151.魔王の色気は真珠に通用するか
ただ、真珠の違いを知りたかっただけなのだ。別に年齢を女性に尋ねる気はないし、そもそも真珠の性別なんて知るはずがない。そう説明しながら、妻リリスに許しを乞う魔王は、浮気の嫌疑をかけられていた。
「あんな近くで囁くなんておかしいわ!」
「陛下ならあれが標準よ。いわゆる天然タラシね」
前半部分で擁護したのに、後半がざっくり致命傷の発言をしたベルゼビュートは、からりと笑う。自分が失言をしたと気づかないのは、ある意味才能だった。
「やっぱりタラシたんじゃない!」
「タラしてない!! ベルゼは黙ってろ」
「そういう言い方はないわ」
「リリス、オレはリリス一筋だぞ」
夫婦の会話に、ぼそっとルキフェルが嘴を突っ込む。呆れが滲む本音だった。
「あのさ、いい加減飽きない? ずっとリリスに夢中で鬱陶しいんだけど」
兄と慕うルキフェルの言葉に、リリスが頬を染めた。ずっと夢中? 鬱陶しいくらい? いやんと両手で頬を包んできゃっきゃと体を揺らす。愛らしい仕草は未婚令嬢のようだが、立派に既婚の魔王妃殿下である。
『えっと……私が原因ですか?』
騒動の発端である黒真珠は、この騒がしい状況の理由を理解していなかった。魔族って元気なんだな、程度の感覚で眺めていたが。先ほどの発言が原因と知り、少し反省したらしい。
『ごめんなさい。私、世間知らずなんです』
「それは知っています」
アスタロトにぴしゃりと切られてしまった。現在、黒真珠はベールとアスタロトの聴取に付き合っている。真珠が爆発した原因と、爆発後に魔法陣が書き換えられた状況の説明を求めたのだ。どちらも魔王城の安全に関わる重要な問題だった。
真剣な質疑応答がなされる大公の隣で、魔王夫妻は行き違いのすり合わせを行なっていた。
「オレがリリス以外の女性に目を向けるとしたら、それは……イヴだけだ」
「イヴは許すわ。私にとっても娘だし……でも結婚はダメよ」
パパと結婚する――娘を持つ父親の夢を打ち砕くリリスだが、すでに彼女自身がルシファーに対して発言して実現している。穏やかな笑みを浮かべて、ルシファーは頷いた。揺れる純白の髪を握り、リリスがそっと目を閉じる。誘われるように近づき、純白の髪に隠れた唇同士が重なる……ところで、思わぬ妨害が入った。
「え?! 海の一族はそれが普通なの? すげぇ、研究したい。ルシファー、いつ海に行ける?」
真珠から話を聞いて興奮したルキフェルが、後ろを見ないままルシファーの袖を掴んで引っ張った。重なるはずの口付けはややずれて、リリスの頬に触れて終わる。
「ロキちゃんなんて大嫌い!!」
「え? 何?! 僕何かした?」
きょとんとしたルキフェルの態度も癪に触ったらしい。リリスは怒って広間を出て行った。追いかけたくてそちらに数歩踏み出し止まったルシファーへ、アスタロトが苦笑いする。
「いいですよ、追いかけてください。聴取はこちらで終わらせますから」
「あなたは失言が多いですから、いない方が助かります」
辛辣な言い方で背中を押すベールに「ああ、頼んだ」と残し、ルシファーは足早に追いかけていった。ひらひらと揺れる髪が、その慌てぶりを示しているようだ。
「あ〜あ、ルキフェルったら。本当に空気を読めないのよね」
「ベルゼに言われたくない」
ムッとした口調で唇を尖らせたルキフェルは、水色の前髪をかき上げた。広間の隅で蹲っていた護衛のヤンが、いそいそと魔王夫妻を追いかける。厄介な場面に遭遇しなければいいが……そんな心配をよそに、ヤンは慣れた様子で茂みに飛び込んだ。
主君の居場所を匂いで特定したら、後は身を隠して待つ。呼ばれなければ頭を出さない。ヤンは護衛としてしっかり成長していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます