第23話 上陸と鼠!
ティアルスに足を踏み入れた俺たちは、その翌日もティアルスを《転移》で進んでいた。
エリシアとエリク、ヘルホワイトはもちろん、ユーリも一緒だ。
「一気にアルス島を目指す!」
「はい!」
なるべく長距離を俺は《転移》で進んでいく。
途中道が二手に別れていたりする場所は《隠形》で姿を隠し、地図を確認して進んだ。
《隠形》が効いているのか、魔物たちはやってこない。
声を上げないなら、《隠形》でもいけそうだな……いや、匂いのせいかこっちに迫ってくるデススネークがいる。
すぐに《転移》し、俺たちはアルス島を目指した。
次第に、俺たちの前に水平線が見えてくる。
海が近くなってくると、やがてエリシアが声を上げた。
「あれが、目的の島ですね」
巨大な湾の中に、ぽつんと島が一つ浮かんでいた。
俺は海岸でヘルホワイトから下りて、島の様子を窺う。
ぽつんというには、大きすぎる島か。中央が丘のようになっているが、基本は平坦な土地だ。人が一万人は暮らせそうな広さはある。
その上には、鬱蒼とした森や石造りの建物の廃墟が立ち並んでいた。
ユーリがぽつりと呟く。
「なんか、今も人が住んでそう……」
「アンデッドなら出るかもしれませんね、ユーリ」
「や、やめてよ、エリシア」
にっこりと言うエリシアに、ユーリはぞくっと体を震わせる。
エリシアもユーリも互いをさん付けで呼んでいたと思うが。
昨日の夜に打ち解けたのかな。
「まあ、いてもおかしくなさそうだけど……でも、ぱっと見は何かがいるわけじゃないな」
「そうですね……いえ、アロークロウがところどころ、屋根上にいたりします。でも、そんなに多くはないかと」
エリシアはそう報告してきた。
「なら、一度上陸してみるか」
「かしこまりました。いつでも」
エリシアは剣を抜いて言った。ユーリもメイスを握る手を少し震わせながら頷いた。
俺は早速、島の港湾のような場所に《転移》を念じる。
目の前には、石畳の街路と漆喰の剥がれた建築が目に映った。
すぐに《隠形》で姿を隠す。
「地上には何もいないな」
「歩いていたら、家の中から何か出てきそうですけどね……」
ユーリは声を震わせた。エリシアのアンデッドが出るという言葉が気が気でならないようだ。
エリシアは俺に訊ねてくる。
「それで、これからどちらに?」
「島の中央に、行政区があったはずだ。そこでまずは何か情報がないか調べてみるよ。そこなら、この島やティアルス州の地図があるかもしれないし」
再び俺は海沿いの街路を進み始めた。
結構広い島だから、迷わないようにしないと。行政区の位置も、だいたい真ん中にあるだろうという予測に過ぎない。
とはいえ、大通りを見つけて島の中側に進めば、それらしき大きな建物が見えてくるはずだ。
海沿いを歩いていくとさっそく大通りを見つけたので、その通りを進んでいく。
だだっ広い道には、特に何も残されていなかった。
大小の鳥や魚の骨が散乱しているぐらいだ。
「今ここに来るのは、鳥ぐらいということでしょうかね」
「ああ。魚を獲って食べていた鳥を……さらに大型の鳥が食べたのかも」
その鳥が、アロークロウというわけだ。
「と、鳥はまだいいけど……」
「ユーリは元の体は大きいのに、小心者ですね」
「え、エリシアが変なこと言うから! ……替えの下着持ってきているからいいけど──ひっ!?」
ユーリはびくんと体を震わせた。
ばさっという音が、後ろのほうから響いたからだ。
振り返ると、アロークロウが矢のようにまっすぐこちらに向かっていた。
「俺たちに気が付いた……? いや」
目を凝らすと、地上に小さな生き物がこちらに走ってきていた。
「鼠……こんな場所にもいるか」
人里に住み着き食料を食い荒らす動物。人間がいるなら、もうどこにでもいると思ったほうがいい。
だが、ここには人はいない。帝国が引き上げてもここで生き残った個体だろうか。
ともかくアロークロウは、俺たちへとまっすぐ進んできている。
俺たちには気づいていない。
このままではぶつかってしまうので、手早く倒すとしよう。
「俺が倒す。エリシアたちは警戒を」
《闇斬》でアロークロウを撃ち落とし、その死体を即座に《パンドラボックス》に回収する。
血が少し出てしまったか……っと。
本当にわずかな間だったが、があがあと空から声が上がる。他のアロークロウが気づいたらしい。
とはいえ、十体もいない。
今日の食料のためにも、少し倒しておくか。
俺は向かってくるアロークロウを倒すことにした。エリシアも剣で突っ込んでくるアロークロウを斬り倒していった。
「く、来るな! えいえい!」
ユーリはぶんぶんとメイスを振り回すだけ。顔はクールな感じだが、なんとも残念な雰囲気を漂わている。
戦い自体は、それから一分もしない内に終わった。
「とりあえずは、これで全部だな」
俺は倒したアロークロウを回収していく。
だが、ゆっくりはできない。
またすぐに、血の匂いを嗅ぎつけた者たちがやってくるだろう。
「先に進もう」
「はい!」
俺たちは再び《隠形》で姿を隠し、行政区を目指す。
だがそんな中、エリシアが何かに気が付き振り返る。
「……うん? さっきの鼠?」
エリシアの視線の先には、建物の角から恐る恐るこちらを見る鼠がいた。
「もしかして……私たちから食料を獲ろうと。またアロークロウに見つかると厄介ですし、あれは私にお任せを!」
鼠なら自分でも倒せると、ユーリは自信たっぷりな顔で言った。
「待つんだ、ユーリ。鼠にしては賢い。さっきも俺たちの匂いに気が付いて、なすりつけてきたのかもしれない」
いい迷惑だが、ずいぶんと頭の良い鼠だ。
「少し気になることもある。捕まえよう」
「はい! お任せください」
ユーリはそう言って鼠を捕まえようとする。
しかし鼠はすばしっこく捕まえられない。
「く、く! 逃げるな! あ」
ユーリの苦戦を見かねてか、スライムのエリクが鼠に覆いかぶさった。
鼠は瞬く間にエリクに取り込まれてしまった。
殺すわけではなく、呼吸ができるよう頭だけ出してあげてる。
帝都にいたスライムだから、鼠は見たことがあるだろう。獲るのも慣れているのかもしれない。
それを見たエリシアは微笑む。
「エリク、お手柄です」
「むう……スライムにまで負けるなんて……」
ユーリはぷくっと頬を膨らませ、悔しそうに言った。
「まあまあ、鼠は本当にすばしっこいから……それじゃあ」
俺は腰を落とし、鼠の顔を見る。
鼠は死にたくないのか、慌てているようだ。
「殺しはしない。でもここは危険だ……だから、俺の眷属にならないか?」
俺の声に鼠は急に動きを止め、こちらをじっと見つめてくる。
やがて、頷くような仕草をしてみせた。
その瞬間、鼠が急に光だした。
光が収まるとそこには、
「鼠……」
さっきと変わらぬ鼠がいた──いや、違う。
体はさっきの何倍にもなっている。しかも、後ろ脚だけ立っていても全く辛そうにしていない。
そして先程と明らかに違うことが一つ。
「──なんっすか、これ!?」
鼠は、大声で人の言葉を発するのだった。
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