ご予定は?

 惑星ハールトスの地域の一つ、スボクの天には一つの輝く恒星が登り切る前の時間帯であった。

 この恒星は惑星ハールトスではリーロスと呼ばれていた。


「本日これからの予定は決めていますか?」

 と、エピアはピクノスに訪ねた。

「決まってはいません。

 ここに来たのもミニマに促されてきたという感じですので」

「なる程…話しには聞いていましたが、本当に来たばかりなのですね」

「はい、一応ここに来るまでの間に、ステータスや地域が断絶している事を聞いて、この地域に来て、歩きながら色々と見てみたのですが…、ここに来る前の記憶が酷く曖昧な部分もありまして、見た物が自分の知るそれと同じなのか違うのかというのも、判断が難しい所です」

「でしたら、当面の間はその辺りの知識や経験をする事に費やしましょう。

 そうなると観光という形でこの地域を散策しましょうか」

「そうなると、生活が厳しいのではありませんか?」

「その辺りはご心配なく。

 冒険者ギルドでは、ルードゥス様に見入られた方々を支援する制度がありますので、それを活用すれば半年は生活するだけなら困らないです。

 ですので、まずはこの申請を先に済ませてしまいしょう。

 少々待ってて貰えますか?

 今書類を準備してきますので」

「よろしく御願いします」

 エピアは席を立ち申請書類を取りに向かった。

 それからしばし立ち、書類を持ってきたエピアから説明を受けながら記入をしていくピクノス。

 住所不定、何処の国家にも籍も無い。

 そんな存在を保護する為の書類と、後継人として冒険者ギルドが着く事、その保証人としてイエリアとエピアの連名が証明者として書かれた書類と、今後生活する上での経済的な支援を受ける為の書類にも記入していく。

「ありがとう御座います。

 この書類の受理は、今の様に特殊な事例ですので、最優先で処理されます。

 ですので明日になりますが支援金が受け取れるようになります。

 また、ピクノス様の籍等に関する所在に着いては、さらにお時間を頂き、後日正式に冒険者組合が保証する特殊な戸籍が発行され、報告が私に届く事になります」

「何から何までありがとう御座います」

「お気になさらず。

 昔…今の様な様々なシステムが存在していない時代ならば、この様な手続きは存在していなかったのですが、現代のような行政システムがあると、ピクノス様のような方の存在…ルードゥス様が送られた方々を法的にどう保護するのかというのも、私達冒険者ギルドの仕事として、ルードゥス様ご指示頂いておりますので。

