第20話 拠点をゲット!

 ユーリたちを眷属にした翌朝。


「いやあ、アレク殿下!」


 ローブリオンの港に着くなり、機嫌の良さそうな顔の老齢の男──ローブリア伯が俺に駆け寄ってきた。


 ローブリア伯は跪くと、深々と頭を下げる。


「まさか、敵の謀略を見抜くとは! 殿下のご慧眼には感服いたしました!」

「役に立てたなら何よりだ。ところで、魔族たちは」

「まだ見つからぬようですが、今頃どっかの浜に打ちあがっているでしょう」

「そうか。逃がしてしまったな」

「どうか、そんな些細なことはお気になさらず! 殿下には、このローブリオンを救ってくださったのですから」


 救った、か。

 防鎖がなくても、不意打ちでなければ防げる自信があるのだろう。


 たしかに港には、実に多くの兵士たちが待機している。

 湾内にも軍船が防鎖の代わりになるように、一列になって停泊している。


「魔王国に動きはないんだな?」

「ええ。防鎖が切れていようと奇襲ができない以上、敵も無理には突っ込んできませんよ。まあ、ずっとこうして兵を動員しなければいけないのですが……」


 兵士全員が常備軍というわけでない。


 多くは普段、周辺で農業を営んでいたりする者たちだ。

 そういった者たちを召集し養うためにはお金がかかる。


「なるべく早く防鎖を直さなけばいけませんが……北のアイオス伯領でも、あの大きさの鉄鎖は」

「帝都から取り寄せるか、作れる職人なり魔族を呼び寄せないといけないな」

「ええ……ですが、魔族はもう信用できません。設置は時間が掛かっても、人間にやらせるつもりです」


 そう話すローブリア伯はいらだちを隠せない様子だった。


 相当なお金がかかると覚悟しているようだ。


「そうか……実はローブリア伯。俺はティアルス開拓のために、三十人ほどの職人集団を雇っている」

「あ、あの地を開拓ですか……い、いや失礼。職人集団ですか」

「ああ。実は、すでにこのローブリオンのすぐ北まできている。彼らは優秀で、巨大な鉄鎖も作れてな」


 そう口にした瞬間、ローブリア伯は顔色を変える。


「なんと!? ぜ、ぜひ鉄鎖を作ってはいただけないでしょうか!? お金はいくらでもお支払いいたします!」


 ローブリア伯は両手で俺の手を掴む。


 やはりというか、食いついてきたな……とはいえ、好都合だ。


「なら、素材をくれれば、適正な金額で作らせよう。だが、彼らのしばらくの滞在のための家と工房を用意してもらいたい。できれば食料と……あとは商売をする許可を得たい」

「そんなことでよろしければ、すぐに用意いたします! 今回のお礼もございますし、大通りの良い場所を殿下にお譲りしましょう! しばらくと言わず、ずっとお使いくださいませ! おい、すぐに場所の手配を!」


 ローブリア伯は近くで控えていた側近にそう言った。


「ありがとう、ローブリア伯。なら、さっそく北から呼び寄せる」

「こちらこそ、ありがとうございます! いやあ、これでローブリオンも安泰です!」


 ローブリア伯は心底安堵するような顔をすると、高笑いを響かせた。


 安泰というよりは、出費が抑えられるのが嬉しいんだろうな……


 職人というのは、もちろんユーリたちのことだ。人の姿になっているので、バレることもない。


 ともかく俺たちは、ローブリオンの大通りに店舗兼住居、およびそれが建つ土地の所有権を得ることができた。


 俺はユーリたちをそこに呼び寄せる。


 四階建て、中庭付きの集合住宅だ。

 一、二階は広く店舗や工房に最適、中庭は鍛冶をするのにうってつけだった。上層階は住居に使わせようと思う。


「よしよし、家具も鍛冶道具も運んでもらったようだな」

「す、すごい……こんな立派な場所に」


 青みがかった黒色の髪の娘──ユーリが工房を見て言った。


 他の魔族たち……俺が青髪族と名付けた彼らは、ベッドや風呂があることなどに驚いているようだ。今まで、とても劣悪な場所で寝泊まりしていたのだろう。


「しばらくは、皆でここで住むようにしてくれ。ちゃんと食料ももらえるようにした。下に店を開く許可ももらっている」


 ユーリは深く頭を下げる。


「命まで助けてもらって、住む場所まで用意してもらって……アレク様、本当にありがとうございます」

「今までの労働の見返りだと思えばいい……だが、ローブリア伯に渡す鉄鎖はしっかり作ってくれ」

「もちろん! アレク様を裏切るような真似は絶対にしません」

「その言葉を信じるよ」


 俺が答えると、ユーリは力強く頷いた。


「でも、ユーリ。お前には別のことを頼みたい」

「何でも言ってください」

「嫌だったらいいんだが……俺たちと一緒にティアルスに来てほしい」

「私が、ですか? もちろん、私で良ければお供いたしますよ!」

「ありがとう。少しでも鉱石に詳しい者を連れていきたかったんだ」


 人質というわけではなく、ティアルスに良い鉱床がないか確認したかった。


 だが、さすがに三十人を引き連れてティアルスを冒険はできない。

 まずは少人数でティアルスを探索し、安全な場所や資源があるか確認したい。


「そういうことでしたら、むしろ私にお任せください! 昔、三年ほど北方の鉱山で働いていました。それなりに鉱山や鉱石には詳しいつもりです!」


 ユーリは自信ありげな顔で答えてくれた。


「そうか。それは心強いな。なら、あとでエリシアと装備を整えてくれ。エリシア、頼むぞ……エリシア?」


 隣に顔を向けると、そこには少し残念そうな顔のエリシアがいた。


「え、あ、はい。そうですね。たしかに私には、鉱物の知識はないですから……二人旅もここまでっ!」


 エリシアは何かを惜しむようにそう言った。


 何がそんなに悔しんだろうか……


 俺はユーリと顔を合わせるが、ユーリも首を傾げていた。


 兎にも角にも、俺たちはローブリアに拠点を得ることができた。


 青髪族は人の姿になったが、鍛冶の腕前は落ちていなかった。むしろ、前よりも繊細な作業ができると皆喜んでいた。


 驚くべきことに腕力も全く落ちていないようだ。

 俺と同じぐらいの子供でも、樽を片腕で持ち上げれる……


 さすがにこれは人間に見られると怪しまれるので、そこは気を付けるよう伝えた。


 しばらく見学していたが、巨大な鉄鎖も簡単に作ってみせた。武具や道具も大変質のいい物を作るので、それは一階で売ってもらうことにする。


 これなら、いい感じに稼いでもらえそうだな……


 翌日、俺はティアルスへと出発するのだった。

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