153.黒真珠のお目覚め待ちかな
爆発の理由が分かったところで、魔法陣の話に移った。黒真珠が目覚めるまで待つ必要はあるが、惚れたと豪語するルキフェルが尋ねたら、何でも答えてくれそうだ。ほぼ解決したと言ってもいいだろう。楽観的な雰囲気が広がった執務室で、ルシファーが首を傾げた。
「結局、真珠が魔法陣を書き換えたのか?」
「これからそれを解決するのですよ」
アスタロトに言い切られ、なるほどと頷く。ルキフェルは黒真珠から距離を取り、絶対に近づけないでとベールに頼んでいる。おおよその状況を悟った魔王は、肩を竦めた。一方的に好意を寄せられることに慣れたルシファーは「面倒なんだよな」と苦笑いする。
最愛の妃リリスは、ルキフェルに先ほどの「嫌い」を撤回した。兄妹に似た関係なので、ここでルシファーが嫉妬することはない。甘やかされたリリスはやや赤い頬で、夫の隣に腰掛けた。私室から取り寄せたベビーベッドで、イヴはすやすやと眠る。周囲が煩くても気にしない辺り、母親譲りの豪胆さの賜物だろう。
「黒真珠は起きたか?」
「外見で区別が出来ないのが困りものですね」
一見無機質な宝石のため、顔があるかどうかも分からない。あったとしても発見できなければ同じなのだが、変な場所に触って騒がれたら困るので宝石箱に戻された。素手で触るのはやめることが決まる。一応、女性として扱うことになったのだ。
「海の騒動が収まらないと、住人が次々地上に上がるのでしょうか」
ベールは治安の心配を始めた。外見上で生き物と区別できない珊瑚などが魔族に分類されたら、どのように管理するべきか。今後の扱いが難しく、悩みが尽きない。
過去にただの宝石として分類され、宝飾品に利用された真珠の中に意思疎通が可能な者が混じってないか。もしいたなら、所有権を持つ魔族に権利放棄を頼まなくてはならない。高額商品の場合、魔王城で買い取ることも検討する必要が出てきた。買取問題になれば、文官のトップであるアスタロトの担当だ。
「見分ける方法が必要だよね」
その辺は判別用の魔法陣を発明する研究所の長、ルキフェルの出番だった。あちこちの部署に飛び火するが、魔族の頂点に立つのは魔王だ。その下に大公、大公女と並ぶ。全員が何らかの形で各部署に所属している今、連携はわりと簡単だった。
「触って話しかけたらいいんじゃないの?」
リリスはきょとんとした顔で尋ねる。黒真珠は触れたら会話が出来たのだ、同じ原理で行けるだろう。そう言われ、ルキフェルは首を横に振った。
「無理だよ、だって今みたいに気絶されたら? 会話が出来ないでしょ。長期の眠りにつく習性があれば、もっと困るじゃん」
「うーん、難しい話になっちゃったわね」
黒真珠から聞き出すしかないか。そんな雰囲気で、全員の視線が宝石箱に集中する。これが人なら、注目され過ぎて起きづらい環境だった。寝たふりを続ける状況だ。
「今日はひとまず解散しよう。黒真珠と会話が出来るようになったら、また集まるのが効率的だ」
ルシファーの提案で、大公達が一礼して部屋を出た。アスタロトは執務室を出た後、書類を各部署へ届け新しい書類を手に戻る。ノックして入室すると、イヴがベビーベッドの柵に掴まり立ちしていた。
「おうぅ! あぶぅ!!」
何かを訴えるが、残念ながら言葉が理解できない。曖昧に微笑んだアスタロトへ、ぶるぶる震える足で踏ん張りながら手を伸ばす。誘われるように近づいたところで、間に入り込んだルシファーに遮られた。
「うちの娘を誑かすな! ったく、おいで。イヴぅ、パパだよぉ」
甘い声で囁くものの、娘イヴに「ぶぶぶっ」と尖らせた唇で抗議され……最強の魔王は撃沈された。
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