水はぐるぐる回っている (2021.12.5)
シンクに水が叩きつけられている。そんな様子をしばらく眺めて、違う、先に氷を入れるんだった、とか思う。
氷を入れる。カランと涼しげな音が、僕一人だけの空間に響く。
別にこの静かさが嫌いなわけではない。
どちらかと言えば、賑やかな空間の方が嫌いだ。
コップ八分目くらいまで入った、透明な水をなぜだか見つめて、見つめた先の曲がった指を見つめて、飽きたので一気に飲む。冷たい。腹が冷えそうだ。
これだけでは懲りない。というか本来の目的は氷を食べることである。所謂偏食、なんて考えつつ辞められないのである。良くないね。
屈折。光の反射だとか、そういった類のものは苦手だったな……とかふと考える。考えて、辞める。これの繰り返しだ。
……早く、帰ってこないかな。
最後の氷を口に入れて、バリボリと噛み砕く。そういえば、氷って透明なところと、空気と一緒に固まって透明じゃないところの二つがあるよなぁ、とか唐突に考える。考えて、辞める。
なんだろう。
つまり、人がいないと思考にキリがない。嘘、君がいないと思考に終わりが来ない。オチがない。
氷を限りなく透明に凍らせるコツは、ゆっくりと凍らすことである。そんな雑学は知っている。自己完結。終わり。
だから、僕はきっと人が恋しいのだろう。
学生時代、どんなに人を嫌っていたとしても。どんなに人間関係に嫌気が差して、全てを捨ててしまいたくなっていたとしても。結局恋しくて、どうしようもなく好きなのだろう。
……そんなことを考えて、辞める。
気がついたら、またシンクに水が叩きつけられている音を聞いていた。
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