69.親を呼び出す騒ぎに発展
普段は人気が高く、なかなか乗せてもらえないガミジンの背中は、レアアイテムだ。ごねる子を宥めるため、ガミジンは背中に彼らを乗せた。少年二人は徐々に表情が和らいでいく。
「先生の背中、広いね」
「楽しい! ずっと乗ってたい」
ずっとは無理だけど、時々ね。そんな言葉で気を逸らしながら、魔王城の城門で取り次ぎをするアラエルに事情を説明する。かいつまんでの説明だが、大まかに理解したようで頷いた。
「ふむ、ならば義母殿にお願いしよう」
「義母ではないわ! このバカたれが!! 我は気高きフェンリルぞ」
ぷんすか怒りながら、ヤンが伝令に走る。先日開発された連絡用魔法陣を使おうにも、現時点で使用不可能だった。ピヨがその上で昼寝をしているのである。発動させても安全か判断できず、二人は走る方を選んだ。ヤンも何だかんだ甘いのである。
走るフェンリルを見送り、城門の内側でぐるりと回る。親が務める職場なので、見慣れた庭が続くが……高い場所から見ると景色が違う。ワクワクしながら楽しんだ。風のように駆け戻ったヤンが頷く。
「こちらへ参れ」
案内されて城に近づき、玄関ホールに入ったところで、少年二人は我に返った。そうだ、叱られに行くんだった! 慌ててガミジンの背から飛び降りようと試みるが、高くて怖い。結局しがみついて、そのまま運ばれてしまった。
先日侵入した部屋ではなく、一階にある応接室へ通された。微笑む侍女がお菓子やジュースを並べるものの、緊張してガチガチである。子ども達には、偉い人に叱られる恐怖しかなかった。お父さん達に迷惑を掛けたら、もう許してもらえないかもしれない。
肩を落とす子ども達をよそに、ガミジンは薄焼きの野菜煎餅が気に入って忙しく口に運ぶ。
「君達も食べておきなさい。美味しいぞ」
バリバリ噛み砕くガミジンの口は煎餅で満ちており、言葉は不明瞭に届いた。故に、子ども達はこう誤解する。君達を食べるそうだ、きっと美味しいぞ――と。
青ざめたコリーが意識を失い倒れ、咄嗟にしがみついたテッドが泣き出した。食べられてしまう。魔王様は人喰いだと、これまた大声で泣き叫んだ。そこへ扉を開いたルシファーは立ち止まり、自分の姿を上から下までチェックする。ゆっくり振り返り、付き添うアスタロトに首を傾げた。
「オレ、そんなにヤバい奴に見えるか?」
「魔王というだけで畏怖されるのは宿命です」
「うん、魔王やめる」
「良いのですか? リリス妃もイヴ姫も明日から路頭に迷うのですね」
「やっぱり頑張る」
ころりと意見を変え、ルシファーは真顔で頷いた。多少罵倒されても我慢する。そんな彼も、見覚えのある付き添いに目を見開いた。漫才のようなやり取りを微笑ましく見つめるガミジンは、変わらないなと呟く。
「ガミジンではないか。久しぶりだ、あの頃は世話になった」
「いえいえ。こちらこそ、リリス様のお世話が出来て幸せでした。今回は突然の面会希望ですみません」
「ああ、その子らが犯人だったとか」
ちらっと視線を向けた先で、大泣き中のテッドはコリーを庇うように覆い被さっている。友人を守ろうとする姿は立派ですとアスタロトが褒めた。しかし当人達の耳に届いていない。
どうしたものか。大人ならば威厳を醸し出す大仰な魔王バージョンで応じるが、相手は子どもである。それも、まだ保育園に通う年齢だった。幼すぎて脅すのも可哀想だが、迷惑を被ったのも事実だ。無罪放免は今後のために良くない。
「この子達の親を呼んではいかがでしょう」
アスタロトの提案は、とても素晴らしく思えた。親が来れば安心して泣き止むだろう。そうだ、幼子はすぐに泣く。動揺してはいけない、育児の経験があるだろうと自らを叱咤する魔王は、侍従ベリアルに命じた。
「この子らの親をここへ」
お父さんとお母さんも、俺のせいで殺されちゃうんだ!
「うわぁああああん!」
さらに大声で泣き出した子に遠慮して、ルシファーは向かいのソファに座らなかった。離れた壁際に立つ。その隣に、呆れ顔のアスタロトが並んだ。主君が立っているのに座るわけに行きません。建前を口にしながら、今回の事件の落とし所を考え始めていた。
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