第62話 戦闘訓練と事業計画
「5メートル先に10の木人、10メートル先に20の木人を出して接近させていくからね。アルマは可能な限り木人が近付く前に対処するように。木人の強度はNランクデーモン並にしてあるから冷静に対処すれば大丈夫」
「はい。女神さま」
「アミールは30メートル先に出現させる木々に潜伏してる木人を発見して、弓で穿って。向こうも鏃は付けてないけど弓矢で武装してるからウカウカしてるとアルマを落とされて詰むよ」
「分かりました。風の微精霊の力を借りても?」
「うん。使える物は何でも使って」
ダークエルフのアルマとアミールに時たま施す戦闘訓練。それがこの木人稽古だ。植物操作能力を利用してゴブリンの集落を壊滅させた木の巨人ウッドゴーレムの十分の一くらいの小型複製を何十体も作成して集団で二人に襲い掛からせる。木人は手に木の槍や剣、弓矢で武装させていてNランクのゴブリンくらいなら互角に渡り合えるレベルの戦力だ。現状、最もあり得る脅威である野生ゴブリンの襲撃を再現した実戦訓練になる。
うん。現状の野生ゴブリンよりは武装と連携が上だけど、そのうちこの程度の武器は入手できるようになるだろうし山賊として長年活動すればNゴブリンもこれくらいの事はやって来るだろう。その程度の勢力じゃ過剰な防衛網は突破できないって事に目をつぶったら最適な状況想定だと思う。
ゴブリンに簡単に蹂躙されたダークエルフの訓練内容としては厳しすぎるように思うだろうけど、実はそうでもない。
アルマは火の小精霊達の力を借りれば一瞬でNデーモンなら燃やし尽くせるようになったし、小精霊の力を上手く引き出せないアミールだって僕手作りの弓で武装させれば優れた感知力と器用さで立ち回る優秀なアーチャーとしてやっていける。
最初はRPGを参考に魔法職のアルマに遠距離の木人を叩かせて、アミールには剣で近距離の木人を打倒させる訓練をしたりもしてたんだけどね。アルマは高い火力はあるんだけど遠距離魔法の命中率が悪くて、アミールは華奢で近接戦には向いてなかった。それで今は役割と武装を変えてこういう風にタッグで運用訓練をしているんだ。
アルマは咄嗟の判断力が高いから接近されても風の精霊魔法を駆使した変則軌道で近接攻撃を回避できるし、アミールは地頭が良いから冷静に狙い撃てれば未来位置を予測した偏差射撃を熟せる。風の微精霊に矢の軌道を多少変えさせられるしスナイパーとしては凄い優秀なんだ。
今じゃこの組み合わせが面白いぐらい上手く嵌まって中々の戦果を叩き出している。
少なくともNランクなら30体は用意しないと二人の訓練相手は務まらない。うん。これでこそRデーモンだね。
「プギィ」
「君達の出番はもう少し後。ウルフ達も交えた百単位の模擬戦もやるから待ってて」
血の気が多いNイノシシが逸るのを頭を撫でて沈める。強者と認めた者には素直な彼らは興奮に鼻息を鳴らしながらも静まった。
傍らではウルフ達が訓練場所を静かに観察しながらも白い尻尾をピン!と立てている。興奮しているのが丸わかりだ。やはりNランクだろうとデーモンだね。戦闘に関して並々ならぬ関心がある。
「それじゃ、始めるよ」
ざわっと森の気配が殺気立ち僕は依り代から自立稼働する兵士を生み出した。
木人。実は魔素から発生させる人造生命のプロトタイプなんだよね。まだまだ3Dウィンドウの箱庭データにはデーモン判定されないんだけどさ。少しずつ動きや戦術が洗練されていってるのが分かる。錬金術の知識のない僕にはこのまま続けていったら命を宿すのかは分からないけど、スキル訓練くらいにはなってるみたいだね。
うん。こうやって訓練に消費すれば生成した魔素も無駄にならないし逸話を重ねられて配下も僕も強くなる訳だ。一石三鳥。
魔素は幾らでも稼ぐ手段はあるけどリソースは有限なんだ。少しでも有効活用しないとね。
◆◆◆◆
箱庭名:アールヴヘイム
支配者:サルマ・フィメル
文明レベル:0
文明タイプ:原始/精霊
箱庭人口:580人
経過年月:3月17日13時間
箱庭面積:14.5km2
魔素濃度:53187
蓄積神秘:140
保有戦力
N :5万2千
R :105
SR :3
SSR:0
UR :0
箱庭碑文
・ゴブリン神話『王朝開闢史』
◆◆◆◆
こういう、これまでの試行錯誤の結果がこれだ。
