417.王子様のお名前もあっさりと
ぐっすり眠ったルーシアが目覚めた時、産気づいた全員のお産が終わっていた。
リリスが産んだ息子は初乳も飲んで、ルシファーの腕で眠る。シトリーの卵は三つとも夫グシオンが温めていた。炎龍なので体温が高いのだ。
レライエとルーサルカは徹夜で手伝い、二人の侍女が産み終えたのを確かめて、倒れるように眠った。ルーシアが目覚めてもまだ起きないところを見ると、あと数時間は無理だろう。
ルーシアは最初に取り上げた赤子の無事を確認し、疲れて眠る侍女へお祝いの言葉をかけた。同僚二人を置いて、ひとまず与えられた部屋に戻る。アパートのようになった魔王城の一画に住まう大公女達は、下手な一軒家より豪華な部屋を使っていた。
居間で待っていた夫ジンが、朝食を用意する。微笑んで一緒に食べ始めた。娘のライラとアイカは、新しく生まれた子を見たいと大騒ぎだ。静かに見るだけの条件をつけて、同行を許可した。
「うちもあと二人くらいいても、いいかな」
ふふっとルーシアが笑い、子ども達も賛成した。ジンは思わぬ誘いに赤くなりながら、男の子が欲しいと呟く。事実上の賛成表明であり、夫婦は互いを見て照れたように頬を染めた。
別館でルーシア達ロノウェ侯爵夫妻が盛り上がっている頃、ルシファーは慣れた手付きでオムツを交換していた。
「うん、健康的だ。問題なし」
まだお乳を飲んだだけなので、匂いも薄い。夜中に大泣きすることもなく、比較的大人しい子だった。
「名前をつけなくちゃ、な」
朝食を食べたものの、リリスはうとうとしている。日向の窓際へ移動させ、ルシファーも隣に座った。赤子を抱いているが、当然のようにイヴも膝によじ登る。さすがに母リリスの体調が悪いのは理解したようで、彼女に抱きつこうとしなかった。
「ママのお腹、小さくなった」
「そうだな。代わりにこの子が出てきただろ」
「うん」
「お姉ちゃんだから、イヴは優しく出来るよな?」
「出来る」
勢いよく頷くイヴは、恐る恐る伸ばした指先で、赤子の額をちょっと撫でた。正確には触れて離れた程度の感覚だ。それでも本人にとって大冒険だったらしく、興奮して頬を紅潮させた。
「やっこい」
「柔らかい、な」
言い直して、方言を直そうとする。本当に、どこで覚えてくるのか。心当たりは保育所しかない。来年から保育園へ昇格するが、友人達も繰り上がるため方言と訛りも一緒に昇級だった。本気で対策を考えないと、イヴが各地の訛りを集合した話し方になってしまう。
まあ、通じなくて苦労するより聞き分けられた方がいいが……普段からイヴが使うのは問題だった。礼儀作法にうるさいアスタロトやベールに叱られる前に、直しておきたい。
「やぁらかい」
「うん、ひとまずそれでいいか」
舌足らずに聞こえる分には問題ないだろう。中途半端な妥協をする辺り、間違いなくルシファーである。微睡んでいたリリスが欠伸をひとつ。ぐいと伸びをして目を覚ました。
「そろそろ名前決めないとダメね」
「ああ。何がいいか」
誰もが太鼓判を押すほど、ルシファーのネーミングセンスは酷い。フェンリルに「フェン」、エルフに「エル」と名付けようとした過去がある。偶然にもリリスはまともだったが、今回も奇跡が続くとは限らなかった。
「私はシャイターンがいいわ」
「長くないか?」
「そう? 可愛いと思うの」
男の子だが可愛くてもいいだろう。妻に甘いルシファーはすぐに同意した。普段は縮めて「サタン」を愛称とする案で纏まる。
眠っていたシャイターンがぱちりと目を瞬いた。ルシファーに似たのか、純白に近い銀髪に赤い瞳が瞬く。
「この色は、昔のリリスだな」
「あら本当。イヴと一緒で色を分かち合って生まれたのね」
微笑む美形の両親と可愛い姉をぐるりと見回し、シャイターンは「あぐぅ」と返事のような声を発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます