第6話 1魔素と笑う者/1魔素と泣く者
農家の朝は早い。基本的に日が昇る時間に作業を始め、日が落ちる夕方頃には作業を終えていなくてはならないからだ。
それは箱庭という特殊な次元空間でも変わらない。青空に浮かぶ太陽と見間違う高熱魔素塊、太陽結晶の運行に従って昼夜を再現している限り。
選択した種族によって箱庭の環境は大きく異なる。これが吸血鬼なんかの太陽を忌避する種族だったら、空は暗雲か仄かに輝く月の再現魔素塊だっただろう。
偶にならともかく、四六時中、空が薄暗いのは気が滅入るから精霊種を選んで良かった。前は夜型人間で太陽の光を有り難いなんて思った事はなかったんだけどね。
「うーん。良い日差し」
ニンフの中でも森の精霊である僕には太陽の光が欠かせない。朝に日を浴びてググッと背伸びをするのは惰眠を貪る以上に清々しくて気持ちが良い。
例えその光が良く出来た偽物に過ぎないとしても。
「あ、またいる! シッシッ!」
手を振って緑色の体色をした醜悪な顔のゴブリンを追い払う。ギキキッと馬鹿にしたように笑いながらトレントに絡んでいたゴブリン達は遠ざかっていった。
ションベンを掛けられたトレントが不愉快そうに枝を振り回すも当たる事は無い。ひとつひとつの動作が大仰で鈍いんだ。世話をする負担を減らす為、トレントの攻撃性能は品種改良でオミットされているんだろう。
しかし悪戯好きで邪悪。モンスターカードに書かれていた不利な種族特性、協調性-は伊達じゃないな。有利な種族特性、繁殖+と合わせてゴブリンは害獣の名をほしいままにしている。同じ繁殖+のコボルトを影で虐めているようだし、そのうちウルフに優先的に襲わせよう。
やれやれと肩をすくめて被害を受けていたトレント達の様子を見て回る。
幸い纏わり付かれて不快だっただけで実害はなかったようだ。苗木のトレントを掘り起こそうとしていたゴブリンをガチで殴り倒して怪我させてからは駄目な一線を見極めたのか悪戯の範疇に収めている。これを嫌らしいと受け取るか、悪戯好きの子供っぽくて可愛いらしいと受け取るかは各自の自由だ。デーモンの中には同じ種族でもないのにゴブリンを可愛がって神秘を捧げられてるプレイヤーもいるし救えないって程の種ではないんだろう。
僕は嫌いだけどね。
特に見せびらかすように自慰をしていた時は真面目に殺そうかと思った。
でも、スライム以外に子供を作ったのはゴブリンだけだし、その繁殖速度は切り捨てるには惜しい。何でかコボルトは微妙に元気がないんだよなぁ。
「よしよし。マンドレイクの方は異常なし、と。反応がないから悪戯してもつまらないんだろうな」
農家の人が畑の様子を確認するようにトレントとマンドレイクの様子を朝一で見ると、僕はログハウス広場から森の生い茂る奥地へと向かった。
――――――――
〇両性ニンフyj502γ9-hwさん
・山菜果物の詰め合わせ 10魔素
採れ立てピチピチの山菜と果物です。昔懐かしの素材の味が楽しめます。
内包魔素が豊富で健康に良く眷属の餌にも最適な品。
お試しにお一つ如何でしょう?