蓄積神秘はこの世界に来訪してまだ3ヶ月くらいなのにもう4割増しになった。まだまだ弱いけど、結構なスピードで力を増して行ってると思う。
それにRトレントの繁殖や購入にR黒山羊デーモンの進化で箱庭内のRデーモン数も倍。信仰心に問題もなく箱庭人口も順調に伸びてる。
次元の違う地球と比べちゃうと焦るけど、現状に不満はない。正直デーモンPLの中では上手くやってる方だと自分でも思う。
普通のデーモンPLは箱庭を早々に売り払って豪遊するか、箱庭を持ってても塩漬けして将来の布石にするかだ。僕レベルの収入と神秘の蓄積を得たいならデーモン国家で借金をして事業を始める必要がある。上手く行けば大きいけど、デーモン国家の悪辣な伝承存在に騙されて箱庭どころか命すら取られる寸前だったとボヤクPLも多い。
ラミア一族のように誠実な取引き相手ばかりじゃないんだよ。うん。ラミア一族も油断して箱庭座標を口にしたら攻め寄せてくると思うけどね。黄昏ゴブリンは色んな意味で迂闊だった。彼の冥福を祈ろう。
そう非常に機嫌が良かったらしいラミア一族の話をアウルムから聞いて思った。
あ、ちなみに魔素濃度が異常に高いのは果樹トレントの新しい魔素濃縮フルーツ全種を100個ずつラミア一族が試験購入したからだね。
締めて3万5千魔素のプラス収入。うーん。これでお試し購入だとは信じられない。ボロい商売だ。
「もう値崩れした地球産NO魔素フルーツのショップ販売は止めて良いかな。売り上げも落ちたし」
今となっては地球の熱帯果実のショップ販売は採取に必要な労力だけが嵩んで利益が少ない赤字事業だ。これを続けるくらいなら、いっそミュータント貧困層への支援食料を増やして空気・水・土に換えた方がマシな気がする。金にはならないけど細々とした感謝の気持ちが届くから神秘的に美味しい。それかミュータント傭兵に販売して地球の紙幣にするか。うーん。超高純度鉄の取引きが上手く行ったら端金だし、やっぱ支援食料の増加が良いかな。
でもショップアカウントに商品を入れておくだけで誰とでも迅速に取引きが可能な自動販売異能を全く使わないのは勿体ない。何らかの利益率の高い商品を新たに売りたいな。
「フルーツマジックの魔法少女から効能の高い魔法果実を入手して栽培できれば濡れ手に粟なんだけど、無理だよね」
Rの弱毒果実すら許可を出すか分からない魔法少女支援組織が匿名購入可能なショップに出品するから魔法果実をコピらせてって言って受け入れるはずがない。特にフルーツマジックの代名詞であるキュアフルーツシリーズは間違いなく許可が下りないだろう。SSRクラスの奇跡の果実は人体欠損すら容易く癒やす重要な戦略物資。魔法少女向けの支援アイテムなのに一部の品が一般に横流しされて問題になった事もある程に魅力的なマジックフルーツなんだ。
他にも色々な可能性を秘めたフルーツマジックの魔法少女達が生産に拘束されてるせいで研究する為の時間とリソースを奪ってる元凶の果実でもあるんだけどね。まあ、キュアフルーツを磨り潰して状態保存魔法を施したミキサージュースがなきゃ魔法少女が死ぬ可能性が高まるのは分かりきってるし、仕方ない話ではあるけどさ。
「SR級の魔法果実生成はまだ手に余るけどRなら量産可能なのは果樹トレントの件で分かってるし、東勝神州から回復成分が豊富な漢方でも買ってみようかな?」
魔法少女経由が無理ならデーモン国家経由で入手すれば良いと、僕は3Dウィンドウのショップ機能に付随するカレンダーのメモ帳機能に肥満オークさんへの買い出し依頼メールを出すよう書き込んだ。
こうやって予定を整理しないと折角冴えたアイデアが浮かんできても忘れて何も実行しないからね。地球産NO魔素フルーツの販売停止は前にも考えてた事なんだけど、代わりに陳列する商品を選定する前に別件で忙しくなって後回しにして忘れてたんだ。メモって大事。
「め、女神さまぁ。もうむりぃー」
アルマの悲鳴に顔を上げるとNイノシシやNウルフ達の壁を乗り越えて数百の木人がダークエルフの二人に殺到する所だった。
殺さないよう事前設定はしてるけど事故があると行けない。緊急停止。
うん。RとSRの格差はやはり大きいね。
これ以上の格差が僕と魔法少女にはあるんだ。怒らせないよう注意しなきゃ。
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