進んだ世界の先で (2021.8.7)
やっほぅ、お久しぶり。お久しぶりなんて言って、昨日も会ったね。
そっちは元気? 元気って概念が存在するかわからないけど。僕は元気だよ、もうこんなヨボヨボになっちゃったけど。
ねぇ、見て。僕、車椅子になっちゃった。足が使い物にならなくなったんだ。知ってるか。
なんだかんだ皆がここまで連れてきてくれたのよ。嬉しいね。
やっぱりここまでくると、違うねぇ。
……。
ねぇ、僕の愛しき少年よ。
八十にもなって、まぁだ『僕』なんて使ってるんだ。女の子なのにね。
……や、もうそんなことはどうでもいい世界になってるみたいだよ。男女の差がなくなってきて、皆が好きなように振る舞えるようになってきてる。
僕らの代にあった『男は〜』『女は〜』はもうほとんど聞かないんだ。すごい世の中だよ、まるで夢みたい。
だから僕の余生も生きやすいんだ。なにも気にしなくていいし、何も繕わなくていい。間違えて『僕』なんて言っちゃっても、誰も何も言わない。
……なんてね。うそうそ、見てわかる通り、家族やら、残ってる友人やら、顔見知りとばかり話してるから、ただ僕が黙認されてるだけかも。わかんないね。
ふふ。
……長いこと手を合わせてるから、段々疲れてきちゃったよ。もういいかい?
「────」
……ふふ。そっか、それはそれで寂しい気がするけど、まあいっか。
じゃあ、またくるね。
◇◆◇
「でもさぁ、ばぁちゃん、そんな足痛めてんのにわざわざここまで来ることなくない? 遅すぎなのよ、今はバーチャル空間に豪華な墓をいくらでも立てれるじゃない」
「まぁまぁ、そういうことじゃあないのよ、付き合わせてごめんねぇ」
車椅子は娘の琴葉が押してくれている。そんな僕の隣を文句言いつつ歩く女の子は、僕のかわいい孫、叶芽、小三の姿だ。
「む、じじたちの墓はすごいんだよ、キンキラキンでね、フサフサしたのがたくさんついてて、あたしの何十倍も大きくて!」
「そっかぁ、そりゃ行ってみたいものだわぁ」
「行けるよ! 足なんてちっとも痛くないから! ねね、一緒に行こ?」
「ふふ、邪魔じゃないなら行こうかしら」
わぁ……! と目を輝かせる叶芽。
バーチャル空間。僕が高校生だったかにはもうだいぶ社会に浸透していたあれ。あの時代にも『バーチャル空間で墓参り!』なんてのは聞いたことあったけど、今はそれが主流なのか。
……同じ墓に入ろうなんて、もう遅いのかしらね。
でもね、僕の愛しき少年よ。
君と同じ墓に、入りたいな。
遅いなんて言われてもお構いない。だって僕の今の夢は、それだからね。
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