月兎日記
水姫
PROLOGUE
「月にはウサギがいる」
昔の人はそう言いました。しかしそれは月のクレーターによってそう見えただけで、実際にウサギがいるわけではないのです。
いるはずがないと言われてきましたが……
「おぉ~」
そう実は、月には本当にウサギがいたのです。まあ、正確には月人という種族で限りなく人に近い姿をしていましたが。でも、その白くて長い耳と丸くてふわふわなしっぽは、まさしく白ウサギのそれでした。
そして今、一人の月人がある塔の前に立っていました。その塔は見上げるほど高く、そこそこ大きい月の大地にポツンとありました。
「前から気になってはいたけど、すごく高いね~。頂上から何が見えるかな~?」
その月人は右を見て、左を見てからさささっと塔の中に入っていきました。この塔の入り口には立入禁止の立て札が立っていたのですが、どうやらお構いなしに入っていったようです。
長々と続く階段を上り始めて幾何か、ようやく頂上が見えてきたようです。頂上からの景色を楽しみにここまで登ってきた月人ですが、さすがに疲れたのかよろよろと力なく歩いていました。
「時間がかかるとは思っていたけど……はぁ……ここまでとは……!お?おお!」
最初に見えたのは黒い空。宇宙なので恒星は見えませんし、月人は当たり前のように見てきた空です。しかし、遮るものが周りになかったのであたり一面に真っ黒な世界が広がっていまます。月人は柵に近寄り、そこから下を覗きこみました。すると遥か下のほうに灰色の大地が見えました。遠くを眺めるてみると、ぼこぼことした大地が途中で途切れ真っ黒な空に消えていました。
「おおー!驚くほど何もない!」
月人の言う通り、塔の周りには何もなかったうえ今は相当高い場所にいるので本当に何も、それこそ黒い空と灰色の大地以外は何も……。
「これはこれでいいけどね~……!」
月人は。ふと振り返った先に、青くて大きな惑星が見えたのです。隠れた場所のない、真ん丸な状態で。
「きれ~!!街だとこんなにきれいに見えないよ!あっ写真撮ろっと」
持っていたカメラで写真を撮ろうとしたその時、ごうっと音を立てながら強い風が吹いてきたのです。
「うわあっ!風…!?吹き飛ばされるっ……!」
ここは高い塔の上、しかも風を遮るものは何もありません。飛ばされまいと必死に柵にしがみつきますがそれでも風が止む気配はありません。風で体はふわっと浮かび上がってしまい…
「っ……!しまった!」
油断してしまった月人は柵から手が離れてしまい、地面を離れついには遥か彼方に飛ばされてしまいました。
「うわあぁぁ……!」
果たして月人は無事なのでしょうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます