26.魔法を打ち消す魔法……?

 後日改めて自動修復魔法をかけ直すことになったが、明日から登校なので危険である。先程のようにドラゴンの子も通うのだ。友人と遊んでいて、パンチした壁が崩れて下敷きに……なんて事件は命取りになりかねない。


 子どもは宝なのである。臨時で、ベルゼビュートが魔法をかけることになった。魔法陣より魔法の方が感覚で使えて楽なのよ。そんなことを言いながら、きちんと地脈の位置を確認して魔力を繋いだ。ここで問題になったのは、現時点で建物の一部が修復中ということ。このまま固定すると、直した場所が異常と判断されて壊れる。


「安心して、時限式に出来るわ。明日の早朝に動くようにすればいいのよ」


 簡単そうに難しい魔法を駆使するあたり、ベルゼビュートも大公として有能な女性だった。ただこの魔法の時限式を開発した経緯が、悪戯がバレるのを防ぐためという情けない理由だったのは、大公と魔王しか知らない秘密だ。


「素晴らしいですわ」


「さすがはベルゼビュート様」


 褒められて満更でもないベルゼビュートは、ついでに魔法を奮発した。現状復帰、自動修復、範囲指定した学校敷地内に治癒魔法を上乗せする。これで学校内でケガを負っても、即死でなければ助かるはず。


「とても助かりました」


 シトリーに感謝され、上機嫌でベルゼビュートは城に戻った。魔王城の執務室はおそらく嵐の真っ只中だ。せっかく気分良く帰ったのだから、このまま休もう。夫エリゴスと過ごす自室へ直行した。


 故に彼女は知らない。ルーサルカのおかげで早く終わった説教の後、ルシファー達が思わぬ議論を繰り広げたことを……。




「陛下はまた騒動を起こしたのですね」


「違うって! リリスの魔力はオレに同調してた。つまりリリスの影響じゃない。イヴだと思う」


「いくら叱られたからって、イヴのせいにするのは間違ってるよ。ルシファー」


 もっともな指摘をするルキフェルへ、ルシファーが新しく説明を加えようとしたところで、リリスが魔力の色の話を始めた。


「あのね、ルシファーの色は銀、私は自分の色が見えないでしょ? 水色の魔力が干渉したのよ。それがイヴなの」


 妹同然に可愛がるリリスの発言に、ルキフェルは180度意見を変えた。


「そうなんだ? 興味深いね。魔王と魔王妃の魔力を打ち消すなんて」


「……ルキフェル、さっきまでのオレへの態度と違うんじゃないか?」


「そう? 僕はいつもこんな感じじゃない」


 けろりと大嘘を吐くルキフェルは、水色の髪をぐしゃりと掻き乱した。それから首を傾げて、うーんと考え込む。


「魔力を打ち消す魔力……魔法の無効化と同じなのかな」


 黙って考えていたアスタロトが思わぬ提案をした。


「考えていても分かりませんから、試してみてはいかがでしょう」


「というと?」


 ルキフェルがぽんと手を打つ。


「そっか! 同じような状況を作って、イヴが魔力を使うところを確かめればいいんだよ。解析魔法陣はたしか……この辺にあった」


 ごそごそと空中へ手を突っ込み、魔法陣が記された紙束を引っ張り出す。捲って探すルキフェルが、1枚を選び出した。


「これだ! よし、実験しよう」


「周囲に実害のない魔法でお願いします」


 ベールにちくりと嫌味を言われ、全員で中庭へ移動する。だが以前と違い、今の魔王城の中庭は転移魔法陣が大量に敷き詰められていた。地面が模様のように魔法陣で埋め尽くされた場で、事故が起きれば取り返しがつかない。


 仕方なく研究棟がある裏側へ回った。安全な魔法ということで、獣耳が生える魔法を試す。これなら生えても打ち消して消せば問題ない。この魔法はお祭り用に開発されたものだった。


 花火などと違い実害がないので、すぐに発動させる。リリスが魔力を上乗せすると、イヴが目を輝かせた。

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