第21話 種族補正

「良かった。落ち着いたみたいだね」


 貧乏くじミュータントの返信に僕はホッと安堵の溜息を吐いた。

 危なかった。多分、もうちょっと追い詰められてたらミュータント互助会は空中分解して機能しなくなってたと思う。


 匿名掲示板なんて悪意の坩堝を長く利用していたら感性が鈍化して、またキチガイが何か騒いでるよと笑ってスルー出来るようになるんだけどネット初心者には厳しい話だよね。ネットスラングに半年ROMれとあるのは独特のコミュニケーションや暗黙の了解を学んで場を白けさせないよう気を付けろって意味だけじゃなくて、こういう悪意に敏感な時期は書き込まずに静観して慣れろって意味も含んでるんだと思う。


 僕みたいな玄人レベルになると書き込む度にセクハラされても死んだ表情でアハハと笑えるようになってるからね。ファック!


「ホントに良かった。食料支援って名目で海外に安値で売らないと食料品を現金に換えられないし。僕としちゃ死活問題だったよ」


 その分、貧乏くじミュータントがサンドバッグになってて文字通り貧乏くじを引いてるけど、食い扶持の維持や自力アップというリターンはあるから頑張れ。

 いや、食料支援って名目だからって利ザヤを最低限にする必要はなかったんだけどね。物々交換にまで手を出したんだから、もっとマージンを取っても良いのに。人が良くて考えつかないんだろうなぁ。



――――――――


〇両性ニンフ

 真っ正面から言われると照れるね。惚れた?w


〇ミュータント互助会取締役

 この馬鹿。そういう思わせぶりな台詞を男に言うな。


〇両性ニンフ

 おや意外な反応。うーん。僕としては未だに男だった頃の感覚が抜けてなくってさ。完全に女性扱いされると何かムズムズするんだよね。

 この前も寝ぼけてシースルーのネグリジェで部屋の外に出たらダークエルフの女の子達に慌てて身体を隠されたし。


〇ミュータント互助会取締役

 あのな。隙があるにも程があるぞ。


〇両性ニンフ

 えー。危ないのは彼女達の方だったと思うんだけどなー。

 絶大な力の差と絶対的な命令権を持ってる半分男相手に無防備に抱きついてくるとか。僕が発情するタイプのデーモンだったらマズかったよ。


〇ミュータント互助会取締役

 あー、なんつーかな。そこら辺はもう呑み込んでるのかもしれないな。


〇両性ニンフ

 寵愛を受ける為に身体を差し出すって事? まだ中学生ぐらいの娘が?


〇ミュータント互助会取締役

 日本ならあり得ない想定だが。

 海外のしかもスラム経験ありなら考えてもおかしくないだろ。


〇両性ニンフ

 なる程ね。眷属にした段階で既に特別扱いはしてるつもりだったんだけど、まだ不安なのかな。


〇ミュータント互助会取締役

 支援食料の対価として受け取った現金で人を買うつもりなんだろ?

 眷属が増えてもおかしくないっていうか増やすだろ。察してんじゃないか?


〇両性ニンフ

 まあね。僕がニンフである以上、直に浚う訳にはいかないからね。


〇ミュータント互助会取締役

 だろうな。色々と複雑だがデーモンである以上は仕方がないか。


〇両性ニンフ

 ん? もっと批難されると思ってたんだけどな。


〇ミュータント互助会取締役

 俺もさっき、居候のミュータントをぶん殴った。

 前世じゃ喧嘩もした事なかったのに。驚く程、抵抗がなかった。少しショックだ。


〇両性ニンフ

 ああ。ミュータントの戦闘適性って奴ね。

 命のやり取りに何も感じなくなる種族補正。

 デーモンの奴隷商人補正ほど人格への矯正力はない感じだけど抗いがたい?


〇ミュータント互助会取締役

 衝動って感じの奴じゃなかった。極自然に身体がそう動いた。

 暴力を我慢する理由が何も見出せなかった。


〇両性ニンフ

 ふぅん。君ですらそうなのか。傭兵ミュータントの凄まじさが改めて分かったね。


〇ミュータント互助会取締役

 捕食補正。飢えると人間が生きたステーキにしか見えなくなるって奴か。

 ゾッとするな。前世の常識に従って野に下ったミュータントは立派だと思うぜ。


〇両性ニンフ

 デーモンの権力欲も種族補正のうちなのかも。

 箱庭を失ったデーモンが一定数、ブラックバイトだと分かってて島流しに参加してるみたいだし。


〇ミュータント互助会取締役

 そうなるとインベーダーの種族補正は何だ?

 ごく普通の人間にしか見えないんだが。


〇両性ニンフ

 多分、一個は奴隷適性。命令に従う事に何の疑問も抱かなくなる感じ。

 前世の故郷である地球を銀河帝国の植民地とする事を躊躇うインベーダーが少なすぎる。


〇ミュータント互助会取締役

 なる程な。地球の味方となったインベーダーが現地組織に従順なのはそれもあるのか。


〇両性ニンフ

 もう一個は前世の人間も多くがそうだったから自信はないけど。

 拝金主義かなぁ? お金が何よりも尊いって奴。

 魔法少女をコピーして売り捌こうと虎視眈々と狙ってる彼らは僕が言うのもなんだけど異常だよ。


〇ミュータント互助会取締役

 あれは拝金主義とはまた別の何かを感じるんだが心当たりがなくもないな。

 プレイヤー間の取引きで銀河帝国が最も欲しているのは魔素だ。

 金なんて比べ物にならないくらいの相場で取引きされてるらしい。


 だからインベーダーは決して魔素を手放さない。

 対価としてデーモンに渡した方が商売がスムーズに進むのにも関わらず抱え込もうとする。


〇両性ニンフ

 あっちゃー。種族的な本能が関わってるのか。

 それじゃインベーダーから魔素は決して返ってこないだろうね。


〇ミュータント互助会取締役

 逆に言えば膨大な魔素を積み上げればインベーダーは言う事を聞くはずだ。

 ちょっとは参考になったか?


〇両性ニンフ

 うん。ありがとうね。

 あ、そうだ。嫌がらせに送られてきた精液塗れの手紙。いらないなら頂戴。


〇ミュータント互助会取締役

 それは構わないが、あんなゴミどうするんだ?


〇両性ニンフ

 精液はホムンクルス作成の重要アイテムなんだよ。

 プレイヤーは最低SR相当の力はあるからね。SRミュータントの精液なんてレア物なんだ。


 もしかしたらSRデーモン相当のホムンクルスが誕生するかもしれない。

 技術的に困難だけど素材は今のうちに集めておこうと思ってね。

 僕のショップアカウントのメールにも4回くらい似たようなのが送りつけられてきたけど、全部大事に保管してるよ?


〇ミュータント互助会取締役

 あー。なんつーか。まあ、お前がそれで良いなら良いんだが。


〇両性ニンフ

 無料で数千魔素以上するデーモンの設計図を送ってくれたんだ。

 キモいプレゼントくらい笑って受け取るのが愛嬌ってね。


――――――――

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