434.うちの子は天才かも知れない

※昨日の更新で、アデーレと別の侍女を勘違いして書いていました。違和感なく書いた自分が( /ω)ハズカチッ!!! ごめんなさい(o´-ω-)o)ペコッ 昨日分をかなり改稿しましたので、433からお読みになることをお勧めします。

*********************








 アデーレは「よいせ」と身を起こし、慌てたアスタロトが抱き上げた。歩かせる気はないらしい。珍しい光景だが、じろじろ見ると後が怖い。ぎこちなく視線を床に逸らした。ちらちら見てしまうのは許して欲しい。


 階段を降りた部屋で、侍女達が慌ただしく走り回っていた。ルシファーやアスタロトの姿に、慌てて頭を下げる。


「忙しいなら悪かった。リリスや大公女達が心配していたので、大丈夫だと伝えておこう」


「はい、よろしくお願いします」


 元気に頭を下げる彼女は、出産の手伝いに来たのだろう。魔王城で見たことがない女性だった。


 室内から「痛い」の声が聞こえると、駆け込んで行った。アスタロトの腕を叩いて下ろしてもらったアデーレは、心配そうに中を覗く。


 陣痛に襲われた侍女が、腹を抱くように蹲った。クッションがいくつも転がり、彼女は右側を下にして丸まる。上掛けに覆われた足元で水音がした。


「破水です! 助産師、それから医師も! あとは総出で狩りに出なさい」


 吸血鬼の出産は独特だ。わっと手分けした一族の半数以上は、狩りの獲物を求めて空へ散った。


 呆然と見送り、ルシファーは廊下の壁に向かって立つ。女性の出産シーンを夫でもないのに、廊下で盗み見しないようにだ。後ろを夫らしき男性が走り、すぐに扉は閉められた。


 ほっと力を抜くルシファーだが、漆黒城はこれから忙しくなる。このまま抜け出すのは気が引けて、アスタロトに申し出てみた。


「アスタロト、狩りならオレも手伝えると思うんだが」


「……いえ、危険なので立ち去ってください。ルシファー様の血はかなり美味しそうなので」


「分かった、帰る」


 素直に申し出を引っ込めて転移魔法陣を展開する。ここでゴネても邪魔になる上、襲われでもしたら責任問題が発生した。吸血種同士なら危険が少ないのだろう。


 お急ぎで戻る魔王を見送り、アデーレがくすくすと笑う。アスタロトに支えられながら彼女は呟いた。


「わざと追い払ったわね?」


「当然でしょう。侍女達はこれからも城勤めで顔を合わせるのですよ。浅ましく血を吸う姿を見せれば、気後れします」


 アスタロトの気遣いは分かりづらい。故に周囲は誤解する人も多かった。それを恐れず、ルシファーの治世を支えるため、常に悪役を買って出た。こんな人だから惚れたのだ。


 アデーレは頬を緩め、絡めた腕に体重をかけた。


「疲れましたか?」


「そうね、戻りましょう」


「ええ。きっとモルガーナが寂しがっています」


 ふふッと笑う妻アデーレを再び抱き上げ、アスタロトは引き上げた。出産は夫婦の大事な行事だ。夫が駆けつけ、出産を手伝う女達の手が足りているなら、当主の出番などないだろう。精々が、出産後の母親達が必要とする血を得る狩りを命じる程度だった。


 愛娘モルガーナの待つ寝室へ戻り、二人で顔を覗き込む。親を交互に視界にとらえ、モルガーナと名付けられた娘は目を見開いた。瞳孔が縦になった吸血種の娘、真っ赤な瞳と金茶の髪をしている。まだ薄い髪に覆われた頭を撫で、アスタロトは呟く。


「魔力量も多いですし、長く一緒に過ごせそうで安心しています。元気に育ってくださいね」


「娘に対しても口調は崩れないのね。パパと仲良くしてあげてね、モルガーナ」


 両親の期待を一身に背負い、赤子ははふっと欠伸をした。小さく伸びるような仕草も見せる。気の所為かも知れないのに、うちの子は天才だと思ってしまう。親バカは例外なく、魔王以外の上位魔族にも現れた。


「モルガーナは天才かも知れません」


「……そうじゃないことを祈るわ」


 現実的な妻の一言に苦笑いしたが、アスタロトは発言を訂正しなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る