 それを見やすい形とする為の、ミニマ様のような高位の幼精が側付とされている訳です」

「なる程、そうなのですね」

「そうなのよ!」

「さて、少々時間が過ぎてしまいましたが、お昼ご飯にしませんか?」

「そうですね…といいたい所なのですが、今は手持ちがないので…」

「今日はこの世界に訪れた事を記念して、お祝いとして私が支払いますよ」

「…ありがとう御座います」


 冒険者ギルド。

 それは過去ルードゥスが積極的にこの世界に干渉していた頃に作られた組織。

 そして現代。

 行政システムが確立・複雑化していく中で、ルードゥスが送り込む人材を保護する役割も持つようになった組織。

 ただ、すべての送り込まれた人々が冒険者ギルドの保護を受けられている訳では無い。

 中には他の宗教団体に保護され、イコン・アイドル等といった宗教的な役割・立場になっていたりする。

 この辺りの差は、ルードゥスが出現場所を調整してバランスを取っている。

 ルードゥスは見出した存在の能力と現状を省みて判断を下しているようだ。


 ピクノス、ミニマ、エピアの三名が昼食を摂っている頃、ある二つの宗教団体が俄にその動きを激しくせんと動き始める為の準備を整えていた。

 その二つの宗教団体は、共にこのスボク中央に存在する冒険者ギルド本部都市とも呼ばれるここ、パレト・リスコに大聖堂を構えている。


 パレト・リスコ北西、アーニグマ教の保有するパレト大聖堂。

「お呼びでしょうか」

「これを見ろ」

「はっ!」

 そこには新たな神の御使いとしてピクノスの写真が張られたものがあった。

「その人物は先頃、幼精を伴い東の門から現れた。

 お前には今すぐ当地のスタッフと合流し、この人物と接触してくれ。

 報告では既に冒険者ギルド東派出所に向かったという事だ。

 それと、ディエヒーリシの者達も既にこの件を嗅ぎつけている。

 現地で出会う可能性があるが、当面は穏便に事を運ぶように」

「解りました。

 今すぐに準備を整え作戦に従事します」


 パレト・リスコ南東、ディエヒーリシ教の保有するリスコ大聖堂。

「此方をご覧下さい」

「この方は?」

「先程我らが信徒からの報告で上がってきました、新たに神に見出された方です」

「それは、何とも素晴らしい」

「はい、ですがこの事は既にアーニグマ教の方々も情報を掴んでいるようで…

 あの方々は少々暴力的な行動が目立ちますので、出来得るなら私達で彼の者を導きたいと思っています。

 そこで、是非あなたにこの件をお任せしたのですが、どうでしょうか?」

「喜んでお受けします」


 場所は戻りピクノス達が居る冒険者ギルト派出所東が存在する街、このスボク地域の東境界に存在する門に寄り添う形で存在する街に繰り出して昼食を摂っていた。

 彼等が居る場所は個室が存在する店舗だ。

 これは、昼食を摂りながら色々と話しをする為にエピアがセッティングした席である。

 因みにミニマはその体躯通りの食事量だけですで済むようで、時折ピクノスの前のディッシュから摘まむ程度で満足していた。

「では、この後どの様な事が起こりうるのかについて、お話しをさせて下さい」

 そして、昼食を終え各自それぞれに注文をした飲み物を飲みながら、エピアは話を切り出した。

「まず、ピクノス様のお立場ですが、幼精であられますミニマ様と一緒に行動しているという事は隠して行動していませんでしたよね?」

「そうですね」

「当たり前よ。

 隠れる必要が何処にあるのかしら?」

「で…あるならば、ピクノス様がミニマ様と連れ歩いている様は、誰でも見られる状況にあったと思います。

 そうなりますと、この地域で二つ程の組織がピクノス様方に気付き何らかの行動を起す事が予測されます。

 とはいえ、主な行動としてはピクノス様との接触となると思いますが…

 その二つの団体は、アーニグマ教とディエヒーリシ教と言います。

 この二つの宗教団体は共にルードゥス様を信仰対象としていますが、アーニグマ教はルードゥス様を唯一神として信仰し、ディエヒーリシ教はルードゥス様を中心にした多神教崇拝というかたちとなっています。

 元々はこの二つの宗教は、ルードゥス教という一つの纏まった組織ないの派閥だったのですが、あまりにも考え方が違う為別の組織として立ち上がったという歴史的背景がありまして、それは現在表だって直接的な衝突は減ったものの、現在も友好的な関係ではありません。

 ですが、両者ともにルードゥス様を信仰している事に変わりはないのです。

 その為、ルードゥス様が御創りなられたこの冒険者ギルドが存在するこの地域、そして、その象徴として存在する本部ビル…正確にはそこに存在する神物、これらを神聖視しています。

 その結果、お互いに距離を取ってはいますが、大聖堂をこの地域の中心に存在する都市に築いています」

「なる程…過去、相当に色々とあったようですね」

「はい、詳しい事は長くなりますので追々お話をします。

 それで、この二つの組織から接触があると思うのですが、過去の事例から鑑みますと、それぞれの団体からそれなりの戦闘能力を有した、権力者の指揮下にある方が送り込まれるかと思います。

 この方々の扱いなのですが、今後の事も考えますと無為に扱う事も出来ません。

 これは、冒険者ギルドの立場としての見解なのですが、問題が無ければ出来得る限り穏便に話しを進めて貰いたいというのが、私の立場からお願いしたい所です」

「それに関しましては、私も無闇に喧嘩腰になるつもりはありませんので、と言っておきましょう。

 しかし、そんな仲の悪い組織同士の人員がかち合うという事ですよね?」

「はい、それはお互いに解っていると思うので、それなりの性格ないし判断が出来る人が送られてくると思うのですが、これに関しては実際に会ってみない事には何とも…」

「それはそうですね」

「この件に関しましては、実際に来る人と接触をしてみない事には対処の仕様がないのでここまでにして。

 この後はこの地域の中央に存在する都市、通称冒険者ギルド都市と呼ばれるパレト・リスコをご案内しようと思いますが如何でしょう?」

「そうですね、お願いします」

「では、もう少しお茶を飲みながら、食後の時間を愉しんだら行きましょう」

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