319.やらかす子が出る恒例行事

 魔族は長寿であり、大人になると外見が変わらなくなる者も多い。そうなれば、ルシファーが開発して販売した「お着替え魔法陣」は人気商品だった。体型が変わらなければ、服の着替えが一瞬なのだ。


 その魔法陣の話がなぜここで出たのか。理由は、ステージ上のイヴにあった。


「お披露目の代表はイヴ姫にお願いしましょうね」


「あい!」


 元気よくステージ上で、小さな杖を振り回す。リリスの園長だったミュルミュールは、にこやかにイヴを紹介した。ドライアドの長でもある彼女は、2000年近く生きた長老である。子どもの扱いは慣れていた。


 それが普通の子であれば……という注釈がつくのだが。リリス同様、イヴもお転婆姫だ。振り回す杖は魔の森リリンが用意した枝を使用し、魔力を増大させて放出する機能があった。杖の形をしていることもあり、振るたびに魔力が飛んでいく。その先々で悲鳴が起きた。


「イヴ、イヴ! 可愛いからじっとして」


 褒めて動きを制限しようとするルシファーの言葉に、イヴはさらに興奮した。慌てて結界を張り、イヴの暴挙を止めようとするルシファーだが……イヴの魔法は「無効化」である。結界は無効にされて消え、人々の「お着替え魔法陣」が解除されていく。


 魔法陣を使用する前に着用していた服に戻るため、風呂上がりに使って裸の者もいた。ある獣人女性は、裸を披露するくらいならと獣化する。その隣の夫はパンツ一枚でしゃがみ込んだ。


「イヴ、その杖を振り回すなら……おやつ抜きよ」


 ぴしゃんとリリスが叱る。驚いた顔をしたイヴの手が止まった。その隙に、ミュルミュールが杖を奪い取る。まだ幼く魔力の扱いが未熟なため、杖がないと魔法の方向が定まらなかった。それを見抜いた、ミュルミュールの判断である。さすがは保育園の園長だった。


「やぁ!」


「イヴちゃん、ご挨拶だから杖は後でね」


 怒ったイヴだが、ミュルミュールの穏やかな話しかけに、考える。指を咥えて唇を尖らせ不満そうだが、最後には頷いた。


 リリスが満足げに頷く。複雑そうな顔でルシファーが肩の力を抜いた。服が脱げてしまった彼らに、魔法陣を復元していく。ぱちんと指を鳴らすたびに、歓喜と安堵の声が上がった。


「騒がせてすまなかった。続けてくれ」


 魔王が責任をとって元に戻したので、場は収まった。というより、幼子が何かやらかすのは、恒例行事だ。今さらなので、数年後の笑い話になるだろう。イヴは黒歴史を作りながら、にこにこと笑顔を振り撒く。どうやら客席から手を振られたらしい。


「リリス様もイヴ様も……あなたの育てる子はどうしてこう、騒動ばかり起こすのでしょう」


 しみじみとアスタロトに嫌味を言われ、ルシファーは肩を竦めた。


「魔族の子なんて、皆同じようなもんだろ。それにお前の3番目の息子はもっとひど……むぐ」


 酷かったと続ける口を、無理やり閉じさせられる。過去にアスタロトの3番目の息子が起こした事件は、黒歴史どころではなかった。興奮して周囲の子に噛みつき、擬似吸血種にしてしまったのだ。悪気はなかったとはいえ、戻すのに苦労した覚えがある。


 人族でもなければ、噛まれたからと吸血種になることはない。それが通例だが、例外があった。まだ種族としての自我が完成されていない幼子の場合だ。吸血種の血は強いので、一時的に噛まれた人族のように眷属化してしまう。その血を分離する作業で、ベールが活躍した。


 その頃はまだ分離魔法が平気だったルシファーも頑張ったが、幻獣の子が巻き込まれたこともあり、ベールが迅速に動いた。懐かしいと呟くルシファーは、ステージ上に並んだ魔族の子を記憶していく。この子らが、次の時代を背負って立つ魔族になるのだから。

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