21.言い訳の間に自白するあたりが憎めない
急遽召集された幹部会議だが、ルシファーはもちろん除外された。普段は会議など面倒だから嫌いだと言い放つ魔王も、呼ばれないと逆に気になる。天邪鬼な性格のルシファーは、リリスと一緒にこっそり覗きに行った。
謁見の間の隣にある控室を使うと聞いたので、その隣室に忍び込んで声を盗み聞きしようと試みる。部屋の中に誰もいないのを確認し、こそこそと壁に近づいた。魔法を使うと魔力でバレるので、結界で自分達を隠したうえで物理的に声を拾うしかない。
うぁ? イヴが何かを見つけて声を上げる。釣られて天井を見て……ルシファーは慌てた。天井にいたコウモリに顔色を青くして言い訳を始める。あれは吸血種が使う分身だ。アスタロトにバレた!?
「ち、違うぞ、これはその……そう、イヴに城内を案内してただけだ。決して覗きも盗み聞きでもない。偶然だ、この部屋に入ったのは、謁見の間に行く途中だったから……絶対に探りじゃないぞ」
必死に言い訳する間に、自白してしまう辺りがルシファーの可愛いところだった。少なくとも側近達はそう思いながら隣室で苦笑いする。絶対に様子を見に来ると思ったのだ。そのためアスタロトの分身であるコウモリを天井の角に潜ませていた。
案の定入り込んで聞き耳を立てる魔王夫妻の姿をじっくり拝んだところで、ちょっと魔力を高めて発見させる。慌てふためく姿を見て満足したアスタロトが、扉をノックした。びくりと肩を揺らし、この場に及んで隠れようとするルシファー。間に合わずにイヴとリリスだけ後ろに隠した。
ここで妻と子供を庇うところは好感が持てますね。
「何をしておられたのですか? ルシファー様」
陛下と公式の呼び方をされなかったなら、それほど怒っていないのか? まだ用心してしまうのは、この対応に安心して失敗した過去があるためだった。単純そうに見えて、意外と経験を積んでいる魔王なのだ。彼は楽観的過ぎるだけで馬鹿ではなかった。配下が優秀過ぎるだけである。
「イヴに魔王城を案内しているだけだ」
「そうですか。後ろにリリス様とイヴ様がおられるのは、その所為ですね」
「あっ……」
せっかく後ろに隠したのに、一瞬でバレた。こういう素直さが憎めないのです。内心で微笑ましく感じながらも、叱るところは叱らなくてはならない。魔王が魔王城で何をしようと自由だが、配下の会議を盗み聞きするのが外聞が悪かった。
「てっきり盗み聞きにいらしたのかと思いましたよ」
「そ、そんなはずがないであろう!」
仕事口調になるほど動揺するルシファーが目を逸らす。その後なんとか言い訳を押し通して部屋を出て、リリスと足早にその場を去る。
「危なかったわね、ルシファー」
「本当だ。アイツは地獄耳だからな」
「おや、誰のことでしょうか?」
ひっ! 悲鳴を上げて首を竦めた魔王と魔王妃が振り返った先、後ろで微笑む側近アスタロトが笑う。その黒い表情に二人は「何でもない」と口を揃えて逃げ出した。その足並みも綺麗に揃っており、見送るアスタロトは口角を上げる。
「そんな意地悪ばかりしていると、そのうちやり返されるわよ?」
通りかかった侍女長で妻のアデーレが釘を刺すものの、アスタロトは肩を竦めて受け流した。
「平気ですよ、8万年も同じですからね」
侮ってると痛い目を見るって、教えてあげたいわ。その後、アデーレの入れ知恵でルシファーやリリスの悪戯の練度が高くなるが、まあ自業自得だろう。魔王夫妻を間に挟んで楽しむ側近夫妻であった。
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