業果

魚崎 依知子

一、

 湿り気のある咳は立て続けに数度、胸を震わせてようやく収まる。荒い息を吐いてもまだ喉はつかえたまま、息の度に不快な音を立てた。

 汗ばむ額を撫でたあと、再び汗を滲ませながら軋む体を起こす。崩れていた寝巻の前を整え、乱れた髪を片側にまとめる。また湧いた咳に、胸を押さえた。


 枕元には、知らぬ間に盆と新聞が置かれている。掛けられた布巾を引くと、湯呑と握り飯。もう昼を過ぎたか。滑らせた視線は、寛城子かんじょうしの文字だけ拾ってすぐに逃れた。

 先月の終わり、また支那しなで事件が起きたらしい。良人おっと鄭家屯ていかとんの再来だと、団扇うちわで私を緩く扇ぎながら呟くように言った。

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