたじゃない?」


「……うん」


「僕は、いつも遠回りの生き方ばかり送って来て……それに疲れ果てちゃったんだ。 ……だから『完璧な人生』に物凄く憧れているんだけど、どうすればいいんだろう?」


「……」


 ……狭間さんは、暫く僕から目をらして、無言でナメくんを見ていたが……


「……本当は、つまらない話なのよ」と言って、寂しそうな笑顔を浮かべ、話し始めた。


「……私、お友達も居ないし、たった一人の家族、お母さんも夜勤のお仕事をしてるから、いつもすれ違い。 学校とおうちを行き来して、ご飯食べて寝るだけ。 判で押したような同じ日々の繰り返し。 楽しい事も無ければ悲しい事もない……そんな自分の人生を自嘲して『完璧な人生』なんて、強がっていただけ……」


 そう言って狭間さんは僕の方を向いて「……この前は変な言い方になっちゃったけど、私、輪音りんね君には、本当に感謝してるんだ。 あんなにドキドキしたり『もっと、このままでいたい』って思えた事……生まれて初めてだったから」……と言って、ペコリとお辞儀してくれた。


 ……ここで僕は、いよいよ例の『カミングアウト』をした!


「いや、僕は感謝される事なんて、しちゃいない。……本当の事を言うと、僕は狭間さんに対して『下心』があっただけなんだ!」


「えっ! し! 下心〜!?」


 狭間さんが目を見開いて固まっちゃった!


 ……時間が止まっている中で、時間が止まったような、文字にすると実に妙な状況下で、僕達は暫く目を合わせたままで、お互い動けなかった。 


 狭間さんが……


「輪音君に……した……ごころ……」……と、ポツンと言った。


 ……うわあ〜! 改めて言われると却って恥ずかしさが増す! ええい! ままよ!


 僕は、目をつぶって、一気にまくし立てた。


「ごめん……実は僕、本気で無駄の無い人生を望んでいるから、もし狭間さんが許してくれるなら、少しの間だけでも、ナメくんの力で狭間さんと人生を入れ替わらせて貰いたい……って、お願いしようと思ったんだ。 ……それで、ず、ナメくんの能力を見て貰ったんだ!」


 ……狭間さんの顔を見るのが怖くて、僕は目を開けられなかった。


 ……狭間さんが……


「それは、絶対にダメ……だと思う……」と言った。


 うわあ〜! 怒らせちゃった!


「ごめんなさい、ごめんなさい! 当たり前だよね! ぼ、僕は一人っ子だから、自己中心的で、本当にゴメン!」……と必死に謝った。


 狭間さんは、ふたりの顔を心配そうに交互に見ているナメくんの『ぼんぼり』をポンポンしながら、こう言った。


「私も一人っ子だから、自己中心的なんだと思う。 だから判るの……」


 狭間さんが、再び僕の顔を見ながら言った……


「私と輪音君を入れ替えたら、私が元に戻りたく無くなっちゃうから、絶対にダメ!」

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