429.上の子は下の子に嫉妬する運命です
お姉ちゃんになったら、楽しいと思っていた。しかし、何だか違う。パッパもママも、赤ちゃんばかり。シャイターンを嫌いじゃないのに、腹が立った。
弟が生まれる前は、全部私のものだったのに。シャイターンを優先するのが許せない。でも弟は大好きだ。小さくて何も出来ないけど、可愛いと思う。パッパと似た髪の色も好き。
いろんな感情が混じり合って、複雑な模様を作る。それを全部吐き出したら、レラジェが「それでいいよ」って笑った。難しいことを考えず、全部外へ出してしまえと言われるたび、体の黒い色が外へ出ていく気がした。
「今度、魔の森のリリンに会いに行こう」
レラジェに誘われ、嬉しくて頷いた。そうだ、パッパとママが忙しいなら、リリンがいるじゃない。気づいたら楽しみで、魔の森の夢を見た。イヴを抱っこして微笑むリリンは、顔だけならママにそっくりだ。
ぱちりと目を開いて、驚いて周囲を見回す。ここ、リリンの中だと思う。前に来たことある。
「イヴ、おいで」
手を広げるママにそっくりのリリンに抱き付き、思う存分甘えた。パッパとママの文句も言ったし、たくさん気に入らないことを吐き出す。全部受け止めるリリンは、イヴが悪いと言わなかった。それがただ嬉しい。
途中から別の話に変わる。保育所から保育園になったこと、新しいオモチャが増えたこと。それからお友達も増えたこと。話し疲れてリリンに寄りかかって目を閉じた。
「っ! いた」
飛び込んだレラジェに「勝手に来たらダメだろう? 皆が心配したよ」と叱られ、すぐにぎゅっと抱き締めてもらえた。それもふわふわした夢みたいで嬉しい。
「リリン、イヴを見てくれて助かった」
「あら、自分で来ちゃったのね。これも才能かしら」
頭を下げてお礼を言うパッパと、首を傾げるママ。どっちも変なの。くすくす笑うイヴは、疲れからそのまま眠ってしまった。彼女が夢だと思ったのは、どこから現実だったのか。
不満を全て吐き出したイヴは、すっきりと目覚めた。まだ夜明け前の部屋は薄暗く、カーテンの下から青い光が漏れている。隣を見れば、ママがシャイターンを抱っこして寝ていた。反対側はパッパ、私の手を握って、しっかり抱き締めている。
「ん、起きたのか。もう少し寝られるか?」
「うん」
すり寄れば、大切そうに抱き寄せられた。ぺたりとルシファーの胸に顔を埋めたイヴは、その温もりに身を任せる。もう少し寝られそう。パッパの匂いがする。吸い込んで、イヴは大きく息を吐き出した。
「……レラジェが気づかなければ、一大事だったな」
魔の森の内側は、ルシファーの探索が及ばないことがある。リリスを見失った経験もあるので、かなり注意していた。それでも、ふっと薄くなったイヴの気配に大慌てだ。レラジェの指摘で追尾が可能になったが、いろいろ不満をぶちまけたらしい。
「リリスを愛している。イヴやシャイターンも同じだ。もちろんリリンも」
そこで言葉を止めて、ルシファーは目を細めた。愛しい娘の顔はオレに似ている。だが色は妻にそっくりだった。明らかに二人の特徴を兼ね備えた、愛しい存在だ。子どもを愛の結晶と表現する者がいたが、なるほどと納得した。
シャイターンが生まれて、嫉妬する。それも成長の一つだろう。大人になるため必要な過程だとしても、寂しいと感じさせたのは失敗だったと反省した。愛情を疑われることがないよう、大切に育てよう。リリスの時もそうだったが、子どもの期間は短いのだから。
すやすやと寝息を立てる娘の額に口付けをして、ルシファーは眠りについた。翌朝からベタベタとイヴに構いすぎて「パッパはもう、あっちいって!」と叫ばれる。懲りずにちょっかいを出し、イヴに顔を平手で叩かれるのは、保育園へ向かう途中の出来事だった。
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