第18話 すれ違い
その日、何年か振りに警察署に行った。
前日の襲われた事実は話さず、今までの変態親父共の事と今回の泥棒の事を説明した。警察が犯人を、捕まえれるとは思わない。ただ、僕がこの先24時間あんなと一緒に入れる訳ではない。少しでもあんなの保護の足しにできると思ったからであった。毎日5回以上、あんなの家の周りを見回る。そのたびに、時間を書いた名刺をポストに投函させる。
後から言い訳をさせないように、許可を得て、それを録音した。
僕は翌日も仕事休み、あんなの様子を見た。あんなは警察に行き、女性警官に話を聞いてもらい、笑顔までは出ないが日常の話も少しするようになっていた。あんなのお母さんにも、泥棒が入った事、衣服が取られた事以外は話はしなかった。その日は何も起こらず、警察の見回った時間が書かれた名刺は、しっかりと入っていた。
その翌日からは、家庭の事情であんなは自宅に戻っていった。『あんなの事をどこまで言うか』結局、僕一人では犯人を探し出すことは難しく感じ、僕はチームの主要メンバーを集めた。暴行の事は隠し、皆に協力してもらうよう頭を下げた。皆は了承してくれ、マコトを筆頭にどのように犯人を炙り出すかを話し合った。結局、何の手掛かりがなく、仕事が終わりにあんなの家の周りを張り込もうという話になった。
皆もそれぞれ仕事をしているし、予定もある。やれることは限られていた。それでも、できる範囲で色々動いてくれる。感謝しかなかった。
一週間経過した。幹部連で日替わりで張り込んでいたが、何の手掛かりを得ることができなかった。いくら張り込んでいても、見慣れた景色と何の変化もない閑静な住宅街。明らかに張り込みに飽き始めている者や面倒な事を引き受けてしまったと態度に出す者もいた。そんな皆の態度に僕は少しずつ不満を持ち始めていた。
日が経つにつれ、僕は皆にイラつきを態度に出すこともあった。完全に僕の我が儘である。それだけ信頼していたという気持ちもあったが、それは余りにも都合のよい信頼だった。皆の意欲が薄れているのも目に見えるようになり、張り込みから少しずつ逃げていくようになった。
"体をかける"刺し違えても、例え腕を落とされようと目を潰されようと絶対にやる。懲役だろうと何だろうと関係ない。絶対に殺る。完全に犯罪者の思考だ。そんな僕からすると、皆の行動や態度は、裏切られたような感情を僕に残した。仲間の軽薄さ、犯人が掴まらない事、あんなに気を使って接する事、そんな行き場のないストレスが僕の精神を少しずつ崩壊していった。
張り込みから10日以上経った時に、張り込みを中止するように皆に言い、僕は結局一人で動くことにした。一人で出来る事は限られていて、強硬手段として翌日からあんなの家の前に車を停め、家の前に少しでも怪しいと思う通行人に対し、手当たり次第因縁をつけた。同じアパートの人間に対しても、脅したり難くせをつけた。
理由はなんでもいい。『何見てんのよ。お前ムカつく顔してんな』でも何でもいいのである。
とりあえず『あそこに近寄りたくない』と思わせれば良いと思った。張り込みをしても犯人が出てこないなら、”どこかで見てるであろう犯人に僕の恐さを教えてやる”そう思っていた。
そんな僕を見て、あんなは当然辛そうだった。世間的な事もあるが、何よりも事件の事を早く忘れたかったのだと思う。その事について、あんなと何度か話合いをしたが、僕も譲れない物があり、いつも話は平行線のままだった。徐々に僕達の仲も悪くなっていった。僕は、あんなを守るためにやっていた。僕は、あんなを守りきれなかった自分が悔しくて、悔しくて、堪らなかった。
『なぜ、もっと前に対処できなかったのであろう』
『なぜ、あんなにもっと強く注意しなかった』『なぜ、あんなが、、』
後悔する分、それをエネルギーにして暴れまわった。
けれど、多分、あんなに必要だった事は、ただ僕が一緒にいてやる事だったんだと思う。何もせず、優しく笑顔でいてあげれれば良かった。でも、救いようのない馬鹿な僕には、そんな簡単な事ができなかった。
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