廻間麗奈⑳
◻️■◻️
学校の色々なところで私の噂話が聞こえてくる。
「麗奈先輩ってさ、なんか前より活き活きしてないか?」
「確かにな。なんていうか前よりも完璧になってないか」
「わかるぞ。言いたいことはわかる。……何かあったのかな?」
「麗奈先輩、最近めちゃくちゃ綺麗になってない?」
「いや前から綺麗だったじゃん」
「それはそうだけどさー。なんかこう……乙女っていうか色気っていうか」
「なんじゃそりゃ」
「ねえわかってよー。……あっそういえばさ知ってる?」
「知らないな」
「宮町先輩が麗奈先輩に告白するかもって噂」
「えっ!? まだ告白してなかったんだ」
「意外だよね! まあでも付き合ったら完璧過ぎるカップルの誕生だよ!」
「はぁ……私も美男美女に生まれたかったわ」
私が以前より綺麗になった、活き活きしているか……。
「ふふっ……」
それは正しいと思う。
前の私と今の私とでは雲泥の差がある。今の私には私を支えてくれる人がいて、彼のおかげでみんなが望む廻間麗奈を演じることができている。
彼は完璧な私も本当の私もどちらも好きと言ってくれた。彼だけには本当の私を見せることができる。
◻️■◻️
<校舎裏>
「麗奈、好きだ。僕と付き合ってくれ」
放課後、生徒の行き来も少ない校舎裏へ仁に呼び出されると告白をされた。
今までの接し方などから遅かれ早かれ告白されると思っていたので、特段驚きもなかった。
「その、返事をもらえると助かる……」
仁の顔が赤くなっている。長い付き合いだがこのような顔を見たことはない。
「…………仁は私の頭を撫でることはできるかい?」
「きゅ、急に何を言っているんだ」
突然の私からの意味不明な質問に戸惑う仁。まあ当然の反応だろう。
「できないよね」
「……い、いや、まあ麗奈が言うなら」
仁はゆっくり近づいてくると、ぎこちなく私の頭を撫で始める。
「こ、こうか?」
髪が乱れないように優しく撫でてくれる仁。……男子の大きくてゴツゴツした手だ。
「…………違う」
「ん? 何か言ったか?」
「…………いや。もう撫でなくてもいいよ、ありがとう」
「えっ、ああ」
仁が私の頭から手を離す。
「すまない。仁とは付き合うことはできない」
「…………そうか。理由を聞かせてもらっても大丈夫か?」
「……仁をそういう対象では見れない」
「…………わかった」
「仁とはこれからも支え合う友人として良い関係でいたい」
「……そうだな。これからもよろしく頼むよ」
そう言うと仁は校舎へと歩き出した。
「…………はぁ」
やっぱり駄目だ。仁に撫でられても心は満たされない、気持ちよくない。ただただ嫌悪感しか残らなかった。
自分から言っておきながら、撫でられた時に仁の手を振り払おうとしてしまった。
…………私には千尋くんしかいない。
◻️■◻️
<麗奈の家>
「一人暮らし?」
「うん。高校を卒業したらしてみたいんだ」
食事の時間、父と母に一人暮らしをしたい旨を伝える。
「そうか……。まあ勉学を疎かにしないのであれば別に構わないが」
「大丈夫。そこは今まで通りやっていくから」
「住むところは決めているのか?」
「ある程度目星は付けてる」
「母さんはどう思う?」
「そうですね。勉強と部活が今まで通り両立できるのなら問題ないと思います。まあ麗奈なら大丈夫よね」
「うん。大学に行っても変わらないよ」
「……わかった。決まったらまた教えてくれ」
「ありがとう」
想像通りのリアクションだ。この二人にとって娘が一人暮らしを始めて家から出ていくのはさほど重要ではない。私の価値が落ちてしまうことの方が重要なのだ。
やっとこの家から離れられる。ずっと息苦しかったこの家から……。
◼️
<休み時間>
「ごめんね千尋くん。ちょっとだけ時間いいかな?」
「は、はい大丈夫ですよ」
休み時間、教室にスマホをいじっていたところを麗奈先輩に呼び出された。付いていくと人気がない渡り廊下に到着する。
「あの、何かありましたか麗奈先──」
問い掛けている途中に麗奈先輩に抱きつかれる。
「……れ、麗奈先輩、学校では駄目って」
「だって最近忙しくて甘えられなかったし。それに昨日なんて千尋くん以外の男に触られたんだ」
「そ、そうなんですね」
「すごく気持ち悪くて……。早く千尋くんに触ってもらわないと、どうにかなっちゃいそうで」
苦しいくらい力強く抱き締められる。昨日の出来事が余程嫌なことだったのだろう。
「で、でも学校だと誰かに見られる可能性が……」
「ここなら今の時間、誰も来ないから大丈夫さ。……だからもっと触って」
手を捕まれると麗奈先輩の頬に誘導される。麗奈先輩は触ってほしいところにこうやっていつも僕の手を誘導してくる。今日は頬の気分らしい。
こうなってしまったら麗奈先輩に従うしかない。
誘導された頬を優しく撫でる。
「んっ……やっぱり千尋くんに触られると心が満たされるよ。…………全然違う」
撫でられている間猫みたいに頬を擦りつけてくる麗奈先輩。
「そのまま人差し指を貸してくれ」
「えっ……こ、こうですか?」
麗奈先輩の頬を触っていた手の人差し指だけ伸ばす。何をするのだろうか?
「あむっ」
伸ばした人差し指を麗奈先輩が赤ちゃんのおしゃぶりみたいにちゅうちゅうと吸い始める。
「せ、先輩汚いですよ……」
「ぷはっ……千尋くんが汚いわけないよ。一回やってみたかったんだ。千尋くんの綺麗でいつも私を気持ち良くしてくれる指はどんな味なんだろうってね」
ど、どんな味って……味なんてしないと思うけど。
「麗奈先輩、指がふやけちゃうからそろそろ……」
「もう少しだけ……んっ」
そう言って休み時間が終わるギリギリまで僕の指を吸い続ける麗奈先輩。
ほ、本当に赤ちゃんみたいだ。
「れ、麗奈先輩、もう休み時間が終わるので……」
「んっ……いや。もっとぉ」
甘えている時の麗奈先輩は言動が子どもっぽくなる。手を引こうとするも手を捕まれていて引くことができない。
「きょ、今日は約束の日ですよ。学校終わった後で続きをいっぱいしましょう」
「で、でもまだ足りない……」
「あ、後だったら満足するまで甘えていいですから、今は我慢しましょ?」
「………………………………わかった」
ようやく指を離してくれた。人差し指は唾液で光っている。
「じゃあ今日の放課後、私の家に来てね。絶対だよ」
「は、はい」
「約束破っちゃ嫌だよ。学校終わったらすぐだからね」
「わ、わかりました。すぐに行きますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます