66.魔族大決起集会に改名されていました
会議は珍しく時間通りに始まった。あれだけ言われれば、さすがの魔王も遅刻できない。何より今回は自分が悪さをしていないことが大きかった。叱られないなら、さっさと会議を済ませてイヴやリリスと過ごしたいルシファーである。
「さて、500年に一度の魔族大決起集会についてですが」
「そんな名前だったっけ?」
もっと穏やかな名称じゃなかったか? 首を傾げるルシファーへ、ベールが淡々と告げる。
「1000年前に改名しました。ちょうど会議中に勇者一行が乱入し、被害者が出たことで決起大会になった経緯があります」
「だよな、様々な種族が一斉に集まる「二大陸魔族勢ぞろい飲み会」だったはず」
「陛下、間違っています。二大陸合同魔族総大祭でした」
全然違う。そんな顔をしたリリスの隣で、ルキフェルはイヴにちょっかいを出していた。頬を突いてむずがる姿に頬を緩める。ベルゼビュートは抱っこした息子に手を焼いていた。妊娠期間3年、産まれて7年なのに外見はまだ1歳前後と手がかかる。
「おむつが濡れたかしら」
「ベルゼ姉さんは布タイプ?」
「いいえ。最近発売された魔法陣タイプよ」
「あれ、使い勝手がいいわよね」
母親目線で盛り上がる彼女らに、発明者のルシファーがにやりと笑う。汚物を選別して指定場所へ転送する魔法陣は人気が高かった。ここ十年ほどで一番のヒット商品である。魔王城の城門前の売店は今日も盛況だろう。
「おむつの話は後回しです。昨日の署名押印が消去された事件の現時点での報告書です」
アスタロトは疲れ切った顔で報告書を手渡した。さっと目を通す男性陣をよそに、女性達は哺乳瓶の保温方法について盛り上がる。魔法陣派も多いが、意外と収納派もいた。だが収納空間を操れることが前提なので、リリスやベルゼビュートを含め少数なのだ。
「全員が使えるように出来たらいいのに」
「難しいですわね。あたくしも考えてみたのですけど、他人の収納空間を利用できない以上どうにもならなくて」
共有の収納空間があればいいのよね。そんな結論に至り、二人はうーんと唸った。収納は個々に亜空間を使用する魔法だ。第三者が手を突っ込んで物を持ち出すことは出来ず、それゆえに重要なアイテムを保存するのに適していた。
「リリス妃、ベルゼビュート。こちらの仕事を片付けてからにしてください」
溜め息交じりにベールが遮る。慌てて今回の騒動の報告書に目を通した。最後に部屋を出たのはアスタロト、お茶の時間が近いことを確認している。その後誰もいない時間が数十分続き、扉からの侵入者はなかったと侍従達が証言した。
誰もいないはずの部屋に残る魔法を行使した痕跡と、綺麗に消えた署名や捺印……知らずにやったのか、わざと消したのか。動機ややり方に関して、様々な部署から出された推測が並んでいた。
「そういえば、消えちゃうのよね」
ベルゼビュートが気の毒そうにルシファーを見る。あの部屋にあったなら、すべてルシファーの決裁が必要な書類だ。やり直すのは魔王ルシファーである。だが、当人はこの報告書で初めて知ったらしい。目を丸くした後、考え込んでしまった。
「心当たりがあれば、事前に話してくださいね」
アスタロトは書類の確認や処理で寝不足の目を瞬いた。表情が不機嫌そうなのは、疲れからだろう。肉体的なものではなく、ほぼ精神的な疲れだ。魔王城の重鎮である彼らは、緊急時は数ヵ月の睡眠を返上で動ける体力があった。だが思わぬ状況で、必要以上のダメージを負ったらしい。
「魔力の痕跡を辿るのは僕がやるよ。魔法を使ったなら、魔力が残ってるでしょ?」
ルキフェルは報告書を閉じながら、協力を申し出る。しかしアスタロトは首を横に振った。
「そう簡単な話ではないのです。魔力が弱すぎて追えませんでした」
……沈黙が落ちる。それから全員がルシファーを見た。結局のところ、犯人を捕まえられない可能性が高く、ルシファーが一人で書類を再処理するしか解決方法がない。純白の魔王は大きく息を吸って、すべて溜め息として吐きだした。
「わかった、処理する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます