[WoC]Last Christmas

かおりな

♪Last Christmas, I gave you my heart...


「そうよ、私はあなたに心臓をあげた」



「はっ……はぁはぁはぁ……夢、か」

 あの日を思い出すような夢で友氏は飛び起きる。上半身には嫌な汗がまとわりついている。

 ここはUGN N市支部の仮眠室。交代での警戒のさなか、ひと時の安らぎも得られなかった支部長がゆっくりと起き上がる。

「少し早いが交代する。バンド、状況の報告と申し送りがあれば受ける」

 カラー内蔵の通信機を起動し“鉄の絆”の頭脳担当よしかに連絡を送る。

「標的に動きなし、夜明けまでは動かなそうな気配です」

 即座によしかが答える。今回の任務ではFHセルの倉庫と思われる場所を張っている。敵勢力の総数がわからないためある程度分散したところを各個撃破、最終的に倉庫内のブツを抑えるという手筈だ。

「でも支部長、声がかすれています。あまり休めていないのでは? 水分補給と交代時間の延期を提案します」

 ノイマンらしい的確な分析で友氏の不調を突き止める。

「僕は十分休んだよ。ただ、僕らだけ先に交代するとボーイとアイのペアの交代とずれてしまうのも確かだ。交代は規定の時間を待ってからにするとしよう。」

 嘘と事実を織り交ぜ、支部長として必要な采配を行っていく。

「だから、少し時間があるな。僕がまた寝てしまわないように少しだけ話をしよう」

 この言葉が嘘であることはよしかにもすぐわかった。ジョンですら気付いていたかもしれない。それでも一人と一匹は何も言わない。

「夢を、見たんだ。いつかの冬に、僕が得たもの、失ったもの。そういったものたちが忘れるなと言って闇の底から這い出して来るような夢を」

 友氏は上を見ていた。そこに確かにある天井ではなく、そのずっと先のあるかもわからぬ天上、そこにいるかもしれない人。

「忘れちゃいけないんだ。僕が奪ったもの、僕が与えられたもの。これは僕がずっと持って行かないといけない。それを落としたら、僕は今の僕ではなくなってしまうんだろう」

 抽象的な言葉ばかりでよしかにも何があったのかは判然としない。それでも切り込んでいく。

「でも、そこで得たものと失ったものが支部長の全てというわけではないはずです。そこから先、吊られた男隊の人たち、今のN市支部の人たち、たくさんのやり取りがあったはずです。そしてそこには私もいる、いますよね?」

 最後には詰問するような語気の強さになってしまった。しかしよしかは逃げない。問いかけへの回答をじっと待つ。

「――ああ、そうだね。支部のみんなにはいつも助けてもらってる。それも忘れちゃいけないことの一つだ。金魚さんも大切な絆だ」

 不満の残る回答ではあるが、よしかは渋々それ以上の追及を諦める。

「そろそろ本当の交代の時間だ。まだまだ夜は長い。気を抜かないように」

 相手からの返答を確認し通信を切る。UGN支部長の夜は長い。二人の間の距離もまだ長い。

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