レビュー
★★★――肥満オーク
まさか魔素で食い物が手に入るとは思わなかった。
味は兎も角、値段の割に量があり満足。
★★――病弱バンパイア
グールの餌として購入したが、費用対効果は微妙。
魔素で誤魔化すのと変わらない。
★★★★★――美形ドライアド
内包された魔素が瑞々しく美味。
麗しい乙女が手作りしてると思うと一粒で二度美味しい。
★――畜生エルフ
マズい。豚の餌以下。
――――――――
森の各地に生えてる山菜と果物を採取して木箱に詰めてショップで販売すると、食い物を魔素で販売してる物珍しさもあってかそこそこ売れる。
お値段、10魔素。安いけどニンフである僕なら元手は0に近い。売れた分だけ利益になる。
「ま、ニンフの僕なら日に120魔素は何もしなくても増えるんだけど」
流石は生きる油田、ニンフ。不労所得って素敵な響きだよね。
これに加えて更にトレントが群れで10魔素くらいは貢献してくれている。一瞬、少ないと思ったけど、10体でこれだからな。
100,200と植林していけば十分ニンフの代わりは務められる。犯してりゃ増えるニンフと違ってそこそこ労力が必要になるだろうけども。
「だから食べ物のショップ販売は現状じゃ道楽。ゴブリンとかコボルトが協力してくれたら話は違うんだけどなー」
朝方に3,4箱くらい森で採取してきたら終わり。休憩してご飯。
マズイマズイとネタにされてるニンフ製の在来種食品だけど、中にはマシな物だってある。今日はアスパラガスのニンニクソース和えに、マッシュポテト、大根の煮付け、桃のデザートだ。どうだ凄いだろ。素材は全部、うちの箱庭産だ。
まあ、調味料とか調理器具とか燃料とかの諸々は全部インベーダーのコピー商品を買った奴だけども。
ズルいよな、あいつら。太陽系の惑星に基地を築いた際に出た土砂なんかを材料に、ミュータントから買い付けた品をコピーしてデーモンへ売りつけてんだぞ。濡れ手に粟じゃん。
くそ、魔素払いでOKとかそんな餌でデーモンが釣られ――。
「あああっ! 高級ベッドが150魔素で売られてる。待てお前ら。そんなに魔素の余裕ないだろ! 君らは藁のベッドで我慢しときなよ!」
仕方ないんだ。背に腹は代えられない。
インベーダーが暴利を貪ってようがなかろうがデーモンが快適に暮すには魔素を貨幣として受け取ってくれる相手がいるんだ。
そう、それに魔素なんて幾らでも湧いてくるしね。へーきへーき。
【交流用】総合雑談スレpart2
323:名無しの転移者
シンドイ辛い寂しい
324:名無しの転移者
何があったん?
325:名無しの転移者
1.黒羊事件に巻き込まれる
↓
2.箱庭が崩壊する
↓
3.デーモン国家で難民
↓
4.良い仕事があると唆される
↓
5.小型宇宙ポッドで時空漂流<イマココ
326:名無しの転移者
あっ(察し)
327:名無しの転移者
あーあ。よりによってデーモン版タコ部屋じゃん
328:名無しの転移者
んん? 箱庭の外へ放り出して何の意味があんの?
329:名無しの転移者
デーモンは次元座標さえありゃ何処にでも簡単に転移が可能
でも多元宇宙に跨がって存在する次元の狭間は広すぎて意図した渡航は不可能
じゃあ、どうやって新たな侵略先の次元座標を特定するんだ?
330:名無しの転移者
A.下級デーモンを手当たり次第、次元の狭間へ島流しにする
331:名無しの転移者
マ?
332:名無しの転移者
いやいや、そんな馬鹿な……。マジ話?
333:>>323
冗談だったら良かったのに(´;ω;`)ブワッ
334:名無しの転移者
うわっちゃー
335:名無しの転移者
ご愁傷さま
336:名無しの転移者
>>323
いやでも、島流しはホントに下級デーモンの仕事だぞ
次元転移すら出来ないような一山幾らの
337:名無しの転移者
次元転移が出来るなら宅配業者として働けるしな
何度も転移するのが面倒くさいけど時給は悪くない
338:名無しの転移者
>>323
次元転移が出来るレベルのデーモンは精液にすら価値が出るぞ
所属する種の最低ランクモンスターをワンランク進化可能だ
最低ランクモンスターを借りて進化させて差額を得る
俺はそうやって魔石の借金を返済している(ドヤ
339:名無しの転移者
ビックリするほど尊敬できなくて草
340:>>323
>>336-338
え、じゃあ俺は何でこんな苦行を?
341:名無しの転移者
坊やだからさ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます