第24話 喋る鼠

「……喋った!?」


 ユーリは喋る鼠を見て声を上げた。


 鼠はすぐに、俺たちに気が付く。


「チューッ!! ゆ、許してくださいっす! 別になすりつける気は……」


 エリシアとユーリの視線に、言い淀む鼠。

 どうやら、俺たちにアロークロウをなすりつけるつもりだったらしい。


 俺はぶるぶる震える鼠に声をかける。


「別に取って食おうとわけじゃない。ただ、この島について聞きたいだけだ」

「そ、そんなことならいくらでも話しますけど……でも、なんで俺こんなおおきくなっちゃったっすか?」

「俺の眷属になったからだ。部下みたいなものだな」

「な、なるほど。まあ……あんたたち強そうだから、それでもいいっすよ。その代わり」


 俺たちの近くにいれば、食べ物にありつけると考えているのだろう。


 俺は、《パンドラボックス》に入っていた木の実を手渡す。


「お、話が分かるっすね!」


 木の実をかじる鼠に、俺は言う。


「食べながらでいいから聞いてくれ。まずは、名前はあるか?」

「……名前……何っすか、それ?」

「仮で、お前のことをティアと呼ぶけどいいかな」

「別に何でもいいっすけど」

「この島で、一番大きな建物を探している。どこか分かるか?」

「それなら、この道をまっすぐいって、右をまっすぐすね! 広い場所があるはずっす。あ、でも……あそこは近寄らないほうがいいかもしれないっすね」


 ティアは何かを思い出すように言った。


「なんでだ?」

「火の玉が、いっぱいいるんっす。仲間もカラスも、触れただけで死ぬっす」

「ウィスプの溜まり場か」


 俺はエリシアに顔を向ける。


「除霊ならお任せを」

「俺も闇の魔力は吸える。乗り込んでもよさそうだな」


 ユーリが恐る恐る訊ねてくる。


「え、えっと、除霊ってことはつまり」

「お化けですね」


 にこっと言うエリシアに、ユーリは体を震わせる。


「怖ければ、ローブリオンで待っていても」

「だ、大丈夫です! アレク様のため、私も!」


 ユーリは自分に言い聞かせるように言った。


「じゃあ、行くか……ティアはどうする? 眷属化を解いてもいいが」

「いやいや! これからもお供するっす! こんな美味しいもの、なかなか食べられないっすから! ぜひ、案内させてほしいっす!」


 ティアはそう言うと、元気よく俺の前を歩き始めた。


「少し体が大きくなったせいか、変な感じっす……でも、前より早く歩けるっすね!」


 二足歩行できるようになり、人語を使えるようになった……

 俺の眷属になったから、人間に近くなったわけか。


 とすると、スライムのエリクが何も変わらなかったのは気がかりだな。


 もしかしたら個体差のようなものもあるのかもしれない。

 青髪族も髪が生えてなかった者がいたし……


 あとでティアに仲間を連れてきてもらって、新たな眷属を募ってもいいかもしれない。


 そうこうしている内に、街路の先に開けた場所が見えてくる。あれが、アルス島の中央広場だろう。政庁らしき建物が建ち並んでいるのが分かる。


 そこでは、火の玉……ウィスプがいくつも浮かんでいた。


「ぱぱっと済ませよう」

「はい! それでは!」


 エリシアはさっそく手に光を宿し、周囲に光を広げた。


 さすが手慣れている。ウィスプは次々と消えていった。


 戦闘よりも、エリシアにはこっちのほうが似合っている気がする……


「エリシア、すごい! 戦闘だけじゃなかったのね!」


 ユーリの言葉に、エリシアはふふんと自慢げな顔をする。


「私にかかればこんなものです。さ、こんなものでしょうか?」


 エリシアは火の玉の消えた広場を見て言った。


「ああ。ありがとう、エリシア」

「アレク様……私ごときにもったいないお言葉です……」

「そ、そんな大げさな」


 顔を赤らめるエリシアから、何本もの白い柱が特徴的な神殿風の建物に視線を移す。


「ここが政庁だろうな。よし、中に入るぞ」


 大きな両開きの扉を開き、中の様子を窺う。


 案の定暗い。

 だから《聖灯》という、光の球を浮かべ周囲を照らす魔法を使ってみた。


「……あれ? 二つ?」


 光の球は二つ浮かび上がった。


 やり直し前の俺では、一つが限界だった。

 それが倍になっている。


「何かございましたか、アレク様? あ、これは失礼を……すぐに明るくいたします」


 エリシアもすぐに、俺と同じ《聖灯》を周囲に浮かばせた。全部で十個。


 と、聖の紋章を授かった者なら、別に難しい魔法ではない。


 だが、闇の魔法以外が上手く扱えない俺にとっては、驚くべきことだ。


 これはつまり眷属が増えたことで、魔力が増えたということだろうか。

 闇だけでなく、他の属性も魔力の変換量が増えたわけだ。


 だが、三十名ちょっとで倍になった。


 仮に俺がこのティアルスを開拓して、もっとたくさんの眷属を養えるようになれば……


 いったいどうなってしまうんだろうか。


 そんなことが気になったが、すぐに俺は前方の魔力に気が付く。


 闇の魔力を纏っている何か……


 それは光球に照らされると……


「鎧?」


 政庁の大広間には、一体の鎧が立っているのだった。

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