140.奥様達の息抜き、女性会議の必要性
朝食の後にお昼寝をしたことで、リリスは元気いっぱいだった。まだ魔法陣の小型化と整理に夢中のルシファーを放置し、自分の仕事を果たしに出かける。もちろん愛娘イヴも一緒に。というのも、大公女達との集まりが予定されていた。そのままランチに突入する予定なのだ。
「行って来るわね、ルシファー」
「ああ、城の敷地内だよな?」
「ええ。ベルゼ姉さんの温室を借りるの」
薔薇が咲き乱れる温室は、精霊女王のお陰でいつも快適だ。花々は鮮やかに花弁を揺らし、緑も元気だった。温室なので寒さや暑さも防げる。快適なお茶会の場所として、リリスに認識された。大公女達を誘ってのお茶会は、大半がこの温室を利用する。
幼子を連れた大公女達も、子どもが行方不明になる心配がない。温室の出入り口に軽い魔法をかけるだけで、子ども達の安全が図れるのは便利だった。薔薇の棘が刺さることもあるだろうが、それも経験のひとつと自由にさせる。この点は魔族らしい子育てと言えよう。
ルシファーに手を振り、護衛のヤンを連れて温室へ向かった。途中で行先を察したヤンが、大型犬サイズに縮んだことで入り口をすり抜ける。常設された応接セットには、すでにお茶会の用意がされていた。魔王城の侍女は優秀なのだ。
「予定通りね」
「遅れてごめんなさい」
すっとソファに腰掛けたリリスの前に、ルーサルカとレライエが待っていた。お互いに子連れで集まれるのは、仕事をするうえで非常に便利だ。駆けこんできたのはルーシアだった。遅れてしまったと息を切らす彼女は、水色の髪をかき上げる。今日は珍しく結んでいなかった。
姉妹の妹アイカだけを連れたルーシアは、空いていたソファに腰を下ろす。長椅子側に座ったルーサルカは次男のリンを、その隣のレライエは小型の琥珀竜を膝に乗せていた。イヴを含め、ほとんどが幼児と表現できる年齢だった。一番上のアイカでさえ、まだ4歳だ。
「遊んでていいわよ」
許可を出したルーシアの手を解き、娘アイカはヤンへ一直線。ヤンも慣れたもので、中型程度の大きさまで体を調整した。子どもの世話をするようになってから、新しく覚えたフェンリルの能力だ。以前は小型化と元の大きさしか選択できなかった。
大型の熊程度の柔らかな毛皮にダイブしたアイカを追って、よく一緒に遊ぶリンが走っていく。よちよち歩きを卒業寸前なので、たまに派手に転ぶ。今回は無事にヤンまで走り抜けた。抱き着いて大喜びする子ども達を穏やかな眼差しで見守るフェンリルは、すっかりお爺ちゃんだった。
琥珀竜のゴルティーは眠いらしく、瞬いては欠伸を繰り返す。イヴもうとうとしているので、一緒にソファに横たえた。手に触れた鱗に興奮したイヴが「あぅ!」と抱き着く。ゴルティーが短い手足で咄嗟に受け止め、ソファの上を転がった。
「あら」
落ちないよう魔法を使うリリスは、一緒に遊ぶゴルティーが平気そうだと判断してソファに身を沈めた。
「魔王城って、本当にトラブルだらけよね」
「聞きましたわ、先日魔王陛下がアスタロト大公閣下と入れ替わったとか」
「そうなのよ。アシュタの外見でルシファーが話すからおかしくって」
思い出して笑うリリスは無造作にお菓子を口に放り込む。重要な会議という名目で立ち入り制限の看板を掛けたが、実際は奥様達の息抜きの場だった。こういう会議は「女性会議」と呼ばれ、侍女や他の使用人にも認められている。労働条件のひとつでもあった。
「今日はシトリー、来ないの?」
「えっと、何だっけ。新しい保育園の方で問題があったみたい」
「やだぁ、本当にトラブル多いわ」
「魔王様の件は、結局何が原因だったんですか」
「分からないわ。ロキちゃんが調べてる」
お茶とお菓子が終わるまで、奥様達のおしゃべりは薔薇以上に大輪の花を咲かせ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます