16.育児や出産に配慮した結果の学校
休暇を終えたルーサルカは出勤し、思わぬ事態に呆然とした。休み前に整理整頓したはずの机が、大量の書類に埋もれている。1日余分に休んだかと青褪めて確認するが、間違いはなかった。急な事件があって報告書が届いたにしても多すぎるわね。眉を寄せて書類を確認し、がくりと膝をついた。
「よかったぁ」
安心して全身から力が抜けた。というのも、これらは感謝の手紙らしい。つい先日女性の権利を強化する法案を提出し、採択されたばかりだった。魔族は男女平等どころか、種族によっては女性の方が強い。しかしそれは通常時に限られた。
出産、育児に関する男性魔族の協力が少なすぎる。アンナと協力し、その部分を盛り込んだ改善策と共に法の改正を要求した。そもそも女性が出産するのは男性にも責任がある。子どもだけ授けて、あとは知りませんが通らないように権利と義務をきっちり明文化した。
義父アスタロトはもちろん、女大公であるベルゼビュートや残る二人も賛同を表明する。魔王ルシファーに至っては育児経験者なので、その苦労をよく知っており協力的だった。この法が公布されたのがつい先日で、各地の種族の女性から手紙が届いたらしい。
手紙は目を通して順次返答するにしても数が多過ぎる。ひとまず部屋の一角に積むことにした。廊下を歩く侍従のコボルトに頼むと、すぐに書類を入れる棚が運び込まれる。手紙を開封して確認しつつ棚に並べた。
「やだぁ! どうしたの、これ」
別の書類を運んできた事務官のアンナが叫び、彼女を手招きして手紙を見せる。感動したアンナも手紙の整理を手伝い始めた。
今まで育児は女の仕事と言って手を出さなかった夫が謝ってきた。家事をまかせっきりだったのに、掃除や洗濯ものの取り込みを手伝ってくれる。などなど、具体例が書かれた手紙もあった。日本でも同様の事例があったと笑いながら、アンナは手紙を丁寧に棚に積んでいく。
「手紙の返事は私も手伝うわね」
「お願いするわ」
アンナの産んだ双子は、近々学校へ通う予定になっている。現在は執筆で忙しく、魔王城の仕事を退職した夫イザヤが面倒を見ていた。
新しく作られる学校は、もうすぐ開校予定だ。今まで学校は各種族が運営してきた。考えも育ちはもちろん、習慣や食べ物も含め何もかもが違う。飛べる種族もいれば、泳ぐことに長けた種族もいた。それらを集めて画一的な教育をしても無駄になる。
教育関連の発展を望むシトリーは、そこで新たな考え方を取り入れた。高等技術や専門的な知識を蓄える学校の創設だ。これにより、大人や子どもの区別なく通える環境を作る。それらの高等教育を受けるために必要な知識や文字の読み書きを教える学年も用意した。
これにより、過去の学歴や育ちに関係なく教育を受けられる。さらに各地を結ぶ転移魔法陣が出来たことにより、地方から通うことも可能となった。親元を離れず通うなら、両親も渋る必要はない。学費は簡単なテストに合格すれば無料にした。
種族や家の裕福に関係なく通い、好きな勉強が出来る。それは魔族にとって画期的なシステムだった。考えたシトリーは、魔王や大公を始めとして様々な種族の長や友人の手助けを請うた。出来ることをいくつも積み重ねて、10年かかって夢を形にしたのだ。
手伝った甲斐があったと笑うアンナも、我が子を通わせる。もちろん、ルーサルカの長男も通うと口にした。皆が望む開校日は迫っており、大公女達は忙しくサポートに走り回る日々だ。
「ねえ、リリス様とお子様の様子を見に行かない?」
「いいわね」
二人は棚に手紙を積み終えたタイミングで、手を休めて部屋を出る。閉じた部屋の中で、棚に入りきれなかった手紙が崩れて床を埋め尽くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます