317.陛下の剣は高温で炙られた
魔王ルシファーが練り上げた巨大な炎は、明るい黄色だった。高温過ぎて陽炎が現れる。それを叩きつけた瞬間、前に飛び出したのはベルゼビュートだった。
「陛下の剣が参りましたわ……あっつ!」
じゅわっと嫌な音がして、彼女のドレスの裾が焦げた。逆に言えば、直撃したのにその程度の被害しかなかった、と言い換えることが出来る。深い紺色でスリットが入ったご自慢のドレスは、ぴたりと肌に張り付いていた。だが、精霊女王の肌を焼く炎は存在しない。
「あ、悪い」
「髪が焦げてたら、陛下でも許しませんわよ」
突然前に飛び出したのは彼女の方なのだが、ぷりぷりと怒りも露わに敵に背を向けた。後ろから伸びた触手が絡みつく。と思いきや、直前で切り刻まれた。それも粉々と呼ぶに相応しい細かさで。ばらばらになった肉片からは、血も出ない。
ぬめりのある透明の液体がどろりと周囲に落ちた。そこから何かが生えてくる。
「……ベルゼ、切らない方が良かったんじゃないか?」
「え、だって……襲われたら、反撃しますわよね?」
「反撃の手段を考えろ」
何のためにオレが炎を投げたと思ってるんだ。溜め息を吐いて、生えてくる緑の何かを焼き払った。
細かく切ると分裂するタイプらしい。高温の炎で炙られて減っていく新芽に気を取られたルシファーは、近づく触手を一本見落とした。ぐいっと右足首に絡みつかれ、引っ張られる。
「うわっ」
声を上げたものの、結界越しなので感触はない。ただ引っ張られた勢いで転びかけ、咄嗟に浮いた。ふわふわと地に足のつかない魔王が、触手によって茂みへドナドナされていく。冗談みたいな光景に、奮起したのは大公女達だった。
「くらえ! 風の太刀!!」
「え、何それカッコいい。えっと、切り裂け、水刃!」
シトリーが厨二な名前を付けた風魔法を放つと、真似たルーシアが水の刃を飛ばす。ルシファーの髪を掠めながら、それぞれに茂みへ突き刺さった。なお、純白の髪は結界で保護されているので被害はない。ただ至近距離を掠めたので、ルシファーがびっくりした程度だ。
魔法に厨二名称を付けるのは、アベル発祥だった。さすがに特許は取れないが、ゲーム知識を活かして「疾風の刃」とか叫びながら、魔物狩りを行った。それを見て、同行した大公女達が真似をしているのだ。
「この腕は切るか燃やすか」
うーんと考えながら、ひとまず燃やす。炎に耐性がないので、燃やす一択だろう。ただ茂みに隠れた本体は、火を放つと延焼の可能性があった。森の茂みは生木なので簡単に燃えないのだが、ルシファーの火力は馬鹿に出来ない。
燃えて灰になった触手から解放されたルシファーは、地に足を付けて眉を寄せた。
「引っ張り出すのが早いな」
作戦を決めれば迷わない。茂みを大地の魔法で掻き分け、風で保護しながら敵を包み込んだ。魔力で特定した獲物を引きずり出せば、あまりの大きさに目を見開く。正確には大きいと表現するより、長いの方が近かった。
ずるずると丸めながら引っ張り出した触手は徐々に太くなり、最後にナメクジのような本体が現れた。触手自体はほんのり緑だが、本体は茶色い。
「大きなナメクジね」
感心した様子のリリスは、ぶんぶん振り回すイブの手を掴んで一緒に回しながら呟く。彼女は虫も爬虫類も気にしない。だが、この中にナメクジが大嫌いな者がいた。
「ち、近づくなっ!!」
全力で炎を作り出し、投げつけたのはレライエだ。その悲鳴に慌てて駆け付けた夫、翡翠竜のアムドゥスキアスがブレスを放つ。妻を脅かす敵を倒し、そのまま彼女の腹部にしがみついた。
「アミー、無事か!」
燃えるナメクジもどきは、なんとも言えない悪臭を発した。その臭いに気絶した息子を助けに、人狼である父ゲーデが決死の思いで飛び込む。鼻を両手で摘んでいるのはご愛嬌だろう。彼らごと結界で包んで匂いを遮断し、ルシファーは溜め息を吐いた。
「何事もなく終わった頃の即位記念祭が懐かしい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます