隻眼の覇者ベルシスの肖像 ~彼はいかに大帝国と戦い勝ちえたのか、そして何ゆえに四百年の時を超えて軍事強国に立ち向かったのか~

キロール

第一部 ゾス帝国との戦い

序文

 これは小説の形態をとっているがカナギシュ王朝開祖ウオル一世からして、彼のお方は神君であると言わしめたベルシス・ロガの戦いを書いた歴史書である。


 第一部は当時、筆者が執筆している今現在より四百年以上前に世界の三分の一を支配するに至っていたゾス帝国との戦いを主軸に書く。


 当時の一時資料と、から聞いた話を総合して筆者が書き記した小説まがいの物ではあるが、真実にかなり近づいていると自負する所である。


 第二部は先年終結したタナザとの総力戦について記してある。


 死霊術と工業革命が結びつき、大陸一の強国となったタナザがカナギシュ王国に宣戦布告するも、四百年の時を超えたベルシス・ロガが種族間抗争に明け暮れていた他国との調整役を務め、見事に連合軍を形成しこれを迎え撃った。


 その活躍を記憶されている方も多いと思われるが、傍で見て来た筆者が見たままの事を書き記した物だ。


 筆者はベルシス・ロガがいかに苦悩しながら戦い、勝ちを収めたかを読者であるあなた方に知って頂きたいのだ。


 彼は美化された伝記や英雄物語の英雄などではなく、一人のいたって普通の人間であったことを知っていただきたいのだ。


 それこそがきっと彼の望みであるだろうから。


※  ※


 さて、ゾス帝国軍将軍であったベルシス・ロガについては反乱後の方がなじみが深い方も多いだろう。


 多くの伝記も物語も反乱後に焦点を当てたものが多いからだ。


 親友との戦い、伴侶たちとの出会い、人々の心を得て成長していく組織、どれを見てもワクワクする要素であるかもしれないが、ここではゾス帝国軍時代の彼の功績を振り返ってみる。


 ベルシス・ロガは十四歳で父母を失い家督を継いだが、叔父に命を狙われ親族と協議の末に軍人となるべく従者一人を連れて帝都に上京した。


 十五歳になるまでは帝国の宿将コンラッド将軍に師事し、指揮のイロハを習っていたが、十五の時に帝都のあるガト大陸においては辺境とされるローデンに赴任。


 そこで二年間の任務を全うし、次は南東部の守備を任されるも侵攻してきたカナトス王国との戦いでは敗北している。


 ただし、その際のちに帝国最強の将と呼ばれるカルーザス独立騎兵部隊長の助けを借りて、カナトスを退けてはいる。


 そこからがベルシス・ロガの真骨頂だ。


 敗戦の責任を取りベルシスは自身の降格とカルーザスの将軍昇進を申し出るも、一部抵抗勢力に邪魔された事を皮切りに、帝国の貴族院において一大派閥を形成していたアルヴィエール家との暗闘に入る。


 当初は不慣れな政争のため劣勢であったベルシスは敵の行う戦術を分析し学び取る一方で、情報網の構築に勤しみ、最終的にはアルヴィエール家の抱えていた最大のスキャンダルを知りえた。


 これによりアルヴィエール家は断絶となり、カルーザスは将軍へと昇進を果たした。


 暗闘を制しながらも増長することなく過ごして居たベルシスに一部の者は敬意を表した。


 結果、輜重部隊を統括しながら政治と軍事の調整役を任されるに至ったのである。


 ベルシス二十五歳の時である。


 その後のベルシスはカルーザスと共に帝国の両翼と称えられるようになり、時の皇帝バルハドリアを良く助けた。


 だが、皇帝が崩御し、第一皇子、第二皇子ともに戦死や毒殺未遂で寝たきりになった事で事態は一変する。


 バルハドリアの第三子ロスカーンが即位した事で運命は変わった。


 とは言え、最初の二年ほどはロスカーンとベルシスは上手くやっていた。


 数年ぶりのカナトス王国との戦いでは、別の将軍が押し込まれると三番手としてベルシスに事態を収めるように命令が下ったほどだ。


 そして、カナトスと戦いに勝利し帝都に戻れば戦勝式の栄誉にも与った。


 しかし、それから僅か四年後、ベルシス三十三歳の時に彼は皇帝ロスカーンにより帝国を追放された。


 帝国歴二三八年六月の事である。


 さあ、後は本文を読んで一人の追放将軍がいかに大帝国と戦い、勝利を収めたのかを確かめて欲しい。


※  ※


本書を今は亡き妻マーガレットと彼女が存命中に彼女の作ったシチューを食べながら相好を崩していた最も新しい軍神ベルシス・ロガに捧ぐ。 


カール・ルクルクス

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